2000年8月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

ポストPC時代における次世代型情報端末と企業戦略(後半)


(3)携帯電話

 米国のモバイル・テレフォン事情については、この4月にレポートしたばかりであるので、詳細は省略するが、普及率こそ日本や北欧に及ばないものの、加入者は既におそらく9,000万人を超える、世界一のモバイル人口を持つ国であることに間違いはない。ただ、情報端末としてのウェブ・テレフォン・サービスは、ようやくスタートしたばかりである。  

 例えば、ベライゾン・ワイヤレス(www.verizonwireless.com)は、ベル・アトランティック・モバイル、エア・タッチ、プライムコ、GTEワイヤレスが合併し、加入者2,500万人を擁する米国最大のワイヤレス・キャリアになったところであるが、7月17日、「Mobile Web」サービスを開始している。通常の例えば200分の接続時間で月29.99ドルというボイスのワイヤレス・サービスの契約を結んでいる場合、月6.95ドルを加えるとその200分以内であれば14.4Kbpsでのウェブ・アクセスやeメールの送信ができるというもの。キャンペーンとして3ヶ月は無料としている。ハンドセットは、モトローラ、クワルコム、サムスンなどから出されており、6行程度の小画面のものであるが、一番安いクワルコムのものはキャンペーン価格で39.99ドルで買えるとなっている。


 このようなサービスは、AT&Tワイヤレス(1,250万人)、スプリント(780万人)、あるいはベルサウスとSBCのワイヤレス部門の提携会社(1,620万)のいずれでも、ほぼ同様なレベルで提供が始まっている.。もちろん、例えばAT&Tは接続時間は無制限だが、eメールの送信は月150ページまで基本料に含まれるなど、少しずつ差異はあるが、日本の同様のサービスに比べ、やはり接続時間は無制限に近づけようという姿勢がうかがわれる。


 さて、このようなモバイル・テレフォンによるウェブアクセスであるが、現時点では150万人が利用を開始していると言われているが、今後の成長についてもいろいろな予測がなされている。例えばフォレスターリサーチは2005年までに米国で1億1,100万人がモバイル・データサービスを使うようになるとしているし、ガートナーグループは2003年までに世界で7億人がモバイル・テレフォンを利用し、うち80%がインターネット接続を提供されるなどとしている。楽観的なものが多いが、普及の鍵を握るものとして、以下のようないくつかの要素が考えられるだろう。


○ワイヤレス・キャリアの合併・提携

 上に挙げたように、第3世代の携帯電話サービスでの競争を視野に入れて、ワイヤレス・キャリアの合併・連携が今年になってから急激に進んでいる。大手は上の4社に集約されてきたが、今月話題になっているドイツ・テレコムによるVoiceStream  (www.voicestream.com)の買収提案のように、中小のワイヤレス・キャリアもそのターゲットになりつつある。これらの合併・連携によるサービスの広域化や低価格化などが、ウェブ・アクセスの普及に大きく影響する。  


○IMT-2000の到来

 現時点のワイヤレスでのアクセスは14.4Kbps程度であるが、数年後に導入されるIMT-2000では384Kbps(低速移動時)〜2Mbps(静止状態)が可能となる。これにより、数行の文字情報のみの通信という現在のアクセスが一変することになり、サービスの多様化とともに、ユーザーも急拡大することが予想される。


○WAPなどの標準の整備

 既に開始されている上述のサービスは、日本のiモードに相当するWAP(Wireless Application Protocol)に基本的には準拠しているものの、未だWAPに完全に準拠し閲覧できるサイトは限られている。今年中にワイヤレス・デバイスの70%がWAPに準拠するという強気の見方(IBM幹部)もあるが、iモードのようにユーザーの増加とサービス提供者の拡大がうまく相乗効果を発揮するかどうかは良く見えていない。また、モバイル電子トランザクションの標準なども、4月にエリクソン、モトローラ、ノキアが共同で共通のフレームワークを開発することに合意したと報じられるように、それらの整備もこれからである。


○PDA機能の内蔵などの技術面での進化

 モバイル・テレフォンにPDAの機能がどのように含まれていくかもパームなどのPDAとの普及競争の観点から重要であろう。ハンドセットを開くとキーボードと大型液晶を供えた「ノキア9000シリーズ」、パームそのものの機能を併せ持つ「クワルコムpdQ1900」、あるいはモバイル・フォンにPDA機能をクリップ・オンして付加する「モトローラStarTAC clipOn Organizer」などが既に市場に出てはいるが、これらはまだ発展途上のものであり、これらが進化することで、PDAにとって代われる可能性が高くなると見られる。但し、アメリカ人はテンキーでアルファベットを(親指で素早く)打つのは無理と思っている(昔から2にabc、3にdefなどと割り当てられているにも関わらず)ようであり、(ボイスメールがそれを補うとは思うものの)例えば音声による文字入力などを装備する必要があるだろう。


○ポータルやサービスの進化 

 7月17日、AOLがAT&Tの「Digital PocketNet」サービスに対して、モバイル版のAOLコンテンツを提供すると発表している。AOLのような2,300万人もの加入者を持つISPの使い慣れたコンテンツがモバイル・テレフォンからでもアクセスできるようになるということは、普及にとって非常に大きな推進力となる。AOLは他のキャリアとも同様の提携を行っていくとしているし(DoCoMoともするようだが)、MSNやYahoo!などのポータルも同様にワイヤレス・キャリアへのコンテンツの提供を開始している。また、立ち上がりかけたばかりのボイス・ポータルのサービスも普及にとって重要と思われる。例えば7月24日に全米サービスの開始を発表したテルミー・ネットワークス社(www.tellme.com)のサービスは音声とタッチトーンを併用することで、レストラン紹介や天気予報などにアクセスできる。普通の電話でも使えるサービスではあるが、モバイル・テレフォンの利便性をさらに高めるサービスと言える。

 モバイル・テレフォンの他に、ワイヤレス・ウェブアクセスの端末として、スマート・ページャーがモトローラやリサーチ・イン・モーション社(www.rim.net)から提供されている。これも有力な情報端末の一つではあるが、今後はモバイル・テレフォンやPDAの狭間で、ビジネス用途に限定されていくと見られるものであり、詳細については省略する。




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