2000年9月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国におけるエレクトロニクス・マニュファクチュアリング・サービスの動向について


(3)EMSの市場規模

 EMSの世界における市場規模については、テクノロジー・フォアキャスター(カリフォルニア州アラメダ) (www.techforecasters.com)というEMS専門の調査会社の出している数字が、広く使われている。昨年末に同社はEMS市場の見通 しを下方修正している。それまでは98年の896億ドルから年率25%で伸びて2003年には2,800億ドルにもなるとしていたが、図表2 に示すように、相当な下方修正となっている。ベースとなる98年の売上高をサンプルに基づく積上げで(売上5億ドル以上の大企 業12社の売上実績241億ドル、1~5億ドル以上の中堅企業のサンプル38社実績88億ドルとその他50社×平均売上1.5億ドル=75億ド ル、1億ドル未満の小企業のサンプル30社実績11億ドルとその他3,000社×平均売上5百万ドル=150億ドル)、約600億ドルと下方 修正している。さらに、年平均伸び率は、大企業は年35%で伸びるとしたが、中小がそれぞれ年率12%と2.5%とあまり伸びない としたことで、全体で20%としている。別途データクエストが予想する全世界のエレクトロニクス製品の市場規模予測を分母と して組合せると、EMSの浸透率は98年の9.5%から2003年には17.1%になると予測される。なお、この浸透率がどこまで行くかに ついていろいろな意見があるが、後述するジェイビルのティム・マーチン氏は75%まで行くとまで言っている。  


 

図表3.地域別EMSへの需要見通し(単位:億ドル)

地域

1998

1999

2000

2201

2002

2003

年平均伸率

アジア(除日本)

30

51

70

73

75

90

24.5%

日本

120

132

158

182

247

314

21.2%

西欧

144

180

210

273

326

358

20.0%

北米

288

346

413

496

572

687

19.0%

南米

10

12

13

15

17

21

16.0%

その他

8

11

13

16

18

24

25.0%

合計

600

732

877

1,055

1,250

1,494

20.0%

Source: Technology Forecaster



 テクノロジー・フォアキャスターでは、図表3のように地域別の需要からも積上げている。北米や西欧については良いとして も、日本のOEMのEMS利用は増えてきてはいるものの、未だに系列の自前の海外生産子会社などの利用が多く、この数字は少し 大きすぎるのではないかと言う気もする。そこで、同社に問い合わせたところ、COOのミスコル氏から回答をもらった。「ご指 摘の通り、日本の数字には“keiretsu”のものも含まれており、例えば“Sumitronics Asia”などである。厳密には“inter group manufacturing”は我々の言うEMSの定義には入らないが、そのような日本企業の売上のどの程度がEMSとして得られたものであ るかの区別ができない。私自身、この問題を検討し、日本の数字は高すぎるとは思っている。現在、より正確な日本市場の評価 をできるようなソースを探しているのだが、もし心当たりがあったら教えて欲しい。」と言う趣旨のものだった。どなたかご協 力いただけますか。

 EMS業界の専門ニュースレターとして広く読まれているマニュファクチャリング・マーケット・インサイダー(MMI)誌(マサチ ューセッツ州ニードハムハイツ)(www.mfgmkt.com)は、EMSの生産品目の分野別の比率を調査しているので、これも併せて 示しておこう(図表4)。

 MMIの99年のトップ50社の調査によると、コンピュータから始まったアウトソーシングも、最近では通信機器の比率が高まって いる。分野別に回答してきたトップ41社の売上総計426億ドルのうち、通信機器が156億ドルで36%、コンピュータが143億ドルで 34%と売上分野が通信にシフトしつつある。業界のアナリストは、アルカテル、エリクソン、ルーセント、モトローラ、ノキ ア、ノーテルの6テレコム企業だけで、98年の製造原価のうちの60億ドル程度をEMSに出していたが、2001年には200億ドル以上 もEMSに出すようになるだろうと予測していた。なお、その他の17%の中には、家電、産業電子機器、医療用電子機器、防衛・航 空用電子機器などが含まれている。




 (4)マッシブEMSへの動き

 上述のようにEMSの市場規模はどんどんと拡大していくとされるが、3000社もあるとされるEMSが皆うまく行くはずもない。 業界関係者のコメントを引用すると、「2001年時点でこの業界でコンピートするためには年間100億ドルの売上を上げている必要 がある。ほんの5年前には誰も100億ドルのEMSが出るなどとは思っていなかったが、すぐにトップティアの企業でいるための最 低ラインになる。」「現在10億ドル以下の売上のEMSにとっての将来は明るくない。1億ドル以下の小EMSにはニッチ・プレーヤ ーとして生きる余地があるかもしれないが、中間に留まって成功するのは非常にきついだろう。」「中小EMSの役割はOEMから オーバーフローしたものを扱うと言うところにあるが、将来の繁栄は期待できない。」などといったところである。

 トップティアEMSがますます大きくなる(Massive EMS化)のは、もちろん必然性がある。OEM側から見れば、大きなEMSで あればワンストップ・ショッピングが期待できることになる。EMSがグローバルなリーチとブロードなレンジのサービスを提供 してくれるのが望ましく、製品設計の補助から、部品の購入、販売、流通、アフターサービスまでも一貫してやってもらえれ ば、それに越したことはない。また、大きなEMSはリソースの安定性と幅を意味し、それがまた信頼につながるのである。OEM が自社の工場を従業員ごと任せることができるのも、大きなEMSならではのことであり、これがOEMからの工場買収(OEM側 は“divestiture”(剥奪)という言葉を使う)が急増している要因でもある(図表5参照)。EMS側としても、厳しい価格低減圧 力の中で利益を上げていくためには、規模の経済を追求せざるを得ないし、OEMが望めば、そのアウトソーシング契約を得るた めにも、当該OEMの工場を引き受けざるを得ないところもある。と言うことで、このマッシブ化の傾向が減速するとは、当分の 間、予測できないのである。





 この傾向に竿を指すものがあるとすれば、以下のような小さな懸念くらいであろう。一つはOEMが、EMSがあまりに大きくな りすぎたのではないかと思い始めているという指摘である。その意味するところは、EMSの交渉力が強くなり過ぎるのは困るな と言うところにもあるのだろうが、EMSが設計からアフターサービスまで提供するようになるに連れ、かれらがかつてのOEMに 似てきてしまうのではないか、すなわち、巨大な機構的複雑性をマネージできなくなり、コストが上がってしまうのではないか というところにあるようである。しかし、EMSの幹部は「もし我々が非効率で遅くなればビジネスから出ていくことになるだけ で、決して10年前のOEMのようにはならない。」とこの懸念を一笑にふしているので、今の段階で考える必要はないのだろう。

 蛇足だが、EMSがやがて自らのブランドの製品を出して、OEMと競合してくるのではないかとの懸念もないことはない。た だ、これについては、98年のソレクトロンの事件(イングラムマイクロの誘いで、その顧客用にホワイトボックス・コンピュータ を作ると発表したが、OEMから警告を受けて取り止めたというもの)により、今後その禁を犯すEMSは出てこないだろうとされ る。この関連で言えば、後述のODMもどうかというところであるし、MMIの2000年5月号で取り上げられているエプソン・ポー トランド社のOEMとして自らの製品製造の一方、余裕のあるラインでアウトソーシング・サービスを行うという発表にも疑問が 投げかけられている。OEMの製品の需要が高くなったら、競合する製品の製造アウトソーシングを安定して続けられるのかと言 うものである。

 もう一つ、大きなOEMはマッシブEMSをうまく使えるだろうが、スタートアップのOEM企業にとっては、マッシブEMSは敷居 が高いという指摘もある。これこそ中小のEMSの生きる道と言うことなのだろうが。


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