2002年3月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その1)


はじめに

今回と次回の2回にわたり、米国におけるB2B(企業間)の電子商取引の動向について取り上げる。B2Bの電子商取引については、2000年の「ドットコム・バブル崩壊」を機に多くのeマーケットプレイスがそのビジネスモデルの脆弱性を露呈する中で、その将来見通しが下方修正されてきているものの、全体的には依然として将来有望な成長分野であることは間違いないのであろう。しかし、各論レベルになると、様々な事例と評価が飛び交い、なかなかその全体像がわかりにくい分野でもある。

そこで、今回は、まず米国におけるB2B電子商取引の最近の全体的な動向について取り上げ、次回にいくつかの具体例と今後の展望を取り上げることとする。なお、本稿は、ガイアン・インターナショナル・ストラテジーズの原口健一氏に依頼してまとめていただいた原稿をもとにしている。

 

本題に入る前に 〜2003年度大統領予算教書におけるNetworking & IT R&D

 本題に入る前に、先月の駐在員報告において、Networking & IT R&DNITRD)については2002年度の予算額は不明であると書いたが、その後24日に発表された大統領の2003年度予算教書の中におおまかな数字を見ることができるので、以下にご紹介しておく。

(出展: http://www.whitehouse.gov/omb/budget/fy2003/index.html

 

1 Networking & IT R&D20012003年度)

(単位: 百万ドル)

省 庁

FY2001実績

FY2002見込

FY2003提案

2002-2003増減額

2002-2003増減%

NSF

636

676

678

2

0%

HHS

277

310

336

26

8%

Energy

326

312

313

1

0%

Defense

310

320

306

14

4%

NASA

177

181

213

32

18%

Commerce

38

43

42

1

2%

EPA

4

2

2

0

0%

合計

1,768

1,844

1,890

46

3%

(出展: 2003年度大統領予算教書)

 

1に示したように、米国連邦政府の2002年度におけるNITRD予算額は、対前年比4.3%増の184,400万ドル、また2003年度要求額は対前年比2.5%増の189,000万ドルである。

ちなみに、この2002年度の伸び率4.3%というのは、NIHを除く非軍事R&D全体の伸び率6.0%(先月の駐在員報告の表5参照)に比べても小さい数字となっている。

参考までに、2003年度のR&D予算要求全体では、対前年度比8%増の1,1175,600万ドルが計上され、その中でITに関連する他のR&D予算を見ると、2003年度の国家ナノテク計画予算は、対前年度比17%増の67,900万ドルと大幅増となっている。

経済・社会におけるITの実用化・普及が進む一方で、より基盤的な技術であるナノテク分野で日本に遅れをとりかねないという現状を反映した予算要求になっていると言うことができる。

 

2 国家ナノテク計画(20012003年度)

(単位: 百万ドル)

省 庁

FY2001実績

FY2002見込

FY2003提案

2002-2003増減額

2002-2003増減%

NSF

150

199

221

22

11%

Defense

125

180

201

21

12%

Energy

88

91

139

48

53%

Commerce

33

38

44

6

16%

NIH

40

41

43

2

6%

NASA

22

22

22

0

0%

EPA

5

5

5

0

0%

Transportation

0

2

2

0

0%

Justice

1

1

1

0

0%

合計

464

579

679

100

17%

(出展: 2003年度大統領予算教書)




1.          
B2Bの電子商取引の沿革

さて、米国のB2B電子商取引であるが、まずeマーケットプレイスの動向を中心にその全体的な沿革についておさらいをしてみよう。

B2Bの電子商取引は、そもそもは1985年に米国防総省が軍事物資をコンピュータ・ネットワークで調達するシステム構築を実現し、それが大企業に導入され、業務上データの電子的な転送が行われるようになったことに端を発すると言われる。大企業は同システムをCALSContinuous Acquisition and Lifecycle Support)という名の下に、開発や設計、生産、保全までの情報交換に利用できるよう発展させた。その頃には、製造業界でもCADCAMCAEが利用され、ネットワーク上で転送するようになっており、こうした環境を背景に、企業間の専用回線によってデータ転送を効率化したEDI(電子データ交換)が、大企業における電子的なデータ転送の役割を担ったわけである。

しかし、インターネットが普及する以前、米フォーチュン1,000社のうち98%がEDIを導入済みであったのに対し、その企業数は、約750万社におよぶ全米企業のうち25万社にとどまっていたと言われており、EDIが中小企業にとってどれほど手の届かないシステムだったかが容易に想像できる。

その後、1990年代も半ばを過ぎると、インターネットの浸透によってローカル・エリア・ネットワーク(LAN)から派生したイントラネットおよびエクストラネットが発展し、パソコン主体のデータ転送が主流となった。そして、以前からEDIで電子的通信の基盤を持っていた大企業がインターネットに本格対応することで、B2Bコマースが一気に開花したという格好である。

さて、パソコン価格やISP(インターネット接続業者)のサービス価格が低下し、ウェブサイトを使った安価なインフラが普及し始めると、B2C同様にB2Bの電子商取引でもベンチャー企業の登場が急増した。特に1998年から2000年にかけて、豊富なベンチャー・キャピタルを調達できた新興企業が次から次へと参入し、eマーケットプレイスが急速に発展、B2Bコマースの主要部門となったのである。

従来のB2B電子商取引はあくまで、企業同士が既に築き上げてきた既存の販路(販売チャンネル)や調達の効率化を図るものだった。しかし、1999年以降、eマーケットプレイスは、業界の商習慣や慣例に支配されていたオフライン(インターネットを利用しない従来の方法)による企業間取引をオンライン化することで、市場の拡張と自由競争を持ち込もうとした。同時期に、多くの企業はコスト削減を目指してアウトソーシングを盛んに行い、その結果、企業は、事業ごとに提携先や取引先を変えることでより高い利潤を求める「バリューネットワーク」を形成するようになった。B2Bコマースはまさにバリューネットワークを実現するのに適した存在だったと言える。

さらに、1999年から2001年にかけてB2Bコマース・サイトの勃興に拍車をかける要因の一つとして、B2Cコマースに対する不信感があった。B2Bより1年早く火がついたとも言えるB2Cが投資回収に苦しんだという事情が投資家たちを慎重にさせ、ベンチャー・キャピタリストたちがB2CよりB2Bに注目していった。それを受けて、起業家たちもB2Bの事業計画を携え、ベンチャー・キャピタル調達に奔走し、事業を立ち上げていった。その一方で、B2Cコマース事業者の一部が、企業向けサービスに絞ることによってB2B市場に注力するという現象も頻繁に起こっている。

この時期は、企業によるIT投資が盛んでもあったことから、B2Bコマースへの期待も膨らんだ。例えば調査会社eMarketer(http://www.emarketer.com/)によると、1999年、米国内の中小企業がITに費やした費用は総額2500億ドルに達していたという。こうした市場動向を背景に、2000年のピーク時にはおよそ1,000に及ぶeマーケットプレイスが乱立するようになったとも言われる。

第二次産業のeマーケットプレイスは当初、産業または企業ディレクトリ(案内)、製品データベース、カタログ掲示という基本的な情報を提供するにとどまっていた。こうした中でeマーケットプレイスの基盤を確立したのが、B2BコマースにおけるYahoo!にあたる存在となったバーティカルネット(VerticalNet(http://www.verticalnet.com/)であった。

バーティカルネットは、業種を縦割り(バーティカル)に整理して業界コミュニティを形成、膨大な情報を掲載すると同時に業界内での売り手と買い手をインターネット上で結ばせる役割を果たした。その後、おそらく主要なものだけでも何十種類という業界B2Bコマース・サイトが立ち上がり、コミュニティ・サイトという性格を薄れさせながら純粋なコマース(商取引)本位型のサイトを運営し始めたのである。

 そして次の段階が、企業の運営上での様々な部門や過程を電子化していくというシステム構築サービスで、その典型例がERP(統合業務パッケージ)、SCM(サプライチェーン・マネジメント)、CRM(顧客管理)となる。ここに至って、1980年代に大企業しか導入できなかった運営・経営システムがインターネットで中規模企業に浸透する環境ができあがったとも言える。SAPIBM、オラクルはオフライン時代から、1プロジェクト1億円以上もするERPを大企業相手に販売していたが、eマーケットプレイスの隆盛後、最初からインターネットを利用した業務ソフトウェアならびに包括的なシステム、さらにはコンサルティングを含めた付加価値サービスを提供するi2テクノロジーズ(i2 Technologies)やコマースワン(Commerce One)といった企業が成長するに至った。



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