2001年5月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

2000年の回顧と2001年の展望


はじめに

 前任の長谷川英一氏に代わって、12月末よりニューヨーク駐在員として着任いたしました、荒田良平でございます。少し間が空きましたが、今月から駐在員報告を再開したいと思いますので、よろしくお願いいたします。  

 さて、第一回となる今回は、既に2001年に入って4ヶ月を経過しており今更という感があるが、例年1月の駐在員報告のテーマであった、前年の回顧と今年の展望について、今年に入って4ヶ月間の動向も踏まえて書いてみようと思う。



1. 2000年最大のトピックス 〜 ドットコム・バブルの崩壊

 ITを巡る2000年の動向を振り返るにあたっては、まずこの話題から始めなければならないだろう。インターネットの急速な普及と歩調を合わせて急成長を遂げてきたドットコム企業は、次々とIPO(新規株式公開)を果たして株式市場を加熱させてきた。2000年初頭の時点では、投資家たちは"インターネット関連企業"であるか否かという単純な基準だけで投資先を選定しているようにさえ思えた。しかし、当時のドットコム企業のほとんどは利益をあげていないと言われており、インターネット関連企業の株価高騰は"バブル"であるとして警鐘をならす声もあがっていた。(私は当時、自動車関連産業に係わる職務に就いており、自動車産業に業界再編の嵐が吹き荒れる中で、同業界関係者がインターネット関連業界を羨望と嫉妬の入り混じった複雑な目で見ていたのを思い出す。) その後、2000年3〜4月頃を境に一部インターネット関連企業の株価が急落し、一時はやや持ち直したものの、秋口からはYahoo!やAmazon.comといったも含めインターネット関連株全体が軒並み下落を始め、現在に至るまでその低落傾向には歯止めがかかっていない。(図1参照) そして、目の覚めた投資家たちがドットコム企業のビジネスモデルの収益性に厳しい目を向ける中で、多くのドットコム企業が市場から消えていったのである。


 この一連の現象を"バブル崩壊"と呼ぶかどうかはさておくとして、その「犯人探し」を行なった世論調査があるので、紹介しておこう。調査会社Pew Internet & American Life Project (http://www.pewinternet.org/)が2001年3月16日に発表した調査結果「Risky Business: Americans see greed, cluelessness behind dot-coms' comeuppance(危険なビジネス:ドットコムの報いに見る強欲さと愚かさ)」によると、ドットコム企業が苦しんでいる原因として、67%の人が「素早く利益をあげるためにリスクを顧みなかった投資家」、56%の人が「脆弱なビジネスプラン」、39%の人が「若くて経験の浅い経営者」、をあげている。強欲な投資家が悪いのか、一獲千金を夢見た起業家が悪いのか、はたまたドットコム景気を必要以上に煽ったアナリストが悪いのか。私にはどっちもどっちに思えるが...。ただし、忘れてはならないのは、確かに多くのドットコムは淘汰され、一時のドットコム・ブームは"バブル"と呼ぶべきものだったかもしれないが、このダイナミズムこそが1990年代の米国経済の繁栄を生み出した重要な要素の一つであり、現在の日本経済に最も必要とされるものであるということである。


図1 NASDAQ総合指数の推移(1999年4月〜2001年3月)

(出展: NASDAQ(http://www.nasdaq.com/)データより作成)


 さて、2000年はこのようにインターネット関連業界にとって大きな転機の年となったわけであるが、それでは、2001年にインターネット・ビジネスはどのような展開を見せるであろうか。ここで私の個人的な予測を書いても仕方ないので、控えさせていただくが、去る3月13日にボストンで行なわれた調査会社IDC(http://www.idc.com/)のセミナーで興味深いプレゼンテーションを聞く機会があったので、ここで紹介させていただく。  


 同社CRO(Chief Research Officer)のJohn Gantz氏は、「Business Takes the Leap: Old and New Worlds Collide(ビジネスは飛躍する:古今の壁)」と題したプレゼンテーションにおいて、業界は過去にも今回のドットコム・バブル崩壊と同じような経験をしたと指摘した。(皆さん何のことかお分かりでしょうか。)1983年、パーソナル・コンピュータの出現によって成長を期待されたPC関連企業の株価は急騰し、1982年10月時点でDow Jones指数1,000程度であったPC関連株は1983年5〜6月頃には2,500を越えるに至った。しかし、この"PCバブル"は長くは続かず、壁に当たったPC関連株は同年9月には1,500程度まで値を戻してしまったのである。  


 Gantz氏の言わんとするところはもうお分かりいただけたであろう。PC産業は1983年の"バブル"崩壊後も着実に成長を続け、1983年当時まだ駆け出しだった、または生まれてさえいなかったDell、Compaq、Microsoftといった企業が、今や世界にその名をとどろかす大企業に成長している。ひるがえって現在インターネット関連業界が直面している状況を考えると、今般の"バブル崩壊"は真に生き残るべき企業が生まれ、選別され、成長していくための一つのプロセスに過ぎず、何ら悲観的になる必要は無い。本当のインターネット関連業界の発展はこれから本格的に始まるのだ、そしてその中で最終的に勝ち残るのは貴方かもしれない、と同氏は言っているのである。  


 もちろん、インターネット関連業界の発展を"メシのタネ"としているIDC社のメッセージなので割り引いて考える必要があるが、こうしたメッセージが声高に叫ばれる背景に、現在インターネット関連業界が抱える苦悩、将来への期待と不安、それでも前進していこうとする意志を伺うことができて興味深い。Gantz氏の"予言"が当たることを期待したい。


 さて、冒頭にインターネット関連業界全般に関するトピックスとしてドットコム・バブルの崩壊を取り上げたため、何となく暗い書き出しになってしまったが、以下に、米国のITを巡る2000年の回顧と2001年の展望について書いてみたい。



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