2001年8月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国における電子政府の進展」

 

(2)  電子政府の推進体制

 

 上述のように、連邦政府レベルでの電子政府の推進戦略はCIO協議会が策定している。では、このCIO協議会とはどのようなものなのであろうか。

 CIO協議会(http://www.cio.gov/)は、1993年政府業績評価法、1995年ペーパーワーク削減法及び1996ITマネジメント改革法(Clinger-Cohen Act)に基づきITシステムのマネジメントを改善するために1996717日付け行政命令13011によって設置された協議会であり、連邦政府機関の情報リソースの設計、更新、利用、共有及び性能の改善のため、連邦政府全体のITマネジメントのための政策・手続き・標準に関する勧告を行なうことなどを目的としている。

 このCIO協議会の前提として、各省庁にそれぞれの省庁のITマネジメントを行なうCIOが任命されており、これら各省庁CIOや他の関係する協議会(CFOChief Financial Officer)協議会や調達協議会)の代表者などでCIO協議会は構成されている。CIO協議会の議長は現在空席であり、財務省CIOJames Flyzik氏が副議長として議事を進めているようである。

 ブッシュ政権成立当初から、大統領が早急に各省庁に対し強力なリーダーシップを発揮できる「連邦CIO」を任命すべきだとの声が強かった。ブッシュ大統領は2001614日に、ユニシス社副社長のMark Forman氏をOMBOffice of Management and Budget)のAssociate Director for Information and Technology and E-Governmentに任命し、連邦政府のインターネット化推進、政府ポータルであるwww.firstgov.govの強化、”e-gov基金の監督や包括的なIT政策の立案に充てることとしている。

 

 もう一つ推進体制に関しここで触れておきたいのは、CIO大学である。

 最初の「e-gov 2001」イベントのところでも少し触れたが、連邦政府はワシントンDCから地理的に近い下記の4大学の協力を得て、バーチャルなCIO大学(http://ciouniversity.cio.gov/)を設置している。

 

George Mason University School of Management, Master of Science in Technology Management

Carnegie Mellon University Chief Information Officer Institute

George Washington University School of Business and Public Management, Integrated Master of Science Program in Information Systems Technology

University of Maryland University College Graduate School of Management and Technology

 

 4大学の受入コースを見てもわかるように、教育内容はいわゆる組織マネジメントからITの技術的内容まで多岐にわたっており、政府や民間企業の幹部クラスを対象に、各大学で土曜日などを使って授業が行われているという。CIO大学のカリキュラムの骨格は、1996 Clinger-Cohen Actに基づきCIO協議会が1997年に設定しており、これに基づき1999年から上記4大学がコースを設定し生徒の受け入れを始めている。

 政府と民間企業の幹部クラスが机を並べてITマネジメントを学ぶというこの取り組みはユニークで、クラスを覗いて見たいような誘惑に駆られる。CIO大学の評価を行なうには時期尚早かもしれないが、電子政府を単なるホームページによる情報提供に終わらせず、そこにを込めるためには、こうした努力が必要ではなかろうか。

 

(3)  電子政府関連の2002年度予算案

 

 少し古い話になるが、200149日に発表されたブッシュ新政権の2002年度予算案(http://www.whitehouse.gov/omb/budget/)の中から、電子政府関連予算について概観してみよう。

 連邦政府機関によるIT技術・システム・サービスの利用のための予算は、予算書では「連邦IT投資」と称され、予算書分冊”Analytical Perspectives”22. Program Performance Benefits from Major Information Technology Investmentsp361-p426)に、各IT「投資」の金額及びミッション・目標が取りまとめられている。2002年度の連邦IT投資総額は、対前年比1%増の4483,800万ドルである。

 

 

 

1 連邦IT投資‐全連邦政府機関の合計(単位:百万ドル)

                          プロジェクト件数    FY2000    FY2001     FY2002

重要なプロジェクト                 853       $18,947     $20,998      $21,358

顕著なプロジェクト               2,142       $16,859     $17,861      $17,555

小規模および他のプロジェクト                  $5,327      $5,447       $5,781

他の全ての機関による報告                  $113        $113         $144

連邦政府総計IT投資                     $41,246     $44,419      $44,838

 

 

 

 

 

 

 

(出展: Office of Management and Budget

 

 このように連邦政府自身のIT関連支出を政府のミッション達成のための「投資」と捉える考え方に基づき、新政権の2002年度予算書では、各省庁毎の予算案を記述する第3章の冒頭に1. Improving Government Performancep11-p18)という項目を置き、政府を国民を重視し結果主義・市場原理に基づくものにするための方策の一つとして、電子政府の推進を強調している。

 電子政府推進のための具体的な予算としては、「E-Government基金」の創設を提案している。2002年度に2,000万ドル、今後3年間で1億ドルの基金を創設し、省庁横断的な電子政府イニシアティブを支援するもので、OMB(行政管理予算局)が基金の管理・配分を行なう。政府のポータルサイトであるwww.firstgov.govの運営、政府が採用するデジタル署名を実現するための公開鍵インフラ(PKI)の開発などに活用される。

 また、民間において大きな成果をあげている電子調達を政府としての標準とし、取引コストの低減、在庫管理の効率化、ベンダー間競争による低価格化を実現するほか、契約業者が技術革新によってコストを低減させた場合にその一部を報酬として契約業者に還元してインセンティブとする”share-in-savings”方式の導入を提案している。

 

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