2002年3月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その1)


2.           ネットバブル崩壊によるB2B電子商取引への影響

(1)          2001年から本格的な淘汰の時代へ

さて、2000年までに乱立したB2Bコマース企業も、2001年に入り本格的な淘汰の時期を迎えることになった。Webmergers.com(http://www.webmergers.com/)の調べによると、2001年に閉鎖したドットコム企業は少なくとも537サイトにのぼり、そのうちB2Bコマース・サイトはおよそ40%を占めている。2000年におけるB2Bの割合は22%だったことからも、2001年がB2Bコマース・サイトにとって厳しい年であったことが伺える。

こうした中、ネットビジネスのアナリストらはB2Cコマース市場での経験を基に、B2Bコマース市場でも統廃合が繰り返され、生き残れる企業は各分野で3社程度になるとの見方をしているようだ。また、調査会社フォレスター・リサーチ(http://www.forrester.com/)は、今後2年間で生き残るeマーケットプレイスはわずか100程度と見ている。


1 ドットコム企業の倒産件数(20001月〜200112月)

(出展: Webmergers.com



3 ドットコム企業の倒産件数(顧客別)

顧客

2001

2000

企業

217

40%

49

22%

消費者

223

43%

165

73%

一般

86

17%

11

5%

合計

537

100%

225

100%

(出展: Webmergers.com



事業閉鎖に追い込まれていったeマーケットプレイスの失敗原因としては、既に様々な指摘が行われているが、主に次のようなものを挙げることができる。

a 業界の潜在顧客が保守的で、普及が困難

b パブリック・エクスチェンジの浸透が予想以下だった。

c ERPSCMCRMといったバックオフィス機能の統合に出遅れ

d 経済の低迷、ITへの投資が減少

e 競合他社が乱立する一方で、差別化が図れない

f 収益増を狙い、手数料が高額となり、売り手が離脱

g 採算が取れないニッチ市場への参入



(2)          パブリック・エクスチェンジからプライベート・エクスチェンジへ

パブリック・エクスチェンジは企業同士の従来関係にとらわれず、広く一般から売り手と買い手を集めて、オンライン上での取引を成立させる。パブリック・エクスチェンジが登場した当初は、業界内の商習慣や慣例によって価格や取引が決定されていた保守的な産業界に自由競争をもたらすと期待されていた。しかし、例えばオンライン・カタログを参照する企業数は増えたものの、実際の取引は行われなかった。結局、大口取引は、価格が問題なのではなく、やはり長年にわたって培われてきた取引先への信頼であるということが証明されることとなった。

そこで、従来から取引を行ってきた企業間でオンライン取引による効率化を図ろうという発想で登場したのがプライベート・エクスチェンジだった。プライベート・エクスチェンジは、パブリック・エクスチェンジが大々的なマーケティングによって売り手と買い手を呼び込むことに傾注したのと全く違い、取引先の面々が最初からある程度わかっており、従ってどこと何をどれだけ取り引きするかというよりも、取引をどのように処理するかに重点が置かれる。

また、こうした中で、コンサルティング業者が特定のプライベート・エクスチェンジのためにシステム構築やプラットフォームの開発と導入を手がけるという周辺サービス市場も成長した。プライベート・エクスチェンジの構築、管理を提供するソリューション・プロバイダとしては、IBMのほか、アクセンチュア(Accenture)、プライスウォーターハウスクーパース(PricewaterhouseCoopers)、デロイト・コンサルティング(Deloitte Consulting)などが名を連ねている。

このように、結果として、2001年はB2Bコマース市場にとって淘汰の時期であると同時に、オープン市場の中の閉ざされた市場という特殊な環境を形成するプライベート・エクスチェンジへの転換期を迎えたことになる。調査会社AMRリサーチ(http://www.amrresearch.com/)は、プライベート・エクスチェンジの市場が2001年から向こう5年間で600億ドル規模に達すると見ている。

 

(3)          ベンチャー・キャピタルの動き

一方、ベンチャー・キャピタリストたちは、ネットバブル崩壊を受けてどのように対応してきたのだろうか。AMRリサーチによると、1999年にプライベート企業(未上場企業)へ流れたベンチャー・キャピタルは400億ドルだったが、2000年には1,000億ドルまで膨れ上がったという。しかし、2000年後半を境に、ベンチャー・キャピタリストらがIT事業から相次いで撤退し始めた。その一方で、わずかな投資はコンソーシアム、プライベート・エクスチェンジとそのソリューション・プロバイダーへと流れるようになったと言われる。経済の回復が見込めるまで、ベンチャー・キャピタリストらの動きは停滞するというのが大方の見方だが、その一方で、有望ビジネス・モデルの物色は続けられているという。

では、ベンチャー・キャピタリストらの認識と彼らの考える有望ビジネス・モデルとは何なのだろうか。インターネット関連ベンチャーのメッカ、ニューヨーク・シリコンアレーのベンチャー・コミュニティを取材した原口健一氏によると、主な傾向としては以下のようになるという。

 

<認識>

通信業界へのVCの流れが全盛期(19992000年春)の5分の1以下になっている。

以前なら1年半から2年でIPO(新規株式公開)を期待できたが、今では57年は覚悟しなければならない。

テロで業界全体が悲観的になっているため、短期的結果を期待しない。

アイデア先行型では無理。資産となる技術が必要。

特にテロ後、見通しが悪くなり、予測が困難になっている。

90年代終盤にVCが立ち上がりすぎているため、淘汰される必要がある。

<作戦>

データ通信に関する技術やその他の軍事技術、あるいは保全技術、ストレージ事業に重点を移行させる。

IPOを狙うよりも、売却を考える。

長期的成功しか望めなくなったため、せめてキャッシュ・フローが短期で黒字になるビジネス・モデルを探す。

他にない技術を持っていること。

単独投資を減らし、他のVCが複数入るように投資し、リスクを分散させる。

ベンチャー・ビジネスが回復するには1年〜1年半はかかるため、スタートアップの資金消耗率(バーン・レート)を抑える。



悲観的な観測が大半を占めるが、それと同時に、新興ベンチャー企業(スタートアップ)の方もベンチャー・キャピタリストの方も淘汰されて、本当に競争力のあるところが残り、それは業界経済にとって望ましいことだという認識がベンチャー・キャピタリストたちの間に浸透しているようである。

 

さて、表4をみると、インターネット事業への投資は明らかに激減している。ところが、2001年の後半になると、一概にそうとも言い切れなくなってきている。表5は、20017月から10月までにベンチャー・キャピタリストらが主要分野にどれほど投資したかを部門別・月別にまとめたものである。この表からわかることは、ソフトウェア開発分野へのベンチャー・キャピタル投資は安定しており、そして、景気後退から脱出していないにもかかわらず2001年第3四半期からすでに上向き基調に移っていることである。これは、遺伝子工学を中心とするライフ・サイエンス(生命科学)とワイヤレス(携帯電話とPDAによるMコマース市場に目をつけた結果)にも当てはまる。また、額は大きくないがコンピュータとインターネット取引関連のセキュリティ・システムも急速に伸びている。9月のテロ効果の一つといえる。

一方、2000年に好調だった通信部門とeコマース・ソリューションが2001年には資金を調達できなくなっている。両部門とも淘汰が厳しく、ベンチャー・キャピタリストらは新規事業計画へは目を向けず、既に資金を注入している生存可能企業への追加注入という形が主流となっているようである。



4 ネット関連ビジネスへのVC投資の比較

 

投資総額

投資成立件数

2000年第1四半期

265億ドル

1569

2001年第1四半期

125億ドル

725

(出典: Venture Reporter 200212月号)



5 ネット関連ビジネスへのVC投資の比較

 

20017

20018

20019

200110

ソフトウェア

$6.59億(92件)

$5.94億(76件)

$5.97億(69件)

$6.07億(80件)

遺伝子工学

  5.06億(41

 7.58億(42

 3.31億(27

  5.10億(35

ワイヤレス

  3.49億(23

 1.44億(23

  1.68億(17

 4.47億(34

セキュリティ

  0.66億(6

 0.41億(7

 0.84億(8

  1.38億(11

テレコム

  3.09億(8

  1.94億(9

  0.46億(6

  0.35億(6

コマース

  1.53億(29

  0.96億(16

  0.69億(7

  0.04億(3

(出典: Venture Reporter 200212月号)



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