2000年8月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

ポストPC時代における次世代型情報端末と企業戦略(後半)


(4)テレビ・パソコン融合

1. インターネットテレビ

 インターネットテレビは市販のテレビ受像機でウェブサイト閲覧や電子メールの送受信などが楽しめるアプライアンスであり、家庭におけるポストPCの最前線に位置する。代表的なものとしてマイクロソフト傘下のウェブTVがあり、ケーブルと電話線の両方に接続するテレビ用セットトップボックスとキーボードを併せた商品となっている。現在の市販価格もタイプ別に99〜199ドルと安いが、96年の発売当時は、パソコンを買えない低所得層向けのインターネット接続機器として大いに話題を呼び、本月報でも96年、97年の年末の回顧と展望に取り上げたところである。  


 しかし、発売後、既に4年近くが経過しているが、ウェブTVの売れ行きは伸び悩んでおり、公式発表はないが、利用者は100万程度に留まっていると言われる。これには、リアルネットワークのストリーミング・ソフトやジャバへの対応などを意図的に遅らせてきたマイクロソフトの戦略のまずさがあるとされるが、最も大きい理由はパソコンの急激な低価格化であろう。それほど価格が変わらないのなら、やはり消費者はアプリケーション・ソフトも使え、ISPも自由に選べるパソコンを選択するということなのだろう。  


 このようなサービスは、AT&Tワイヤレス(1,250万人)、スプリント(780万人)、あるいはベルサウスとSBCのワイヤレス部門の提携会社(1,620万)のいずれでも、ほぼ同様なレベルで提供が始まっている.。もちろん、例えばAT&Tは接続時間は無制限だが、eメールの送信は月150ページまで基本料に含まれるなど、少しずつ差異はあるが、日本の同様のサービスに比べ、やはり接続時間は無制限に近づけようという姿勢がうかがわれる。


 とは言いながら、マイクロソフトは将来のデジタルテレビ時代に向けてウェブTVの次の手を考えている。一つは、昨年暮れに発表された衛星放送会社エコスター傘下のDISHネットワーク(www.dishnetwork.com)(視聴世帯数400万)へのウェブTVサービスの提供である。「DISHPlayer 300/同500」という、初めてデジタル・ビデオ・レコーダー(8.6GB/17GB)を内蔵した最新のデジタル衛星放送受信装置(価格199ドル/399ドル)にウェブTV機能を盛り込んだというもの。199ドルのウェブTVプラス受信装置で受けられるサービス(月24.95ドル)が同じフィーで受けられる。


 さらに、この6月12日には、DIRECTV(www.directv.com)(870万世帯)とトムソンと共に、ウェブTVが新たに提供する「UltimateTVサービス」を盛り込んだ「RCA DIRECTVシステム(DS4290RE)」を開発すると発表した。このシステムはマイクロソフトのTVプラットフォーム・ソフトウェアをベースとし、2つのチューナーで2つの番組を同時に見ながら30時間を超えるデジタル・ビデオ・レコーディングサービスが行え、加えて双方向TVの機能を最大限活用できると言うもの。今年のクリスマス商戦までに発売されると言う。


 さて、インターネットテレビ分野のプレーヤーとして、6月19日、「AOLTV」(www.aoltv.com)を正式発表したAOLが加わった。コンセプトはウェブTVとほぼ同様で、ケーブルと電話線につなぐセットトップボックスとキーボードからなるシステムで、リベレート・テクノロジー(www.liberate.com)のプラットフォームを用い、フィリップスが製造している。この夏にも発売されるとなっており、価格は249.95ドル(ウェブTVプラスも別売のキーボードを加えれば248.99ドル)でサービス・フィーはAOL会員は月14.95ドル、非会員は24.95ドル。サービスの内容はウェブTVプラスとあまり差異がないように見受けられるが、AOLの強みは何と言っても2,300万人に及ぶ会員数と、7,000万とも言われるインスタント・メッセージングのユーザーである。AOLTVでは、例えば、大リーグの試合を見ながら、リアルタイムのチャットで友人と批評をし合うなどと言うことができてしまう。ガートナーグループでは、テレビを見ながらインターネットを使っている人(同じ画面でと言うことではない)をテレウェッバー(Telewebber)と呼び、米国で今年末には5,200万人にもなるとしているが、テレウェッバーにとっては、AOLTVは待ち望んでいたシステムと言うことになるのかもしれない。


 AOLTVの正式発表に先立って、AOLは6月14日、ティーボ社(後述)と共同で、ティーボの「パーソナルテレビ」(デジタル・ビデオ・レコーダー)の機能を内蔵したAOLTV用のセットトップボックスを開発すると発表している。フィリップスのセットトップボックスも5GBのハードディスクを備えているが、ティーボのものは録画や再生が思うがままにできる本格的なパーソナルテレビ機能を持つもので、2001年の初頭に登場する予定である。また、これに併せてAOLがティーボに2億ドルまでの出資(15%相当)をすることが合意された。さらに、今年の年末には、ウェブTVと同じくAOLTV/DIRECTVレシーバーも発売するとしており、マイクロソフトとの全面戦争が展開される。


 と言うことで、インターネットテレビの分野は久々にまた面白いものになりそうであるが、たとえUltimateTVなどと言われても、まだまだ過渡期のものであり、以下に述べるように、将来、ケーブルを経由してきたデジタル放送と、56KモデムではないケーブルやADSLというブロードバンドが一緒になったときに、初めて、究極のものになるのであろう。



2. デジタルテレビ

 80年代の日本のハイビジョンテレビ開発に刺激されて始まった90年代の米国の次世代テレビ・システム推進の議論は、アナログを飛び越えてデジタルテレビ(DTV)のシステム開発として進み、96年12月にFCCが18種類のDTV放送フォーマット(走査線数480/720/1080本のインターレース方式かプログレッシブ方式とフレーム周波数60/30/24Hzの組み合わせ)を決定し、98年11月からの開始が決定された。それ以降、各テレビ局にアナログ用とは別に無償で割り当てられた6MHz幅の周波数を使い、地上波テレビのデジタル化が徐々に進みつつある。


 デジタル放送の利点は、データの圧縮により同じ周波数幅にこれまで以上のデータを流せるため、高画質、双方向、多チャンネル、データ放送などが可能になるところにある。特に、双方向性を活かしたデータ放送で、行政サービスへの応用や、視聴者の直接アンケート、双方向広告なども可能となるほか、電子商取引へのアプリケーションも期待されている。また、デジタル化によってDVDなどのAV機器やパソコンとの互換も容易になり、デジタルテレビ・システムは次世代型「コンバージョン(融合)・アプライアンス」の最右翼として、各種デジタル機器の融合を促進し、ポストPCの旗手に成長することが期待される。


 とは言うものの、米国のデジタル放送は開始以来2年近くとなるが、現状での進展度は満足なものとは言えない。番組数は多い地域で全局合わせて、週20~30時間程度と試験放送並みであるほか、放映されているデジタル放送のほぼ全てが、HDTV(高精細度テレビ、1080Iか720P)であり、双方向、多チャンネル、データ放送などは皆無に近い。ただ映画の焼き直しが中心だった番組も、最も積極的なCBS(1080I採用)が全米オープンテニスやNCAAバスケットのファイナル、マスターズ・ゴルフなどを取り上げたほか、ABC(720P)も「Monday Night Football」を、NBC(1080I)もト―クショーの「Tonight Show with Jay Leno」を放送するなど、オリジナルなHDTV放送も増えつつある。(もちろんこれらの提供は三菱、ソニー、パナソニックなどデジタルテレビを売りたいメーカーが名を連ねているが。)ケーブル局も最も進んでいる映画専門チャンネルのHBOなどは、放映する映画の60%以上をデジタル化しているなど、ネットワーク局に追随しつつある。


 このように放送局の姿勢がやや積極的になりつつある中で、伸び悩みの最大の要因はCATVオペレータのリラクタントな姿勢とデジタルテレビ受信機の高価格にあるという指摘が一般的である。全米の3分の2の家庭はCATVを通じてテレビを見ているため、デジタル放送がケーブルで流された上で、デジタルセットトップボックスを備えている家庭でない限り、デジタル放送を見ることはできないのである(もちろん私もデジタル放送なるものを一度も見たことがない)。CATVオペレータと言えばAT&Tやタイムワーナーではないかと思われるところだが、それらも実際には地域で80年代の施設を使って営業している中小のCATVオペレータの上に位置するだけであって、資金的にも早急なデジタル化が困難な状況にある。現行の月30〜40ドルするケーブル視聴料もこれ以上は上げようもない。と言うことで、デジタル放送のCATVオペレータによるマストキャリー(必ず流さなければならない)の義務化がFCCとして決断できない理由もそこにあるのである。


 もう一つの、デジタルテレビ受信機の高価格については、家電協会(Consumer Electronics Association = CEA)(www.ce.org)が業界を代表して、「放送側が責任を果たせば、テレビセットの価格は下がる」と言う当然の反論を展開している。とは言いながら、やはり現時点での価格は高く、CEAの公表リスト(http://www.dtvweb.org/default.cfm?levelone=products)を見ると、モニターとセットトップボックス一体型の65インチのリアプロジェクション型でアナログも含め1080Iまでの全てのフォーマットに対応しているセットで8,000〜11,000ドル、モニターだけだとそれより1,000ドル程度安く、別売のセットトップボックスが1,000〜2,500ドル程度というところである。CEAはデジタル放送開始以降からこの7月半ばまでで、工場からディーラーに卸したデジタルテレビ製品(一体型、モニターのみ、セットトップボックスのみをそれぞれ数えて)は30万台程度、総額にして8億ドル程度に上ると発表している。もちろん消費者の手に渡ったものはそのうちの一部で、多くはディーラーのディスプレイ用や業務用に使われており、また一体型よりはモニターのみの販売がまだ多いとされる。米国では好景気を反映してか、ホームシアターと呼ばれる、大型のプロジェクション・テレビやDVDなどのAVシステムの売れ行きが伸びており、これから買うのならということでまだデジタル放送は見られなくてもモニターはデジタル対応のものにしておこうと判断されているのだろう。


 さて、デジタル化の期限は2006年に設定されており、その時点でアナログ放送用の周波数はFCCに返還されることになっているが、今や関係者の誰もその期限に間に合うとは思ってはいない。議会予算局(Congressional Budget Office = CBO)も、アナログ波を競売して入るはずの61億ドルの予想歳入がいつ入ることやらと心配している。CEAでも、2006年の段階でのデジタルテレビの普及率を最も放送業界が頑張ったとしても50%としている。今のペースでは30%、もしまたリラクタントに戻ったり標準の議論が蒸し返されたりすると15%に留まるとしている。カラーテレビ登場以来50年ぶりの大商戦であるだけに、デジタルテレビ業界も力が入っているというところのようだ。


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