2000年3月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるアプリケーション・サービス・プロバイダーの現状 -2-


2. ASPモデルの長所と短所

さて、ASPが99年に急激に市場に認知されるようになったのはなぜだろう。企業における競争に勝つためのIT投資拡大の必要性と、急激なインターネット利用の拡大、そして次々と生まれるベンチャー企業のニーズなどがマッチしたからに他ならない。

ASPモデルの長所を挙げると以下のようになるであろう。

  • 逸早い市場への参入 ――― ASPを使えば、例えばベンチャーの起業時に、ITに時間や初期コストを割かずに起業が可能となるし、既に確立している企業においても、例えばEコマースに進出しようと決めた場合、短期間でEコマース用のITサービスを受けることができ、素早くその市場に参入できることになる。

  • IT要員不足の回避 ――― 企業が自社で優秀なIT要員を抱えることは、全体的な人材の不足から大変難しくなっているが、ASPを使うことで、その問題を回避できる。また社内のIT要員はコア・コンピテンスの業務に集中することが可能となる。

  • 最新の優れたアプリケーションの利用 ――― アプリケーションは益々複雑で専門的になってきており、たとえIT要員がいたとしても、十分な専門性を持たなければ、そのアプリケーションを導入し、使いこなすことは難しい。また、すぐにアップグレードをしなければならない環境にあるので、ASPを使うことで、常に最新のアプリケーションを使うことが可能になる。

  • ITコストの低減化と平準化 ――― ITのTotal Cost of Ownership(TCO)は企業にとって相当な負担となっており、特に初期投資の大きさが問題となる。ASPを使うことで全体のコストも、年にならして30〜50%の節約になると言われているが、さらに月額が一定であるということで、企業は予測可能なコスト・モデルと早期のリターン・オン・インベストメント(ROI)を得ることができる。


 逆に現時点でASP利用の問題点として挙げられているものとしては以下のようなものがある。

  • セキュリティー ――― 顧客企業にとって最も重大な関心事が、自社のセンシティブな情報の安全性と一貫性が、十分保たれるかということにある。ASPのデータセンターに通常のインターネットを通じて情報を送って、処理し、蓄積しておくのであるから、自社でITインフラストラクチャーを持つ以上のセキュリティーのレベルをASPに要求することになる。ASP側も、データセンターのセキュリティーの向上とともに、暗号の利用や、必要に応じて専用線やVPN(Vertual Private Network)などもオプションとしている。また、セキュリティーやサービスのレベルが十分であることを示すために、例えば訪問したUSinternetworking社では品質保証のISO9001の認証を取得していることをサイトに明示するなどしている。

  • サービスの品質レベル ――― セキュリティーと同様に、サービスの品質レベルも顧客の関心事である。典型的なASPのService Level Agreements(SLAs)では、ASPが98.9%のサービス可用時間を確保することになっており、これは1週間に40分しかダウンが許されないことに相当する。しかし、たとえデータセンターを完全無停止にできたとしても、多くの顧客がインターネットを使って一時に同じアプリケーションに集中することがあることも考えると、このSLAはかなりASPにとって厳しいものとなる。さらに、顧客はASPの利用を、あるアプリケーションから他のアプリケーションに拡大してくることが予想され、ASP側ではそれに対応できるスケーラビリティーを確保しながら、サービス品質を維持しなければならないという困難をさらに負うことになる。

  • アプリケーションのカスタマイゼーション ――― ASPの顧客は、パッケージ化されたアプリケーションを使うことで、低価格を享受できるわけであるが、やはりカスタマイゼーションが必要なアプリケーションもある。その場合、ASPから最低限必要なカスタマイゼーションが受けられることが必要となるが、ASPにとっては、一対多数のモデルが崩れることで、マージンも低減するし、IT要員も多く抱えなければならないということになる。

  • アプリケーション選択の限界 ――― ASPの顧客にとっては、多くのアプリケーションの選択肢が得られることが望ましいが、もともと現在のアプリケーションが全て完全にウェブ/ネット・セントリック対応になっているわけではないことからくる技術的な問題と、Independent Software Venders(ISVs)がASPによるソフトウェア配布を認めるかどうかという政策的な問題により、必ずしも全てのアプリケーションがASPを通じて利用できるわけではない。また、ISVの価格政策によるASPの価格決定の難しさと言うASP側特有の問題もある。


3. 主要なASPプレーヤーとその動向(団体、企業、最近の主要な動き)

最初に、上に名前のみ挙げた2つの団体について記しておこう。

1. ASP Industry Consortium (www.aspindustry.org)(マサチューセッツ州)
ASPインダストリー・コンソーシアムは、ASP産業の振興のため当初メンバー25社によって99年5月に設立された団体である。 その目的としては、ASP産業における調査研究を実施し、標準化を推進し、ASPのデリバリー・モデルの重要なベネフィットを統合するための共同作業を実施する、となっている。2000年2月末現在で、会員数は370社を超えている。設立メンバー25社がそのまま理事会メンバーでもあるので、企業名のみ以下に挙げておく。会長はこのうちのCitrix Systems社のTraver Gruen-Kennedy氏が務めている。

 AT&T; AristaSoft Corp., Boundless Technologies, Inc. ; Cisco Systems, Inc.; Citrix Systems, Inc.; Compaq Computer Corporation; Cylex Systems, Inc., Ernst & Young LLP; Exodus Communications, Inc.; FutureLink Distribution Corp.; GTE ; Great Plains Software; IBM Corp.; Interpath Communications, Inc.; JAWS Technologies Inc.; Marimba, Inc.; Onyx Software Corp.; SaskTel; Sharp Electronics Corp.; Sun Microsystems, Inc.; The Taylor Group; Telecomputing ASA; UUNET; Verio, Inc.; and Wyse Technology

 なお、99年11月に日本で設立されたASPインダストリ・コンソーシアム・ジャパン(www.aspicjapan.org)はこの米国の団体の姉妹組織という形をとっているようである。


2.ITAA Application Service Provider Program(www.itaa.org/asp)(バージニア州)
 言わずもがなのITAA(Information Technology Association of America)の1プログラムであるが、我々がITAAとY2Kの議論などをしている間にも、せっせとこのプログラムを作っていたようで、99年9月に発足したとのことである。ITAAは26,000社もの直接/間接会員を擁しているが、これらの中にも多くのASP企業か、ASP参入可能企業がいるため、それらを対象に、ASP振興のための団体活動をしていこうと言うものである。具体的には、イベントを通じての企業間のネットワーク作り、小委員会を設けての振興、調査、標準などの審議、ニューズレターの発行、ASPダイレクトリーの作成などを行っている。プログラムの参加社数は2月末で約90社となっている。

 

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