2001年6月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるブロードバンドの動向」

 

はじめに

 

 今回は、米国のブロードバンドの動向について取り上げる。ブロードバンドについての報道は、米国では毎日のように新聞や雑誌を賑わせているが、その内容はその将来性に着目した前向きなものから顧客サービスの不備や事業環境の悪化を喧伝する後ろ向きなもの、果てはニューヨークのCATV会社タイム・ワーナー・ケーブルがライバルである地域電話会社ベライゾンのDSL(デジタル加入者線)サービスのCM放映を拒否したといった幾分ゴシップ的なものまで種々雑多である。

 

 日本でも、今年に入ってDSLの加入者数が急増し、2001年5月末時点で17.8万人に達したという報道がある一方で、三井物産や米国リズムズ・ネット・コネクションズなど14社が東京都内で試験サービスを行なっていたADSL(非対称DSL)の事業化を断念するとの報道がなされている。

 

 こうしたブロードバンド関連報道の加熱振りは、ブロードバンドがITを巡る当面の最大のキーワードの一つであることの証左であると言うことができるであろう。

 

 前任の長谷川氏は1999年9月の駐在員報告でブロードバンドを取り上げているので、この報告を参考にしながら、以下にその後の米国におけるブロードバンドの進展を整理してみたい。

 

 なお、本稿の執筆にあたっては、ガイアン・インターナショナル・ストラテジーズの原口健一氏に資料収集・整理などの面でお世話になっている。

 

1.ブロードバンドの契約者数

 

 最初に、ブロードバンドの契約者数の現状をチェックしておこう。

 

1 2001年3月末時点のカテゴリー別のインターネット接続状況

カテゴリー

契約者数

1Q/01成長率

有料Dial Up ISP

49,606,798

 7.61%

無料ISP

10,260,000

19.44%

ケーブル・モデム

4,931,419

18.01%

インターネットTV

1,204,000

0%

DSL

2,404,000

 1.97%

衛星

75,000

n/a

合 計

68,481,217

0.29%

(出展: Telecommunications Reports International)

 

 先月の駐在員報告でも取り上げた、調査会社TRI(http://www.tr.com/)のオンライン・センサスによると、2001年3月末時点におけるカテゴリー別のインターネット接続状況は、ケーブル・モデムが493万世帯、DSLが240万世帯となっている。先行するケーブル・モデムが着々と契約者数を伸ばしているが、有料ダイアルアップISPと比べるとまだ1割程度に過ぎない。

 

 また、Kinetic Strategies社(http://www.kineticstrategies.com/)が提供するCable Datacom News (http://cabledatacomnews.com/)も数字を出している。こちらはカナダを含めた数字であるが、2001年3月末時点における契約世帯数はケーブル・モデムが580万世帯、DSLが254万世帯、これが6月1日時点ではそれぞれ645万世帯、291万世帯に増えているという。

 

 ちなみに、全米ケーブル通信連盟(NCTA)(http://www.ncta.com/)によると、米国のテレビ所有世帯数は約1億世帯、うち7,000万世帯弱がCATVに加入しており、CATV普及率は68%程度であるという。つまり、CATV加入世帯に占めるケーブル・モデム導入世帯の比率は7%程度に過ぎない計算になる。

 米国のケーブル・モデムは契約世帯の絶対数だけを見ると相当普及している気がしてしまうが、普及率を考え合わせると、これを順調に伸びていると見るべきなのか、思ったほど伸びていないと見るべきなのかは悩ましいところである。

 

 また、TeleChoice(http://www.telechoice.com/)が行なった調査によると、2001年3月末時点におけるDSLの契約件数は291万件、うち家庭(個人事業者を含む)向けが73%、事業向けが27%などとなっている。

 

2 2001年3月末時点のDSL普及状況

サービス・プロバイダ

契約件数

家庭向け

事業向け

ILEC

 2,419,285

   80%

    20%

CLEC

   470,718

    43%

    57%

IXC

   24,000

   15%

   85%

合 計

 2,914,003

   73%

   27%

(注)

ILEC: Incumbent Local Exchange Carrier(既存地域電話会社)

CLEC: Competitive Local Exchange Carrier(新興地域電話会社)

IXC: Inter Exchange Carrier (長距離電話会社)

(出展: TeleChoice)

 

 なお、図1のグラフから読み取れるように、2001年第1四半期にはCLECsの契約者数が減少しているが、これはノースポイント・コミュニケーションズの破産法11条適用申請の影響であると考えられる。

 

 

図1 DSL契約者数の推移

(出展: TeleChoice)

 

 米国のDSLの契約者数についても、順調に伸びてはいるものの、DSLが普及するきっかけとなったCLECsの参入によるILECsとの競争が、ILECsの勝利に終わる気配が強まってきた中で、こうした競争環境の変化が今後のDSLの普及にどのような影響を与えるかが注目される。

 

 ちなみに、日本におけるブロードバンドの状況はどうだろうか。冒頭で、日本でのDSLの加入者数が急増し、2001年5月末時点で17.8万人に達したと書いた。総務省のホームページ(http://www.soumu.go.jp/)に数字が出ているので参考までに掲載しておこう。(図2) また、CATV網を利用したインターネット接続サービスの加入者数も出ているが、こちらは2001年3月末で78.4万人に達している。

 

2 日本におけるDSLの加入者数の推移

 


2 日本におけるDSLの加入者数の推移

(出展: 総務省)

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