2000年10月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国におけるサイバー・セキュリティ政策関連動向


  1. 人的資源と教育

 情報関連技術者と情報セキュリティ専門家への需要は、連邦政府のみならず民間セクターにおいても、現在の供給のスピードをはるかに超えており、それらの養成の場がまだ整備されていないことがしばしば指摘されてきた。ここでは、情報セキュリティにおける人材の開発を行なうために、米国が現在どのようなプログラムを企画・推進しているかを検証するため、「連邦サイバー・サービス」と「サイバー市民パートナーシップ」を取り上げる。  



 (1)連邦サイバー・サービス(Federal Cyber Service)   


 2000年1月7日、クリントン大統領は「連邦サイバー・サービス(Federal Cyber Service)」イニシアティブに対して2001年度に2,500万ドルの予算要求を行なうことを発表した。連邦サイバー・サービスは、これまで米国連邦政府内に情報セキュリティの専門家が不足していたことを受けて設立されるもので、情報セキュリティに関する教育やトレーニングを行ない、人材不足を解消しようとする試みである。人事管理庁(Office of Personnel Management = OPM)(http://www.opm.gov)が中心となって対処することになっており、「情報技術卓越センター」、「サービス奨学金」、「高等・中等教育機関アウトリーチ・プログラム」、「連邦職員情報セキュリティ啓蒙プログラム」の4プログラムが中心となっている。  



1.「情報技術卓越センター(Center for Information Technology Excellence = CITE)」プログラム  


 CITEプログラムは、セキュリティに関する最先端の教育やトレーニングを連邦職員に行なうためのセンターで2001年度に開設が予定されている。このセンターでは、連邦政府の情報セキュリティ職員となるための証明書を発行したり、必要に応じて職員に対してフォローアップのトレーニングも行なう。センターでの授業は、従来の教室参加型や、CD-ROMによる通信教育、インターネット上でも行なわれることが計画されており、米国内のどの地域にいても教育が受けられるようになる。授業では、最新の情報セキュリティに関するトレーニングを行ない、セキュリティ専門家や専門機関のバーチャル・ネットワークとしての機能も果たすことになる。OPMでは、現在IT担当職員に必要な技能・資格について現在検討中であり、近くそれが決定すれば、その求められる技能・資格に応じて、各省庁がトレーニングに参加させる職員を決定することになっている。  



2.「サービス奨学金(Scholarship For Service = SFS)」プログラム  


 SFSは、情報セキュリティを専攻する大学3・4年生と大学院生(修士号取得予定者)に対して奨学金を与えるプログラムである。SFSでは、(1)将来的に連邦政府で働くことを条件に授業料等に対する奨学金授与、(2)連邦政府における夏季雇用、(3)卒業と同時に連邦政府のフルタイム職員となること(奨学金を受けた年数分だけ連邦政府での勤務が義務付け)が、現在計画されている。SFS奨学金を受けることのできる生徒は、あらかじめ指定されている大学の大学生または大学院生でなければならず、指定される大学は、情報技術関連授業が充実している米国大学に限られている。 


 SFSを主に担当するNSFでは、SFSの対象となる大学を現在検討中であり、この10月までに対象大学が決定され、2001年秋学期から奨学金の授与が開始される。各大学は、奨学生となるべき生徒を推薦し、OPMが受給生を決定する。OPMが奨学生に関する最終決定権を持っているのは、奨学生が夏季の間、そして、それぞれの大学を卒業後に連邦政府において雇用されるためである。クリントン大統領による2001年度予算要求では、約100人に対する奨学金が計上されているが(SFS総額では1,120万ドル)、将来的には年間300人に対して奨学金を授与することが目標とされている。  



3.「高等・中等教育機関アウトリーチ・プログラム(High School and Secondary School Outreach Program)」  


 高等・中等教育機関アウトリーチ・プログラムでは、中高生に対して、将来の連邦政府IT職員を目指すような教育を行なう、また、コンピュータ・セキュリティについて個人の責任と倫理について教育を行なうことが目指されており、2001年からの開始が目標とされている。このプログラムの目標として以下の5点が挙げられる。   

  • 高校生とその教師に対し、情報セキュリティについての教育を行ない、同時に連邦政府における雇用についても啓蒙する。
  • 高校生が大学において情報セキュリティを専攻したくなるような興味をそそらせる。
  • 中高生とその教師に対し、現在の技術のトレンドと情報セキュリティの必要性について啓蒙する。
  • このような啓蒙活動で知識を得た教師や生徒が、さらにそれを自分の周りのコミュニティーに対して広めていくようにし、社会全般でのセキュリティに対する意識を高める。
  • サイバー・セキュリティを実践する上で、各個人がそれぞれ責任ある行動を長期間に渡ってとるように心掛けるよう教育する。  



4.「連邦職員情報セキュリティ啓蒙プログラム(Federal Workforce IT Security Awareness Program)」  


 連邦職員情報セキュリティ啓蒙プログラムでは、連邦職員に対して、インターネットのような情報システムに対する危険について教育し、各職員がそれぞれ適切で責任ある行動をとるよう促すのが目的である。同プログラムでは、CITEプログラムによって提供される授業やトレーニングを取り入れながら、全ての連邦職員が情報セキュリティについてのトレーニングを受けることを目標としている。同プログラムの導入は2001年度から、CITEプログラムと同時に開始されることが見込まれている。  



(2)サイバー市民パートナーシップ(Cybercitizen Partnership)  


 サイバー市民パートナーシップ(http://www.cybercitizenpartners.org)は司法省とITAAが共同して立ち上げたプログラムである。99年3月15日、ジャネット・リノ司法長官とITAAが共同記者会見を開き、米国の若者にインターネット上での倫理・責任について教育を施す、このパートナーシップの設立を発表した。サイバー市民パートナーシップは、米国の情報インフラの保護に務める民間と政府間の共同イニシアティブであり、このパートナーシップを立ち上げるために、司法省からITAAに対し30万ドルが供与されている。ITAAでは、司法省拠出分以外にも、趣旨に賛同する民間企業からの寄付も利用しながら、活動資金としている。  


 同パートナーシップで中核プログラムとなるのは、若者に良き「サイバー市民」となるための「サイバー市民啓蒙キャンペーン(Cybercitizen Awareness campaign)」である。その他にも、民間企業と連邦政府の間で人材交流を行ない、それぞれのセクターでどのようにインターネット上の犯罪に対処しているかを学び、それぞれのベスト・プラクティスについて理解を深めるプログラムも実施している。サイバー市民啓蒙キャンペーンでは、低年齢層に対して、インターネットの倫理的な利用方法や、オンライン上で罪となる行動について教育を行なうことを目的としている。このキャンペーンでは、9〜12歳の児童を対象に、様々なメディアを通じて啓蒙を行っていく。対象児童の年齢層が低いのが特徴であるが、それは既に米国内の児童の大半がインターネットを利用しており、高校生になってから倫理を教え込むのは遅すぎること、また、9〜12歳の時期に正しい倫理観を身につけることが重要であるというのが教育界においては一致した考えであるからである。   


 同キャンペーンの目的は、児童に対して以下のような教育を施すことである。  

  • サイバースペースを利用する利点と、責任についての理解
  • サイバースペースの誤った利用によって生まれる負の結果に対する意識
  • インターネット利用においてひそむ個人に対する危険性とそれを防ぐテクニックに対する理解
  • 成人となってからもこれらの原則を継続して守る責任執行能力  


 キャンペーンで利用されるメディアとして、テレビ、インターネット、インタラクティブ・ゲーム、学校における教育プログラム、本やパンフレット、その他、政府や民間企業による広報がある。同キャンペーンでは、近くウェブサイトを更新し、サイバー倫理(cyber-ethics)について、家族で話し合うことができるようなウェブサイトを作ることになっている。10月には、スカラスティック社(Scholastic, Inc.)と共同して、学校内における教育プログラムを立ち上げる。このプログラムでは、各学校の教師やコンピュータ管理者、図書館管理者がサイバー倫理の啓蒙を行なうのを手助けすることが目標とされている。


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