2000年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

1999年の回顧と2000年の展望 -1-


はじめに

97年の途中から見てきた私の駐在員報告も3回目の「回顧と展望」を書く時期を迎えた。91年から続いている米国の景気拡大を支えてきたITは、きわめて大雑把に言えば、最初の3年間が企業リエンジニアリングを支えてきた時代、そして次の3年間がインターネットの導入から定着の時代、そして97年からの3年間がインターネットの爆発的拡大によるデジタル・エコノミーの幕開けの時代、とでも言うことができるかもしれない。新ミレニアムを目前にした1999年は、Y2Kと言う特別な問題を別にすれば、この駐在員報告のほとんどがインターネットとEコマースに関連するものであった。2000年もこの方向に変わりはないだろう。従って、1年前の報告と同様に、Eコマース、メディア・ビジネス、PCその他の動向ということで書いてみたい。


1.Eコマースの拡大

(1)Eコマースの環境整備

 Eコマースについて、1999年の政策的な動きをまとめようと思い資料を整理していたところ、12月17日にホワイトハウスから立派なレポートが発表された。米国政府のEコマース・ワーキング・グループ(議長:デビッド・ベイエ副大統領主席内政顧問)がまとめた「Towards Digital eQuality」(http://www.doc.gov/ecommerce/ecomrce.pdf)と題する65ページに及ぶもので、97年7月のクリントン大統領の「グローバル・エレクトロニック・コマースのフレームワーク」以降、98年11月の第1回年次報告に続く、第2回という位置付けの報告書である。フレームワークの進捗状況と、第1回年次報告で示した新たな課題(ブロードバンド、消費者保護、途上国、経済的インパクト、中小企業の5つ)の達成状況、そして次の新課題の設定などが、もれなく整理されており、これを読んでいただければ全てがわかってしまい、私の解説など入る余地もない。が、以下にエグゼクティブ・サマリーの部分(前書きは省略)を訳出しておく。


Eコマースへの信頼の高まり:消費者保護、プライバシー、セキュリティー

消費者が信頼してウェブでものを買えるようでなければ健全なEコマースの成長はあり得ない。デジタル経済を発展させるためには、買物客に通信が安全で個人情報が保護されており、彼らが買ったものが手に届き、またどこからでも安定したインフラを通じて買い物ができると言うことを保証してやらなければならない。消費者の信頼を勝ち得るためには、自主規制のメカニズムを強化し、既存の法規制をしっかりと適用していかなければならない。そのため、政権としては、

  • オンラインでの消費者保護を効果的にするために、業界による自主規制の奨励と、詐欺行為や不正広告の積極的な摘発を、既存の消費者保護法制下で行ってきた。
  • オンラインでのプライバシー保護を最も効果的に行うべく、民間セクターにおける自主規制コードの開発を成功裏に促進した。プライバシー・ポリシーを掲げているウェブサイトはわずかこの1年で14%から66%になっている。政権はまた、医療記録、金融記録及び子供のプライバシーについては法的保護の拡大を支持して来た。
  • 政権の暗号政策の変更により、米国企業は暗号製品を輸出する新たな機会を得、世界中の個人や企業に対して強力な暗号の便益をもたらしてきた。その一方で、公共の安全と国家安全保障と言う法的関心事項にも配慮してきた。
  • 大統領通達63号で定めたクリティカル・インフラストラクチャー・プログラムを通じて、通信インフラの安全性と信頼性を高めてきた。クリティカル・インフラストラクチャー調整グループは、「情報システム保護の国家計画」の第1版を策定し、連邦政府に情報セキュリティーのモデルを示し、情報インフラ保護のためのボランタリーな官民パートナーシップを構築した。
  • 大統領2000年変換委員会は、様々な産業セクター、国際機関及び世界各国と協力し、Eコマースが依存している通信及び情報処理システムに、Y2Kが致命的な問題を及ぼすことのないようにしてきた。同委員会の情報コーディネーション・センター(ICC)は政府や民間のオペレーション・センターと協力して、ロールオーバー時のクリティカル・システムのオペレーションの状況をモニターし、報告することになっている。


インターネットの成長の促進

本年、競争促進政策を推し進めることで、我々はインターネットの成長に重要なステップを踏んできた。特に政権は、

  • 高速インターネット・サービスの採用を促進するため、競争者が市場に参入できることを保証する政策を提唱する一方、同サービスの採用を妨げるような規制を撤廃する政策を支持してきた。
  • Eコマースのビルディング・ブロックである通信サービスと情報技術製品の市場開放交渉に成功してきたとともに、WTOのルールとコミットメントをEコマースにも適用するよう、国際的なコンセンサスを作り上げてきた。
  • ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)とネットワーク・ソリューションズ社(NSI)との合意を取り付けたことで、ドメインネーム・スペースの更なる発展と新ドメインネーム登録サービスへの競争導入を見込むことができた。これらの発展は消費者の選択肢の増大と価格の低減をもたらした。世界で70以上の機関がICANNからドメインネーム登録サービス機関として認定を受けるとともに、ドメイン登録の卸売り価格は33%低減した。

 加えて、政権は本年、ハイテク産業における継続的な投資と技術革新を通じてインターネットとEコマースの成長を促進する助けになるいくつかの法的な成果を上げており、それらは、

  • 研究開発税クレジットのかつてない5年間と言う長期の延長。これにより研究開発への民間の新たな投資を促進できる。この制度により技術進歩が促進され、生産性が高まり、新たな米国内のジョブが生み出される。
  • 情報技術や次世代インターネットに対する長期の重要な研究開発投資。
  • 米国の技術革新企業や起業家にとって良い環境となるような特許システムの改良。この法規制により、特許プロセスに手続き的遅延があった場合の特許期間の延長、海外でファイルされる特許申請の国内でのタイムリーな公開の要請、米国の起業家や発明家に、より効果的なサービスが提供できるように、特許・商標局をパフォーマンス・ベースの機関にしたことなど、いくつかの面で米国の特許システムは強化された。


小企業の機会の促進

インターネットというのは、誰でもラップトップとモデムさえあれば、店舗を持つこともできるし世界の市場にアクセスすることもできる。我々は零細企業でも国内外の市場にアクセスできることを保証すべく努力してきた。全てのビジネスはインターネットの地理的到達性と収益可能性を利用できる機会を持つべきである。そのハイライトとしては、

  • 小企業が海外市場でものを売ることを促進するためのバーチャル・トレード・ショーの開発。
  • 電子的なビッド・マッチング・システムへの新たなアクセスを中小企業に提供。これにより、インターネットを通じてマイナリティの企業に販売機会を通知する。
  • 小企業に情報とその他のリソースを提供するオンライン・サービスの構築。


Eコマースのグローバル・フレームワークの推進

グローバル・リーチのインターネットにより、Eコマースは世界中の売り手と買い手をすぐに結びつける。それゆえにこの世界的なメディアを繁栄させるためには、インターネット上の商取引を支持する法的フレームワークは、州や国の境を越えて通用する原則で治められることが不可欠である。ここ何年間かにわたり政権は、

  • 99年11月にシアトルで開催されたWTO第3回閣僚会議において、電子的な取引にかかる税金のモラトリアムを延長することについてのコンセンサスを得る方向で、大きな前進を見た。WTOメンバー国は、第3回閣僚会議が再開される際には、このコンセンサス・ポジションを正式に採択することが期待される。
  • 国際間、あるいは二国間の交渉と合意を通じて、フレームワークについてのさらなる了承を得た。新たな二国間合意としては、米豪Eコマース共同声明、米エジプトEコマース共同声明などがある。


デジタル・エコノミーの計測

エマージング・デジタル・エコノミーは我々に対して、今日の米国におけるインターネットとEコマースの経済的なインパクトを、分析ツールを鋭くして評価することを要請している。このゴールの推進において我々は、

  • 「エマージング・デジタル・エコノミーU」を発行し、情報通信セクターの成長によるEコマースの凄まじい成長とポジティブな生産性へのインパクトを明らかにした。
  • Eコマースの発展に有益な情報を提供するため、Eコマースの小売販売のデータを集め、その他の経済分析の考察を始めた。
  • 「デジタル・ワーク・フォース」を発行し、ワーカーのアベイラビリティーの傾向とそれを増大するための共同の方策を特定した。この報告は、熟練した技術労働者がEコマースの成長に重要な役割を果たしていることを明らかにしている。


デジタル・ディバイドからデジタル・オポチュニティーに

現在、都市部の75,000ドル以上の収入のある家庭は、地方の最も低い収入レベルの家庭に比べ、20倍以上もインターネットにアクセスしており、9倍以上もパソコンを持っている。黒人とヒスパニックの家庭は白人の家庭の5分の2しかインターネットにアクセスしていない。情報技術が米国の経済や社会生活にますます重要な役割を果たすようになってくるにつれ、我々は誰一人としてそれから取り残してはいけない。政権によって採られてきたイニシアチブの中には、

  • コミュニティー技術センターへの投資を99年度の10百万ドルから2000年度には32.5百万ドルと3倍にした。
  • 革新的な情報技術の応用を支持した。これは「アメリカのキャリア・キット」と呼ばれるオンライン・サービスのソフトウェアを使い、職探しをしている人や労働者を雇用主とリンクさせ、職を埋めるとともに技能を高めようというもの。
  • 民間セクターに働きかけ、低価格パソコンとインターネット・アクセスを組合せて、全ての米国家庭にユニバーサル・アクセスをもたらすようなビジネスモデルを開発させた。
  • インターネットに接続されている教室を、94年の3%から98年には51%に増大させた。
  • 「eレート(96年通信法の一部)」の実施により、100万以上の教室をインターネットに接続した。
  • 途上国におけるインターネットとEコマースの成長を促進するため、幾つかの国を支援した。それらの国がインターネットを使って、経済を活性化し、生活水準を向上するための知識にアクセスし、意見の自由な流れをはぐくむことができるようにするというもの。

我々の来るべき年の課題は、デジタル・ディバイドからデジタル・オポチュニティーに移るための追加的な計画と政策に集中することである。

 

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