2000年3月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるアプリケーション・サービス・プロバイダーの現状 -1-


はじめに

99年の半ばころからASP(Application Service Provider)という言葉をたびたび耳にするようになってきたように思う。IDCがASPの世界市場規模を2003年に20億ドルと予測したのは99年3月であるが、ASPの団体であるASP Industry Consortiumが発足したのが99年5月、ITAAがASPグループを組織したのが99年9月である。またシンポジウムやセミナーなどが頻繁に開催されるようになってきているが、例えばZD Studiosが主催するASPサミットは99年11月、12月と2000年2月に、ITAAも第一回のASPミーティングを12月に開いている。

このように1999年がASPが市場に認知されるターニングポイントとなった年のようであるが、今回は遅れ馳せながら、このASPについて、そのビジネスモデルはどのようなものかに始まる入門編のような報告を書いてみようと思う。この報告を書くために、様々なホームページを訪れては参考になりそうな情報をプリントアウトしたが、その厚さがすぐに10センチぐらいにもなってしまうほど、情報はあふれている。従って、いまさら入門と言う時期ではないとは思いつつも、あえて情報の整理のつもりで今回の報告を書いてみることにする。


1. ASPとは(定義、分類、市場予測)

まずはASPの定義から入るのが適当であろう。ASP Industry Consortium(後述)とITAAの定義をそれぞれ以下に挙げてみよう。

「Application Service Providers deliver and Manage application and computer services remote data centers to multiple users via the internet or a private network.」

 「Any "for profit" company which provides aggregated information technology resources to subscribers/clients remotely via the internet or other networked arrangement. 」

どちらもほとんど同じようなものであるが、つまり「ASPとは、顧客に対して、アプリケーションを中心とするITサービスを、遠隔地からインターネットや専用ネットワークを通じて提供する企業」というようなことになるのだろう。


 さて、ASPモデルであるが、具体的には、以下の5つのレベルのサービスを提供するというものである。

    1. ネットワーク
    2. ハードウェア
    3. ソフトウェア
    4. インプリメンテーション
    5. サポート

これらは従来のITサービス産業が提供してきた機能そのものであるが、ASPモデルはこれらを原則として18ヶ月や36ヶ月の契約期間に、毎月定額で提供するというところに特徴がある。日本と違い、もともとパッケージソフトのウェイトが高い米国であるが、ASPモデルは特にパッケージ化を高め、カスタマイズも最小限に抑えることで、一対多数のアプリケーション配布を可能とすることで毎月の支払い額を小さくしようとしている。ASPのコスト構造を分析すると以下のような形になっているという。もちろん、コスト構造はASP毎にかなり異なるのであろうが、ASPを始めるに際しての初期投資コストが相当かかることを考えると、このマージン率で収益を挙げていくのはそうた易いことではないように思われる。


Financial Metrics of the ASP Channnel

直接経費*

収入に占める
経費の比率

  ソフトウェア・ライセンス料

15 - 20%

  データセンター&ネットワーク・インフラストラクチャー

25 - 30%

  サポート

15 - 20%

 収入に占める経費合計

55 - 70%

   

目標とするグロス・マージン

30 - 45%

*システム・インテグレーションのコストなどは通常はアップフロントに課される

 Source: Company Reports and Cherry Tree & Co. Estimates


さて、このASPであるが、ITサービス産業の中で、一般的にはITアウトソーシングの中の、アプリケーション・アウトソーシングの中に位置付けられるようである。アプリケーション自体を顧客が所有するかどうかで、アプリケーション・メインテナンス・アウトソーシング(顧客が所有)と区別されている。アンダーセン、エルンスト&ヤング、KPMGなど、いわゆるビッグ5コンサルティング等はアプリケーション・メインテナンス・アウトソーシングを行ってきている。また、ITアウトソーシングの中には、インフォメーション・ユーティリティーズ&ビジネス・プロセス・アウトソーシング(例えば財務会計や決済、給与支払いなどを一括して引き受けるサービス)、プラットフォームITアウトソーシング(ハードウェアやIT要員の移転を伴うようなデータ・センター業務などのサービス)などもあるが、その境目はASPの登場とともに、ASPを指向する動きが出てきていることから、よりあいまいになりつつあるようである。


 Source: Company Reports and Cherry Tree & Co. Estimates


大分類はそういうことだが、より重要なのは、ASPの生い立ちから来る分類の方であろう。上述のように、ASPは従来の情報サービス産業の機能の全てを提供する必要があることから、逆に言えば、従来の企業が自分の得意とする機能を他と組み合わせることで、市場に参入できるということでもある。

 参入しているセクターを見ると、大まかに以下の4つを挙げることが出来る。

    1. 純粋なASP
    2. サービス企業(システム・インテグレーター、コンサルタント、アウトソーサー)
    3. アプリケーション・ベンダー
    4. ネットワーク・プロバイダー(ISP、Telecom、Webホスティング)
Source: IDC


逆に得意とする機能別のASP分類として、上述の生い立ちに対応して、それぞれ以下のように命名していることもある。

    1. Full Service Providers (FSPs)
    2. Service Aggregators (SAs)
    3. Web Software Venders (WSVs)
    4. Application Infrastructure Providers (AIPs)
Source: Internet Research Group


 生い立ちから来る、これらの分類は、それぞれの企業がASPのビジネスモデルを形成していく上で、大きな意味を持つものである。最初から、全ての機能を持っていたような、例えばIBMのような企業や、新規に全てを構築したUSinternetworkingのような企業以外は、欠けている機能を、合併や提携で補っていかなければならないということもある。また、逆にそれぞれの伝統的なITサービスの分野からASPに参入したために、伝統的なITサービスそのものが元のままではやっていけなくなるという影響を受けていると言うこともあるが、これは後述する。

 さて、今現在、ASP産業の規模がどうなっていて、どの程度に伸びると予測されているかということについて述べておこう。

最初にASPの市場について予測を発表しているのは、たぶんIDCではないかと思われるが、1999年3月に、ハイエンドのASPの世界市場が2003年までに20億ドルに拡大し、それまでの4年間の年平均成長率は91%に上るとした。ここでIDCはASPの定義を以下のようにしているが、中でも単純なアプリケーションのレンタルではなく、例えばERPなど複雑なエンタープライズ・アプリケーションをアップフロントのコンサルティングから、カスタマイゼーション、オンゴーイングの技術サポートまで行うようなASPをハイエンドASPとしている。企業の例としては、USinternetworking、IBM Global Services、EDS、USWeb、FutureLink、Oracle OnLine、Corio、ServiceNet、World Technology Serviceなどを挙げている。IDCは、この段階で、ハイエンドASPは現実としてはまだほとんど顧客を獲得していないものの、1999年がターニングポイントとなると予測している。なお、その後IDCは、コラボレーティブ・アプリケーションやプロダクティビティー・アプリケーションを含めれば2003年までに45億ドルになるとの予測を発表しているが、予想以上に99年内の進展が急激であったことから、近く予測を見直すとしている。

「ASPs are service firms that provide a contractual service offering to deploy, host, manage, and lease what is typically packaged application software from a centrally managed facility.」


IDCより半年遅く99年10月に予測を発表したデータクエストは、99年内の動きを見た上での発表であるため、IDCとは一桁も違う予測値となっている。すなわち、世界のASP市場が1998年の8億9,800万ドルから、1999年には27億ドルに達し、さらに2003年には227億ドルにまで急拡大するというのである。

確かに伸び率は高いが、INPUT社の「US Market Forecast Compendium 1996-2001」によると、米国だけでも情報サービス市場の全体規模は2001年に3,600億ドル程度と予測されているので、ASPが市場を席巻してしまうというようなところではないことがわかる。

 

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