2002年2月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国におけるIT R&D政策の動向


2. 2001年度予算の概要及び2002年度予算要求

 (1)連邦NITRDの2001年度予算額と2002年度予算要求額

 それでは早速、2002年度版ブルーブックから、PCA別の連邦政府NITRDの2001年度予算額と2002年度予算要求額について見てみよう。(表3、表4) (なお、2001年7月公表のブルーブックにおけるこれらの数字は、2001年4月に発表された2002年度予算提案書の数字から少し修正されているので注意が必要である。)
   

3 2001年度の連邦政府NITRD予算(百万ドル)

 

機関

HEC

I&A

HEC

R&D

HCI

&IM

LSN

SDP

HCSS

SEW

合計

NSF

240.3

71.4

108.5

97.8

39.7

46.2

37.3

641.2

DARPA

54.4

41.8

37.4

48.2

43.7

32.2

-

257.7

NIH

48.8

10.7

70.8

75.6

4.6

9.6

9.7

229.8

NASA

65.2

21.6

22.7

22.1

18.0

21.0

6.1

176.7

DOE/OS

98.8

31.5

16.4

25.9

-

-

3.5

176.1

NSA

-

32.9

-

1.9

-

45.6

-

80.4

NIST

3.5

-

6.2

3.2

2.0

7.5

-

22.4

NOAA

10.3

1.7

0.5

2.7

1.5

-

-

16.7

AHRQ

-

-

8.1

6.0

-

-

-

14.1

ODUSD[S&T]

-

2.0

2.0

4.0

1.0

1.0

-

10.0

EPA

3.5

-

-

-

0.6

-

-

4.1

小計

524.8

213.6

272.6

287.4

111.1

163.1

56.6

1,629.2

DOE/NNSA

131.8

36.5

-

35.0

40.2

-

55.7

299.2

合計

656.6

250.1

272.6

322.4

151.3

163.1

112.3

1,928.4

(出展: 2002年度版ブルーブック)

 

4 2002年度の連邦政府NITRD予算要求

 

機関

HEC

I&A

HEC

R&D

HCI

&IM

LSN

SDP

HCSS

SEW

合計

NSF

249.7

65.1

104.8

98.0

39.7

46.1

39.1

642.5

DARPA

55.5

42.7

38.2

49.2

44.6

32.9

-

263.1

NIH

55.1

13.7

74.6

81.1

6.0

10.1

11.4

252.0

NASA

36.1

26.0

27.8

14.4

22.4

47.1

7.0

180.8

DOE/OS

98.3

31.5

16.4

25.9

-

-

4.0

176.1

NSA

-

33.6

-

1.9

-

46.6

-

82.1

NIST

3.5

-

6.2

3.2

2.0

7.5

-

22.4

NOAA

13.3

1.8

0.5

2.7

-

1.5

-

19.8

AHRQ

-

-

9.2

6.7

-

-

-

15.9

ODUSD[S&T]

-

2.0

2.0

4.2

1.0

1.0

-

10.2

EPA

1.8

-

-

-

-

-

-

1.8

小計

513.3

216.4

279.7

287.3

115.7

192.8

61.5

1,666.7

DOE/NNSA

133.8

37.0

-

35.5

41.1

-

56.5

303.9

合計

647.1

253.4

279.7

322.8

156.8

192.8

118.0

1,970.6

(出展: 2002年度版ブルーブック)


  ブッシュ政権の2002年度予算提案においては、NITRDについては、総額19億7,000万ドル、対前年比2%増にとどまっている。2001年4月に発表された2002年度予算提案書(http://www.whitehouse.gov/omb/budget/)の分冊”Analytical Perspectives”の7. Research and Development Funding(p133-p138)によると、R&D予算要求全体では952億5,300万ドル、対前年比6%増であること、またインフレ率が2%であることを勘案すると、NITRDについては「IT振興に力を入れていた前政権並みを何とか維持した」というところであろうか。ちなみに、省庁別のR&D予算案を見ると、DODとNIHが突出していることが明らかである。(NIHのIT関連予算であるバイオ・インフォマティックス予算も順調に伸びている。)


 (2) 省庁・機関別予算の概要

 2002年度版ブルーブックは、2001年度版に比べて大幅に簡略化され、個別プロジェクトについてほとんど触れない「読み物」になってしまっている。このため、各省庁・機関の具体的な活動を知るためには役に立たない。そこで、2001年4月に発表された2002年度予算提案書(http://www.whitehouse.gov/omb/budget/)などから、各省庁・機関におけるNITRDの予算や内容について以下に概観してみる。

  1. NSF
    2002年度のNITRD予算要求は6億4,300万ドルで、これはNSFのR&D全予算要求44億7,200万ドルのうち約7分の1を占める。NSFのR&D予算要求のハイライトとして、ナノ・テクノロジー1億7,400万ドル(16%増)が計上されている。また、IT関連の基礎的・長期的研究助成であるITR(Information Technology Research)イニシアティブも5%増の2億7,300万ドルとなっている。 なお、NSFは連邦R&D(バイオメディカル分野を除く)、特に基礎研究のR&Dマネージャーとして大学を中心とする研究機関でのR&Dプロジェクトの選定と資金提供に大きな役割を果たしているが、自らはR&D施設と研究要員は有していない。NSFのPACI(Partnerships for Advanced Computational Infrastructure)計画を通じて、産学官のパートナーシップのもとにサンディエゴ・スーパーコンピューティング・センター(SDSC)やピッツバーグ・スーパーコンピューティング・センター(PSC)などが運営されている。

  2. DOE
    2002年度のDOEの全R&D予算要求が3%減となる中で、NITRD予算要求は1%増の4億8,000万ドルとなっている。DOEのNITRDには、備蓄核兵器保全管理プログラムにおけるスーパーコンピュータによる核爆発のシミュレーション(通称ASCI)などが含まれる。また、DOEのOffice of Scienceでは、2001年度から大学・企業等によるスーパーコンピュータを利用した科学研究への助成プログラムSciDAC(Scientific Discovery through Advanced Computing)を開始している。

  3. DOD
    DODの2002年度のNITRD予算は、別途行なわれる防衛戦略の見直しの結果で決まる。DODにおけるNITRDの中心は、外局の一つであるDARPAによるものである。DARPAも自身は研究所・研究施設や研究要員を有せず、DARPAの研究マネジメントの下で、各分野におけるマネーシャーが大学・研究機関・研究企業等に契約に基づくR&Dプロジェクトを実施させている。 DARPAの研究プログラムは多岐にわたっており、その中には、量子コンピューティングの要素技術開発QuIST(Quantum Information Science and Technology)や、米国半導体工業会(SIA)との共同プログラムFCRP(Focus Center Research Program)などが含まれる。

  4. HHS(NIHを含む)
    HHSの2002年度のNITRD予算要求は、9%増の2億6,600万ドルとなっており、これは、新しい研究プログラムであるバイオメディカル情報科学技術イニシアティブ(BISTI)に向けられている。バイオ・インフォマティックスと総称されるゲノム・遺伝子解析・染色体配列解明などの研究は、高度の専門的コンピューティング技術に依存する所が大であることが十分に認識されているからである。

  5. NASA
    NASAの2002年度の全R&D予算要求が3%減となる中で、NITRD予算要求は2%増の1億8,100万ドルとなっている。地球・宇宙科学プログラムやComputational Aero-Scienceの分野で、モデリング・シミュレーションのための超演算機能・能力を必要とするため、種々の高性能コンピューティングのプロジェクトが進行している。

  6. DOC(NOAAとNISTを含む)
    DOCの全R&D予算要求が6%減となる中で、NITRD予算要求は5%増の4,100万ドルとなっている。DOCのNITRDの中心は、傘下の2機関、NOAAとNISTによるものである。

  7. EPA
    環境情報の処理、ネットワーク化のR&Dで、2002年度は50%減の200万ドルとなっている。特に地球規模の気候変化/温暖化に関するR&D、情報収集・処理分野での予算削減が大きい。
  以上のように、連邦NITRDとしては、NSFのほかDOEとDARPAが基盤的研究に対する資金拠出を行い、各省庁・機関がそれぞれのミッション実現のためのR&Dを行っている。

 なお、米国科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)(http://www.aaas.org/)の分析によると、図2のように、1999年度においてDODは連邦政府によるコンピュータ科学のR&Dの約3分の1、研究全体の1割強を担っているという。(機械工学や電気工学ではこの比率が7〜8割に達している。)


図2 連邦政府による研究のうちDODが占める割合(1999年)



(出展: 米国科学振興協会(AAAS))
←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は hasegawah@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.