2002年4月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるB2B電子商取引の動向」(その2)



(2)          コビシント(Covisint, LLC) 〜 自動車業界向けプライベート・エクスチェンジ

<企業プロファイル>

■所在地: ミシガン州サウスフィールド

URL: http://www.covisint.com

■設立: 2000

■最高経営責任者: Kevin English

■企業形態: プライベート


<業界背景と沿革>

 世界の自動車業界における製品・サービス取引総額は年間13,000億ドルに達し、同業界のサプライヤー数は約3万社にも及ぶ。この巨大産業の効率化を試みて、自動車メーカーらがコンソーシアムとして2000年に設立したのがコビシントだった。

 コビシントは、ゼネラル・モーターズ(GM)とフォードが自社の部品調達システムとして設立したB2B企業が前身となる。それぞれのB2B企業が合併し、後にダイムラークライスラーが出資参加し、同年4月には、ルノー/日産、そしてその後にはプジョー・シトロエンが出資を発表した。一方、IT業界からも、コマースワンやオラクルが共同出資に参加し、業界の期待を一手に担う一大コンソーシアムが誕生した。その他にも、世界最大の自動車部品提供会社デルファイ・オートモーティブをはじめとするサプライヤー大手が公式に参加を表明している。同社は20009月、米連邦取引委員会(FTC)の独禁法調査を終え、2001年に入り事業立ち上げの態勢が整った。

同社のプライベート・エクスチェンジ・システムにはおよそ1,700社の顧客企業がアクセスし、20018月時点、同サイトが8ヵ月間で取り扱った取引はおよそ1,290億ドルに達している。これは、ビッグスリーが2000年に費やした取引総額2,400億ドルの53%にあたる。今年に入り、GMはすでに960億ドルの資材を同サイトで購入したほか、22億ドル相当のオンライン・オークションも行っている。同社は現在、サプライヤーによる200以上のカタログを取り扱っている。従業員数は約350人である。


<ビジネス・モデル>


 コビシントは、自動車産業界における業界内商取引をオンライン上で統合化することで、サプライ・チェーン・コストの削減および生産性の効率化を目指している。同社は、自動車関連業者に対して主に調達とサプライ・チェーン・マネジメント(SCM)サービスを提供する。

■調達

同社の調達部門は、1)オークション、2)電子カタログ、3)オンライン見積もり、4)資産管理の4つに分けられる。

1)コビシントは会員企業に対し、製品とサービスのオンライン・オークションを提供する。売り手は、サービスや機材、余剰在庫、不要資産をそのオークションに出品し、購入希望者がオンライン上で入札額を提出する。

2)電子カタログでは、会員サプライヤーの製品を電子カタログ化し、ウェブ上に公開するとともに、その場で取引を実現する。カタログには一般価格表以外に、個々の顧客企業に対し、第三者には公開せずに特別価格を提示できる。いわゆるプライベート・エクスチェンジとパブリック・エクスチェンジを選択できる仕組みで、カタログも顧客専用カタログとコミュニティ・カタログが別途用意されている。前者に掲載された製品・サービスは売り手と買い手の関係によって独自の価格がつけられているが、後者には、売り手が定めた一般価格が表示されている。

3)コビシントはオンライン見積もりによって、品質、サービス、技術力、価格、入札を評価する機能を提供し、取引の効率向上を目指す。買い手は、業者選定の詳細条件をオンライン・データ・ライブラリに保存し、その内容をインターネットを通して売り手に告知する。売り手はその告知内容に返信しながら商談を進めていく仕組み。このオンライン見積もり機能は、提示見積額を分析し、ROI(投資利益率)を算出できる。

4)コビシントはそのほか、資産の管理運営、リサイクル、資産の償却を目的にしたサービスを提供する。会員向けの主なサービスとしては、資産価値鑑定や市場調査、販売促進、製品検査、保険手続き、保障、買い手信用調査、倉庫管理などといった調達関連の付加価値業務がある。

SCM

自動車業界における在庫の原価は年間売り上げの1015%に相当するため、コビシントは会員業者の在庫を最小限に抑えることを目的に、「製造計画→原材料調達→部品の受領→生産→輸送→製造計画」という過程を形成した。業者らはいったん登録を済ませると、インターネットを利用して、物流、在庫、製造計画を効率的に管理できる。

物流ではまず、日程スケジュールに従って、受注製品を効率的に輸送・運搬し、買い手が発送を確認できるようにする。ここでは、出荷日程、輸送会社の実績分析、出荷状況の確認、過去の実績報告など物流に必要な全ての機能を兼ね備えている。そして在庫管理では、上記のサプライ・チェーンの過程上で発生する受発注状況や在庫水準といった情報を買い手と売り手にリアルタイムで提供する。サプライ・チェーンに参加する企業は需要状況を瞬時に把握できるため、サプライヤーは供給過多を防ぐことができる。そして、買い手と売り手は、製造計画機能を使用して、同じ日程に添って作業できる。

 なお、コビシントの収入源は、会員企業からのライセンス料や取引手数料、さらに利用するサービスによって変動する追加料金となっている。利用金額は各社の契約内容によって異なり、公開されていない。


<中核的競争力とその特色>

 コビシントの競争力は、ビッグスリーをはじめとする共同出資社・参加企業の規模と実績に支えられている。ビッグスリーの1999年の資材購入総額は、フォードが850億ドル、GM870億ドル、ダイムラークライスラーが800億ドルで、それらの企業がそれぞれ約3万社のサプライヤーと取り引きしている。

 結成された段階から強力な顧客基盤を持っていたため、事業拡張は非常に円滑に行われている。例えば、同社は世界規模のパートナーシップを確立するために、日産と仏ルノーを出資社として加えることに成功、それにより、アジアとヨーロッパ市場での展開が可能になった。また、コビシントは、大企業のネットワークを持つヤング&ルビカム社に世界規模のマーケティング・キャンペーンを依頼しており、米国、カナダ、英国、フランス、ドイツ、日本のビジネス雑誌や取引事業関連誌、またインターネット広告でも露出度が高く、知名度の確立が順調に進められている。

 コビシントはまた、コマースワン(Commerce One)を含む多様なIT企業を自社ネットワークに参加させ、共同開発に力を入れてきた。そのほか、アプリケーション統合を行うメルカトール(Mercator Software)、物流管理と需要予測を行うサプライソリューション(Supplysolution)や、製品開発、調達、サプライ・チェーン管理を行うウェブメソッズ(WebMethods)、サン・マイクロシステムズとも提携し、システムの高性能化を実現している。実際、コビシントはそういった技術系提携企業の協力で新システムを開発中で、モルガン・スタンレーは、コビシントがそれに成功すれば、19,000ドルの新車1台が製造されるのに最高3,000ドルの製造経費が節約できると予測している。


<課題>

 コビシントは、鳴り物入りで立ち上がった印象を与えるが、同事業への参加・登録に難色を示す業者も少なくない。同社のサービスを懐疑的にみるサプライヤーは、セキュリティへの懸念を理由として挙げている。これは、製品デザインといった機密情報がオンライン取引で競合他社に漏洩するのを恐れているためである。。当面は企業の購入がごく一部の汎用製品に限られてしまう可能性も指摘されている。

 また、企業間のシステムに互換性を持たせるのが非常に難しく、さらに複雑なシステムは業者が変れば新たに設置し直す必要が出てくる。コビシント参加のために数百万ドル〜数億ドルの費用をかけて技術を導入するのであれば、工場改善や賃上げ、福利厚生向上に経費を回した方が得策と考える企業もある。

 そうした点を踏まえると、今後は、同システムを懐疑的にみる企業を説得し、システムをいかに普及させていくかが課題となる。さらに、手数料引き下げを求める声も高まっており、取引額の一定割合を徴収する方式から取引毎に一定額を徴収する方式への転換が迫られている。高額手数料を理由に参加を敬遠している業者に対し別な選択肢を提供し、「コビシント離れ」を回避する必要がある。


<今後の方向性>

 コビシントは20019月、自動車業界に携わるより多くの企業を自社ネットワークに取り込むために、情報ポータル「コビシント・インダストリー・ポータル(CIP)」の作成に着手し、完成させている。同社はSCMを通じてデータの同期化を提供し、それを業界標準として定着させていく考えである。他の大手が反発する可能性も高いが、各企業がポータルの規格に準拠すれば、今までにないシームレスなデータ交換の場が形成されることになる。同社は2001年の終わりにCIPを試験的に導入しているが、実態は明らかにされていない。

 コビシントの長期成長率を予測するには時期尚早だが、世界規模のマーケティングを行って参加サプライヤー数を増やし、13,000億ドルの自動車業界に改革を起こすことができれば、著しい成長を遂げることになると考えられる。



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