2000年5月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国の東北部におけるIT産業集積の動向 -1-


はじめに

 今回はいつもとやや趣を変えて、米国東北部のIT集積地域の動向について報告してみようと思う。ITによる都市や地域の振興を目指して、日本から米国のハイテク地域を視察に来られる関係の方々は、ここのところ相当に増えているように思われる。その多くはシリコンバレーに必ず寄られるのだと思うが、日本中のどこもがシリコンバレーになれるわけもなく、違ったモデルを見出そうと、東海岸を訪れる方も増えつつある。ここニューヨークを中心に北東1時間にボストン、南西1時間にワシントンがあり、この3つの都市がITクラスターとしてはそれぞれ特色を持った発展をしている。と言うことで、今回は日本から来られる方々に私としても一言ご説明ができなければならないという実務的な意図から、簡単にこれらの3地域についてまとめてみようと言うものである。


1. 米国東北部のIT集積地域の動向

 米国のIT革命は、ハードウェア・ベース、ソフトウェア・ベースを経て、現在は第3段階のコンテンツ・ベースに移ってきていると言う見方もある。それに応じて、ITの集積もウェストコースト・セントリズムから、より広い地域に分散しつつある。


 この米国東北部のITの成長クラスターが形成され始めたのは、90年代前半からであり、当然のことながらインターネットの発展と歩調を合わせている。インターネットの急速な発展が、従来なかったような製品やサービスを求めるようになったことで、これらの地域がそれぞれの持つポテンシャルを活かし始めることができたのである。ボストン「ルート128」は伝統的なハードウェア産業と熟練労働力のプールで、ニューヨーク「シリコンアレー」はメディアと芸術の融合で、またワシントン「デジタル・ドミニオン」は連邦のITを支えてきたサービスと通信インフラで、それぞれの独自性を発揮しつつ、これらの要請に応えてきているのである。MIT、ハーバード、コロンビア、ニューヨーク、ジョージメイソンなどのアカデミーの力も有効に作用しているし、DEC、IBM、AT&T、ルーセント(ベル研)などの伝統的なハイテク企業も、これらの新しい動きを技術的に支えてきている。

  全米におけるこれら3地域のウェイトを見てみよう。「Joint Venture: Silicon Valley Network 」というシリコンバレーの振興団体が、シリコンバレーのライバルとなりつつある全米のインターネット・クラスターのアナリシスを行ったレポートがある(www.jointventure.org/initiatives/edt/svcluster/home.html)。これによると、例えばインターネットを代表する企業の立地数を都市クラスター毎に見ると、以下のようになっていると言う。


  また、ベンチャー・キャピタルの投資額の分布から見ると以下のようになっている。



  さらに、インターネット企業のIPOの件数で見ると次のようになっている。


  この3つを見比べることで、大まかな3地域のITの世界での位置付けを理解しようとすれば、3地域を併せるとシリコンバレーに並んだが、ロスやSFも加えたカリフォルニア全体のレベルにはまだ到達していないというところになるであろうか。もちろん、後述するように例えばグレーター・ワシントンのハイテク従業者数はシリコンバレーを凌いだと言うような統計もあるので、あくまでも大まかな理解と言うことで、以下の各論を見てみよう。

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