2001年8月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国における電子政府の進展」

 

はじめに

 

 今回は、米国における電子政府の進展について取り上げる。  電子政府については、前任の長谷川氏が2000年6月の駐在員報告で取り上げており、その後まだ1年少々しか経過していない。しかし、ブッシュ政権でIT政策が少しトーンダウンしたように見える中にあって、2002年度予算案で2,000万ドルの省庁横断的な"E-Government基金"の創設が提案されたり、民主党Lieberman上院議員他から"E-Government Act of 2001"が提案されたりと、電子政府関連の様々な動きが起きている。また、2001年7月にワシントンDCで開催された電子政府関連のイベント"e-gov 2001"も盛況で、米国がIT不況の影に覆われる中で電子政府は産業界からビジネスチャンスとして期待されている。こうしたことも踏まえ、私自身の勉強という意味も兼ねて、今回電子政府の進展を取り上げることとした次第である。

 

1.                               最近のトピックス 〜”e-gov 2001”

 

 本題に入る前に、7912日にワシントンDCで行なわれたイベント「e-gov 2001(http://www.e-gov.com/egov2001/)711日に見に行く機会を得たので、以下に気付いた点をあげておく。

 

全体的に見ると、展示が350件以上集まり、来場者も比較的多く、一般受けするテーマではない割りには盛況という感じであった。(参加者は世界23か国から1,4000人で、前年比40%増とのこと。) なお、これとは対照的に、6月下旬にニューヨークで行なわれた恒例の大イベントである”PC EXPO”は、一般の来場者が多かった割りには例年の活気がなく(私は前回は見ていないので人から聞いた話だが)、コンピュータ業界の業績悪化を反映していた。

展示は、コンピュータのハード/ソフト、ITサービスのみならず、コンサルティング、通信、PDA(パーム)、雑誌などバラエティに富んでおり、また連邦政府機関や州/地方政府も目立った。様々な関係者が虎視眈々と新しいマーケットを狙っているという雰囲気があった。

展示内容自体は、通常のITソリューションビジネスの延長線上にあるものだが、6月下旬にリハビリ法508条に基づく政府調達規則(政府関係機関が調達するIT関連機器に障害者対応を義務付けるもの)が施行されたばかりということもあり、「508条対応」をうたった展示がいくつか見られた。

Government Solutions Centerという展示区画が設けられ、優良な取組みと認められた20以上の連邦/州/地方政府(ドイツの地方政府も含まれていた)や関係機関がデモを行なっていた。このCenterのスポンサーはアクセンチュア社であり、同社の電子政府にかける意気込みが感じられた。

このGovernment Solution Centerで、連邦政府とGeorge Washington大学など4大学の共同プロジェクトである”CIO大学”の卒業式が行なわれ、多くの来場者に見守られながら政府幹部職員や企業幹部の卒業生が卒業証書を受け取っていた。ビジネス界のみならず政府内部にも戦略的にCIOChief Information Officer)を育成し、その地位を向上させていこうとする取組みが印象的だった。

この日の朝の基調講演では、連邦政府General Accounting Officeの長官がスピーチをした。「電子政府推進のための最重要課題は”人(政府職員)”、次が”(業務)プロセス”、その次が”技術”」、「GAOは電子政府によって各省庁のパフォーマンスを高めるために協力を惜しまない(人員削減はあえて強調しない)」などの発言が印象的だった。

 

 なにぶんにも1日覗いてみただけなので、断片的で独断的な感想になってしまって恐縮であるが、御参考まで。

 

1 Government Solutions CenterにおけるCIO大学卒業式の模様


 

 

2.                               米国連邦政府の電子政府推進の動向

 

(1)  全体戦略

 

 さて、米国の電子政府の動向であるが、一口に電子政府といってもその内容は多岐にわたっており、また連邦政府のみならず州政府や地方政府までもカバーするのは容易ではない。ここではまず、連邦政府の全体戦略について見てみよう。

 前任の長谷川氏の20006月の駐在員報告にも詳述されているように、19972月に発表された「Access America Report」を策定したGovernment Information Technology Services (GITS)ワーキング・グループは、その後20004月にCIO協議会(Chief Information Officers Council(http://www.cio.gov/)に吸収されており、現時点で電子政府の全体戦略を担当しているのはこのCIO協議会ということになる。

 CIO協議会は、最新の戦略として2000年の10月に「Strategic Plan FY2001-2002(http://www.cio.gov/Documents/cio_final_strategic_plan_9_25rev.pdf)を策定しているが、この戦略では、6つの目標(Goal)を掲げ、それぞれの目標を達成するためのステップとしていくつかの目的(Objective)を設定し、それぞれの目的を実現するための具体的イニシアティブ(期限を明示)とその結果を評価するための指標を設定している。

 これを読むと、米国連邦政府の電子政府に対するアプローチの仕方が理解できるので、少し長くなるがポイントだけ仮訳したものを以下に掲載しておく。

 

目標1: すべての国民を政府の製品、サービス及び情報と結びつける。

 

目的1.1: 政府のサービスにアクセスするための単一窓口のポータル・モデルを開発する。<導入フェーズ>

イニシアティブ: 政府ポータルFirstGov.govの創設(2000101日まで)、5省庁の機能ポータル導入戦略の策定(2001331日まで)、など

評価指標: 200191日までに創設された機能ポータルの数(目標12)、など

目的1.2: 政府サイトの利用者(国民)にとっての価値を高める。<内容の質フェーズ>

イニシアティブ: 国民が政府と交流するための5つの中規模オープン・ディスカッション・グループの創設(2001930日まで)、など

評価指標: 2002101日までの連邦政府のルール・メーキングのうちオンラインで行なわれた割合(目標50%)、など

目的1.3: 連邦/州/地方/外国政府同士のやりとりをシームレス化する。<統合フェーズ>

イニシアティブ: 州政府との間での電子的情報・サービスの統合に向けた戦略の策定(200131日まで)、地方政府との間(200191日まで)、他の5か国との間(200311日まで)、など

評価指標: 政府レベル間及び国際間の電子的情報・サービスの統合戦略の策定(第一段階:200131日まで、第二段階:200191日まで、第三段階:200311日まで)、など

目的1.4: 国民と政府機関とのやりとりが容易かつ適切に本人確認されるようにする。<プライバシー保護フェーズ>

イニシアティブ: デジタル署名の使用促進(200111日までに10万、200211日までに100万)、政府利用のため少なくとも5社のPKI証明書を相互認証(2001101日まで)、など

評価指標: 200211日までに使用されるデジタル署名の数(目標100万)、200261日までに可能となった省庁間にまたがるデジタル署名利用の数(目標5)、など

目的1.5: 共同作業用ツールを利用して実行グループのコミュニティを設立する。<知識マネジメントフェーズ>

イニシアティブ: 関連コミュニティを支援するための共同作業用ソフトウェア・インフラの開発(2001930日まで)、など

評価指標: 2001111日までに関連コミュニティを3つ立ち上げ、など

 

目標2: 相互運用性があり革新的な政府全体のITイニシアティブを推進する。

 

目的2.1: 健全な政策/ガイダンス・フレームワークに基づく政府全体の相互運用性のあるPKI(公開鍵基盤)を開発する。

イニシアティブ: 少なくとも4つの異なる認証局製品が利用できるブリッジ認証局を設置(2001330日まで)、など

評価指標: 2002330日までに1外国政府及び1州政府との間で相互運用性試験が成功、など

目的2.2: オープンで標準化されたITアーキテクチャを利用する。

イニシアティブ: 連邦政府のアーキテクチャ・セグメントのためのモデル開発(2001930日までに2つ、2002930日までに更に35つ)、XMLの効果的かつ整合的な利用のための戦略と行動計画策定のための(xml.govにおける)オンライン情報リソースの開発(2001930日まで)、など

評価指標: 2002930日までに開発された省庁間にまたがるプロセスの数(目標最低2、一つは投資計画とITアーキテクチャのリンク、もう一つは連邦政府のアーキテクチャ開発への新技術の導入)、など

目的2.3: ITアクセシビリティ試験の標準を設定するための官民パートナーシップを確立する。

イニシアティブ: ITアーキテクチャへのアクセシビリティ改善に対する新技術の貢献度を定期的に評価するプロセスの開発(2001331日まで)、アクセシビリティに関する短期的行動と長期的調査ニーズの優先度を付けるプロセスの開発(2001331日まで)

評価指標: 2001331日までにこれら2つのプロセスを開発

目的2.4: 連邦ITアプリケーションに関する先進事例の共有を促進する。

イニシアティブ: 共通のビジネス・プロセスのためのグループの設立(200131日まで)、など

評価指標: 2002331日までに確立された複数省庁にまたがる共通システムの利用機会数(目標35)、など

目的2.5: 知識マネジメント・コミュニティのモデルを開発する。

イニシアティブ: 知識マネジメントのポータルサイト(www.km.gov)を通じたバーチャル・コミュニティの設立(2001630日まで)、など

評価指標: 2001731日までに知識マネジメントの先進事例ガイドの発行、など

 

目標3: 利用者が信頼してアクセスできる安全で信頼性のある情報インフラを構築する。

 

目的3.1: セキュリティの先進事例を蓄積する。

イニシアティブ: セキュリティハウツーのオンライン自習プログラムの提供(2001331日まで)、など

評価指標: 2001930日までのセキュリティ先進事例の数(目標200以上)、など

目的3.2: 連邦政府機関の初期セキュリティ評価能力を開発する。

イニシアティブ: ITセキュリティ評価フレームワーク(ITSAF)のバージョン1.0の発行(20001030日まで)、など

評価指標: 2001630日までにITSAFのための評価基準を公表、など

目的3.3: セキュリティ関連事件情報と早期警告情報の政府全体での収集、分析及び迅速な伝達プロセスを導入する。

イニシアティブ: 連邦政府全体での事件処理・早期警告システム導入のための役割・責任の明確化(20001031日まで)、など

評価指標: 2001731日までにセキュリティ関連事件の早期警告を訓練

目的3.4: 連邦政府機関が利用するためのセキュリティ・リスク管理プログラムを開発する。

イニシアティブ: リスク管理のための方法を開発公表(2001121日まで)

評価指標: 2001121日までにリスク管理方法を策定

目的3.5: クリティカル・インフラ保護(CIP)のガイドラインと勧告を策定する。

イニシアティブ: CIAOGSAOMBその他政府機関と協力してPDD-63(大統領指令63)の実施のための資金確保メカニズムに関する提案を作成(200231日まで)、など

評価指標: 2002331日までに連邦CIP認識計画を実施、など

目的3.6: 政府の電子的情報システムにおける個人のプライバシーを保護する。

イニシアティブ: 連邦政府の本人確認システムにおけるプライバシー保護方法の開発(200161日まで)、など

評価指標: 200181日までにシステム開発プロセスにプライバシーの影響評価を組み込む方法に関するガイドライン策定、など

目的3.7: 共通の電子的サービスのためのセキュリティ確保とプライバシー保護の事例を公表する。

イニシアティブ: ウェブ・ベースの情報サイトや資金取引・調達のためのセキュリティ確保とプライバシー保護の事例の特定(20001230日まで)、など

評価指標: 20001230日までに特定されるウェブ・ベースの情報サイトや資金取引・調達のためのセキュリティ確保とプライバシー保護の事例の数

目的3.8: 連邦政府のシステムにおける個人・企業情報保護を改善するための政策やガイドラインを勧告する。

イニシアティブ: OMBおよびNISTと協力してプライバシー及びセキュリティに関し連邦政府機関が活用する政策案を3つ作成(2002930日まで)

評価指標: 2002930日までに作成されるプライバシー保護やセキュリティ確保に関する政策案の数(目標3つ)

 

目標4: 目標を達成するためにITの技能を高め人材を確保する。

 

目的4.1: トップクラスのIT職員を惹き付け雇用できるよう連邦政府の能力を高める。

イニシアティブ: 地域のハイスクールにおいて連邦政府におけるITのキャリアに対する関心を高めるためのプログラムを民間セクターと協力して実施(2001930日まで)、など

評価指標: 2002930日までに実施されるNAPA連邦IT職員の課題報告書の勧告の数、など

目的4.2: 既存の連邦政府職員のための効果的なIT教育訓練の機会を拡大する。

イニシアティブ: 職員の中核的能力の訓練ニーズに見合うロードマップを策定(20011231日まで)

評価指標: 2001131日までにCIO交流プログラムを創設、2001430日までにCIO協議会の若手職員教育プログラムを創設、など

 

目標5: より良い政府を実現するため官民が協力する。

 

目的5.1: 連邦/州/地方/外国政府の代表者間の協力を促進する。

イニシアティブ: 2001930日までに議会レベルでの共通基盤フォーラムを実施、など

評価指標: 2002930日までに実施される連邦/州/地方政府機関の共通基盤フォーラムの数

目的5.2: 連邦部門と他部門の指導層間でより強力で生産的な協力関係を構築する。

イニシアティブ: 産業界と政界との間でのアイデアや情報の交換を引き続き促進、など

評価指標: 2002930日までに学界や産業界の指導層との間で実施される共通基盤フォーラムの数

目的5.3: CIO協議会の取組や実績に対する関係者の理解を高める。

イニシアティブ: 主要カンファレンスにおける協議会のプレゼンスの向上(2002930日まで)、など

評価指標: 2002930日までに主要出版物で取り上げられるCIO協議会ニュースの数、など

 

目標6: 政府のプログラムやサービスの提供を改善するため投資管理政策を策定・実施するとともにそのツールを提供する。

 

目的6.1: 企画、予算化、調達、計画管理のコミュニティとプロセスの統合を促進する。

イニシアティブ: 情報共有フォーラムが戦略企画を実施(2001228日まで)、など

評価指標: 20001130日までに設置される情報共有フォーラムの数(目標2、一つはCFO協議会(Chief Financial Officer Council)と、もう一つは調達協議会と)

目的6.2: 投資管理手法を一貫して適用する。

イニシアティブ: 政府機関の主要IT投資の効率を評価するための基準を策定(2001630日まで)、など

評価指標: 2001930日までに投資ポートフォリオと効率評価のための基準を利用する政府機関の数、など

目的6.3: 投資管理プロセスに連邦法上の規則を組み込む。

イニシアティブ: 投資管理プロセスに連邦法上の規則を組み込むためのガイドラインと枠組みを策定(2001831日まで)、など

評価指標: 2001831日までに投資管理プロセスに連邦法上の規則を組み込むためのガイドラインと枠組みを策定、など

目的6.4: 投資決定と意味のある報告のために使われるデータの質、正確さ、一貫性及び流通を改善する。

イニシアティブ: コストモデルとコスト報告のプロセス・様式の開発とI-TIPS(Information Technology Investment Portfolio System)との統合(2001630日まで)

評価指標: 2001630日までにI-TIPSとコスト報告モジュールを統合

目的6.5: ITの調達戦略を改善する。

イニシアティブ: IT専門サービスの調達のための契約方法に関する報告を策定(2002331日まで)、など

評価指標: 2002331日までにIT専門サービスの調達のための契約方法に関する報告を策定、など

 

 日本語にするとわかりにくくなるという面もあるので念のため補足しておくと、この全体戦略では、電子政府実現のための政府機関によるIT支出を、企業におけるIT投資と同様に「投資」という概念で捉えている。これは、1996ITマネジメント改革法(いわゆるClinger-Cohen Act)で明確に打ち出された考え方である。

 イニシアティブや評価指標を見るとありふれたものも多く、日本の実態と大差ないという気もするが、電子政府を「投資」と捉えて全体戦略を体系的に構築するというアプローチ、その思想については大いに参考にすべきであろう。


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