2002年6月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるバイオ・インフォマティックスの動向」



2.           バイオ・インフォマティックスの市場動向

(1)          バイオ・インフォマティックスの市場規模

では、バイオ・インフォマティックスの市場規模はどうなっているのであろうか。

調査会社IDChttp://www.idc.com/)が20023月に発表したバイオIT市場の成長予測によると、2001年の市場規模は130億ドルであったが、2005年までに年平均24%の伸びを示し、2006年には380億ドルまでに成長するという。(図表2

 

図表2 バイオIT市場の成長予測(20012006年)



(出展: IDC

 


IDCによると、このバイオIT市場の2006年における分野別規模ではストレージ・システムがもっとも大きく118億ドルとなる見通しで、バイオIT市場全体の31%を占める。そしてサーバー・クライアントが80億ドル、支援サービスが72億ドル、解析ソフトウェア構築が68億ドルと続く。

ストレージ・システムの市場成長が最も大きい理由は、ポストゲノム時代の研究において取り扱うデータが幾何級数的に増大しているためである。例えば、ヒトゲノムを構成している塩基数は約30億と言われ、この中に数万から10万と言われる遺伝子が点在しているが、こうした膨大なデータを処理し複雑な分析を行うためには、その前提として巨大なストレージ・システムが必要となることは明らかである。民間企業としては世界最大規模と言われるグローバル通信大手SBCコミュニケーションズ社のデータ・ウェアハウスが125TBであるのに対し、今やセレーラ・ジェノミクス社は250TBのストレージ・システムを有していることからも、この分野におけるストレージ・システムの需要の大きさが伺える。

また、膨大なデータの複雑な解析が必要となるに従い、サーバー・クライアントに対する需要も増加する。ギガビットまたはそれ以上のネットワーク・インフラストラクチャに対する需要も同様に増大し、さらにデータとアプリケーションの統合やプロセス・リエンジニアリング、システム設計・構築、コンサルティング・サービスへの需要も増える。これにより、ネットワーク分野では33%、支援サービス分野では33%の成長が見込めるという。

 

さらに、エンド・ユーザー別で見ると、製薬、バイオテクノロジー、基礎研究が、インフラ整備のために多額の投資を行っており、インフラストラクチャへの投資額で見た場合の上位ターゲットとなっている。(図表3

 

図表3 エンド・ユーザー別の成長予測(20012006年)



(出展: IDC

 


IDCは、「バイオ・インフォマティクス分野は、IT業界における利益を押し上げる推進力となる。高速処理コンピュータとサーバー、ストレージ・システムとデータ・マネジメント、ナレッジ・マネジメント、データベース技術とツール、可視化のためのツール、アプリケーション・ソフト、それに伴う開発・導入・サポート・サービスなど、ITベンダーが提供できる商品とサービスの幅は非常に広い。少なくとも今後10年は需要が続くだろう」としている。

 

(2)          ユーザー業界の動向 〜 製薬

バイオ・インフォマティックスのユーザー業界側の状況についても以下に触れておこう。

まず製薬業界についてであるが、図表4のように、特に米国の医薬品業界の売上高は、年率10%を超える高い成長が見込まれている。

 

図表4 世界の上位10医薬品市場の今後の成長予測(2000年)


(出展: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)

 


この米国の医薬品業界は、年間200億ドルを超える研究開発費を支出しており、研究開発費の売上高に対する比率も増加傾向にある。(図表5、図表6

当然のことながら、医薬品業界の売上高は国の医療保険制度によって大きく影響を受けるため、米国民の薬剤費負担増への批判も強い中で米国医薬品産業の年率10%を超える伸びが続く保証はないとしても、IT業界にとって医薬品業界は現状では非常に有望な市場であることは間違いなさそうである。

また、調査会社ガートナー/データクエスト(http://www.gartner.com/)は、販売・マーケティング向けなども含めた医薬品業界のIT支出は、2000年の30億ドルから2005年には55億ドルに拡大すると(IDCに比べるとかなり控えめに?)予想している。

 



図表5 日米の医薬品産業の各研究開発費

(出展: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)

 



図表6 研究開発費及び研究開発費の売上高に対する比率の日米比較

(出展: 厚生労働省「医薬品産業ビジョン(案)」)



←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.