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2001年7月 JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平 「米国におけるITソリューション・ビジネス」 |
はじめに 日本でも「ソリューション」という言葉が広く使われるようになって久しい。米国企業は1990年代、ITソリューションを最大限に活用することにより、生産性の向上、売上拡大、マーケットシェアの増大などを果たし、国際競争力の回復を見事に実現していったと言われている。ITソリューションは、経営革新、ロジスティクス、業務プロセスの再構築といった分野において効果を発揮し、米国産業の基盤強化や力強い成長に計り知れないインパクトをもたらしたのである。さらに21世紀に入ってからも、米国企業はITソリューションを活用することでさらなる業務プロセスの改革を進めており、柔軟で迅速な経営体制、海外競争力の強化を目指し飽くなき努力を続けている。 今回は、米国におけるITソリューション・ビジネスについて、市場動向とともにいくつかのケーススタディを取り上げる。なお、本稿は、ワシントン・コアに依頼してまとめてもらった原稿をベースにしている。 1.ITソリューション市場の動向 (1) ITソリューションの定義 最初に、ITソリューション市場の規模やトレンドなどの全体動向について見てみることとするが、その前に、ITソリューションの定義について触れておこう。 米国を代表するITサービスの業界団体であるInformation
Technology Association of America(IIAA)(http://www.itaa.org/)によると、ITソリューションは、@システム・インテグレーション、Aインターネット・ソリューション、BIT専門人材派遣、の3つの分野に大別されるという。 表1 ITソリューションの定義
(出典: Information Technology Association of America) ただし、最近では米国では「ITソリューション」という呼称はあまり使われず、一般には「ITサービス」という言葉が使われているようである。参考までに、IT専門投資コンサルティングのCherry Tree & Co.(http://www.cherrytreeco.com/)が用いているITサービス企業の分類は、表2のようになっている。 表2 ITサービス企業の分類
(出展: Cherry Tree & Co.) 「ITソリューション」と「ITサービス」の違いはわかりにくいが、もともとITは何らかの「ソリューション」を提供するという性格を持っているので、これらの違いが不明確なのは無理からぬところであろう。強いて言えば、増大する一方の「コンサルティング」や「アウトソーシング」のどこまでを含めるかという点で、ITサービスの方が少し広いで使われるような気がする。 (2)
ITソリューション市場の規模 さて、用語の定義はさておき、ITソリューションの市場であるが、IT関連業界の中でも最も急速に成長している分野として注目を集めている。米国企業は、ビジネスプロセスの効率化、市場シェア拡大、新規商品開発、意思決定のスピードアップ、コスト削減、売上・収益拡大、新規市場への参入といった多岐にわたる経営戦略を実現するため、ITソリューションを至るところに導入している。また、IT人材の不足は深刻化しており、社内のITプロジェクト実施に必要な人材を持たない米国企業は、外部のITソリューション企業に大きく依存している。さらに、目まぐるしく変化する市場に迅速に対応するため、社内の情報システム部門が従来手がけてきた戦略性の低いIT事業は次々とアウトソーシングするという傾向も依然として強く、ITソリューション市場の急成長に大きく貢献している。 調査会社スタッフィング・インダストリー・アナリスツ(Staffing Industry Analysts)(http://www.staffingindustry.com/)によると、米国のITソリューション市場は、1990年代後半から順調に成長を続けている。1997年には1,119億ドル規模であった同市場は、2000年には1,712億ドルにまで成長しており、2002年には2,178億ドルに達すると予測されている。また、ITソリューション市場の規模を分野別にみると、システム・インテグレーションとIT専門人材派遣が緩やかな成長をみせているのに対し、インターネット・ソリューションは爆発的な成長を遂げており、1997年には事実上ゼロに近かった市場規模も、2000年には212億ドルに達しており、2001年にはIT専門人材派遣を抜いて、300億ドル規模に達するとみられる。
図1 米国ITソリューション市場の分野別規模(単位:億ドル)
(出典: ”IT Services Business Report” Staffing Industry Analysts) インターネット・ソリューション市場の拡大は、年成長率の推移を見るとさらに明らかとなる。システム・インテグレーションが1998年以降は6〜8%程度で成長を続けている一方、インターネット・ソリューション市場は、1999年後半に3ケタ台の成長率を記録し、2000年に入ってからは幾分成長率も下がっているものの、2001年には50%、2002年には30%という高成長率を維持している。さらに、IT専門人材派遣が、1999年から2000年にかけて一時、成長が減速するものの、IT人材不足の深刻化を反映して、2001年以降は再び成長率が上がると予測されている。 表3 米国ITソリューション市場の分野別成長率推移
(出典: ”IT Services Business Report” Staffing Industry Analysts)
もちろん、ドットコム・バブルの崩壊や2000年の後半から始まった米国経済の減速の影響で、米国企業はIT投資を軒並み削減する中で、IT業界は大きな打撃を受けており、ITソリューション企業、とりわけサイエント(Scient)(http://www.scient.com/)、レーザーフィッシュ(Razorfish)(http://www.razorfish.com/)といった新興のウェブ・コンサルティング企業などは、急激な売上低下に見まわれるなど厳しい事業環境下に置かれている。しかし、業界関係者は、ビジネスの伸び悩みはあくまで一時的なものであり、経済成長減速においてもITソリューション市場は堅実な成長を続けると強気の姿勢を崩していないようである。その背景には、ますます激化する競争に打ち勝つためには、良質のカスタマーサービスを通した顧客定着率の向上、サプライチェーン・マネジメントによるコスト削減といった課題が今までにない重要性を帯びてきており、こうした方面でのIT投資は景気に関わらず今後も着実に伸びるはずだとの見方があるのであろう。 (3)
ITソリューション市場のトレンド 米国におけるITソリューション・ビジネス市場の最近の特徴としては、以下の点を挙げることができる。 成長を続けるウェブ・ソリューション 企業のeコマース事業を支えるウェブ・ソリューションは、依然として人気を集めている。当初は、ウェブサイトのデザインをはじめとするフロントエンドのソリューションを専門に提供するウェブ・インテグレーター(iXLエンタープライズ(http://www.ixl.com/)、マーチファースト(2001年4月13日に破産法11条を申請)など)が大きく成長したが、最近では、ウェブサイトやサーバーの管理を手がけるホスティングやセキュリティといった、ウェブサイトの運営・インフラ管理を中心とするバックエンド・ソリューションが成長している。 ニッチサービスに特化したソリューション企業の登場 ITソリューション市場では従来、大手企業がアウトソーシングやシステム・インテグレーション、コンサルティングといった多岐にわたるソリューションをまとめて提供するのが通例であった。しかし最近では、特定のニッチ分野に絞ってソリューションを提供するプロバイダーが登場しており、成功を収めている。こうしたプロバイダーには、インターライアント(Interliant)(http://www.interliant.com/)、クエスト・サイバー・ソリューションズ(Qwest Cyber Solutions)(http://www.qwestcybersolutions.com/)といった、アプリケーションのレンタルサービスを手がけるASP(Application Service Provider)、サイトロック(SiteRock)(http://mii.siterock.com/)、シルバーバック・テクノロジーズ(Silverback Technologies)(http://www.silverbacktech.com/)に代表される、社内システムのモニタリングサービスを提供するMSP(Management Service Provider)などが挙げられる。 大手と新興ソリューション企業の競争 ITソリューション市場は、EDS、CSC、IBM、米国の5大監査法人である「ビッグファイブ」といった大企業が長い間、市場を独占してきた。しかし、eビジネスの爆発的成長をきっかけに、大手ソリューション企業が持たない柔軟性とスキルを武器に新興のソリューション企業が相次いで登場している。セキュリティ・ソリューション企業のサイトスミス(SiteSmith)(http://www.sitesmith.com/)、オンライントレーニング・ソリューション企業のカリバー(Caliber)(http://www.caliber.com/)に代表されるこれらの新興企業には、大手で長年経験を積んだベテランが優れたスキルを持つ部下を引き連れて独立し、企業を興したというケースが多い。 活発なM&A、戦略的アライアンス 大手ITソリューション企業は、従来のデータセンター管理やコンサルティングといった事業に加え、M&Aや戦略的アライアンスを通し、eコマースの戦略コンサルティングやインフラ構築といった新たな事業にも積極的に進出している。とりわけ、特定のソリューション市場で定評のある中堅プロバイダーを買収し、自社の事業拡大を行う大手企業が目立つ。例えば、EDSは2001年、ドイツの中堅ソフトウェア・コンサルティング企業であるシステマティクス(Systematics)を買収し、CSCは同年、財務ソフトウェア開発会社のマインド(Mynd)を買収している。
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