2002年8月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるワイヤレス市場の動向」(その2)


 今月は、前月に引き続き米国におけるワイヤレス市場の動向ということで、第3世代の高速モバイル通信サービスや最近の最もホットな話題であると思われるワイヤレスLANについて取り上げる。

3.           3世代の高速モバイル通信サービス

(1)          3世代(3G)とは

3世代(3G)のモバイル通信システムは、国際ローミング、固定電話並みの音声品質、2Mbps程度の高速データ通信などの実現を目指して、ITU(国際電気通信連合)の場で標準化が進められてきたものであり、IMT-2000International Mobile Telecommunications - 2000)の名で知られている。

世界的には、NTTドコモが200110月からW-CDMA(注5)方式の「FOMA」によって先陣を切って本格サービスを開始したが、米国でも20021月末にVerizon Wirelesscdma2000 1XRTT方式のサービスを開始している。

ただし、このVerizon Wirelessのサービスについては、平均で4060Kbpsのデータ通信速度しか得られないことから、3Gではなく2.5G相当だとする批判もあり、また周波数帯域も3G用帯域の世界標準として指定された帯域ではなく既存の2G用の周波数帯域を活用している。こうしたこともあってか、Verizon Wireless自身はこのサービスを「3Gサービス」として売り出すことはしていないようだ。

(注5W-CDMAWideband CDMA: NTTドコモやEricsson社などが開発しIMT-2000規格として採択された第3世代携帯電話の通信方式で、高速移動時144Kbps、歩行時384Kbps、静止時2Mbpsまでのデータ伝送に対応できる。なお、「FOMA」のサービス導入時のデータ伝送速度は、回線交換(回線占有)で64Kbps、パケットで下り最大384Kbps、上り最大64Kbpsである。

ここで、そもそも3Gの定義は何か、ということついて触れておくと、厄介なことにこれがはっきりしていない。cdma2000 1XRTTIMT-2000で採択された方式ではあるものの、IMT-2000が目指す機能・性能から見るとデータ伝送速度面で物足りなさが否めないため、3G2.5Gかという議論が起こるようだ。

参考までに、3G Newsroom.comhttp://www.3gnewsroom.com/index.htm)というウェブサイトを見ると、Newsweek誌による図表1のような分類が掲載されている。この分類によると、要するに、IMT-2000で目標とされる高速(自動車速度)移動時のデータ伝送速度144Kbpsに満たないものは2.5Gと位置づけられている。

「世代」というのはあまり本質的な議論ではないので、便宜上本稿ではVerizon Wirelessのサービスは3Gサービスとして取り扱う。しかし、米国の3Gサービスは現状では未だ2.5G相当であるとの指摘があることに留意が必要である。

 

図表1 携帯電話の世代分類

 

2G Wireless

The technology of most current digital mobile phones

Features includes:
- Phone calls
- Voice mail
- Receive simple email messages

Speed: 10kb/sec

Time to download a 3min MP3 song:
31-41 min

 

2.5G Wireless

The best technology now widely available

Features includes:
- Phone calls/fax
- Voice mail
-Send/receive large email messages
- Web browsings
- Navigation/maps
- New updates

Speed: 64-144kb/sec

Time to download a 3min MP3 song:
6-9min

 

3G Wireless

Combines a mobile phone, laptop PC and TV

Features includes:
- Phone calls/fax
- Global roaming
- Send/receive large email messages
- High-speed Web
Navigation/maps
Videoconferencing
- TV streaming
- Electronic agenda meeting reminder.

Speed: 144kb/sec-2mb/sec

Time to download a 3min MP3 song:
11sec-1.5min

source: Newsweek

(出展: 3G Newsroom.com

 

(2)          米国における第3世代モバイル通信サービス用の周波数帯域の割当

上述のように、Verizon Wirelesscdma2000 1XRTTサービスは、既存の2G用の周波数帯域を活用している。これは、米国では国際標準として指定された3G用周波数帯域のアロケーションが進んでいないという事情による。

200056月に開催されたITU(国際電気通信連合)の2000年世界無線通信会議(WRC-2000、トルコ共和国イスタンブール開催)において、IMT-2000への周波数が追加分配され、806-960MHz1,710-1,885MHz2,500-2,690MHzの周波数帯の中から、国内需要や他の業務による利用等を考慮して適当な周波数帯をIMT2000に使用することができると決定された。米国では従来、1,710-1,885MHzを国防総省が、2,500-2,690MHzを固定ワイヤレス・サービスであるMMDSMultipoint Multichannel Distribution Service)事業者及び教育機関・宗教関連機関がITFSInstructional Television Fixed Service)として用いてきた。そのため、世界標準として指定された3帯域のうち、どれを新たに米国における3G用の帯域として指定するかで、関係者の間で議論が繰り広げられてきた。前クリントン政権時代に、3Gサービス用の周波数帯のアロケーションは20017月までに結論を出すこととされていたが、調整が難航して結論は延び延びになってきた。

また、周波数規制を管轄する連邦政府機関が2つ存在していることも、この問題をややこしくしていた。現在の政府組織では、NTIANational Telecommunications and Information Administration)が連邦政府の利用する周波数帯を管轄し、FCCが民間事業者や公共安全利用向けの周波数を管轄している。そのため、周波数のアロケーションに関する連邦政府内の意見にも違いが見られた。たとえば、NITAの上部組織にあたる商務省のエバンス長官は、20024月に開催されたFCBAFederal Communications Bar Association、連邦通信法曹協会)主催の会議における基調講演で、NTIAの主張を擁護する形で「国家の防衛と安全のための周波数関連技術を重要視する」とした姿勢を明らかにした。一方でFCCのパウエル委員長は、ワイヤレス市場からの要請に重点を置く考えを示しており、周波数のアロケーションも視野に入れているとしていた。

さらに、この周波数アロケーション問題には2001911日の米国同時多発テロも大きな影響を及ぼした。テロ発生前の20016月には、業界団体であるCTIACellular Telecommunications Industry Association)は、国防総省が現在保有している1,710-1,885MHz帯をモバイル3Gサービス用に指定することを促す法律案を作成し、議会への提出に向けた最終作業にとりかかっていた。しかし、同時多発テロ後の200110月、ブッシュ政権は、国防総省が利用している帯域の大部分を3G転用候補からはずしてしまったのである。

こうした中でFCCは、2001924日、MMDSに利用が限定されていた2,500-2,690MHzを、モバイル通信サービスの利用にまで拡大することを発表した。この規制緩和により、この周波数帯域を保有していたSprintWorldComは、将来的に3G技術対応のサービスを提供することが可能となった。

最終的にNTIAは、1,710-1,770MHz帯と2,110-2,170MHz帯に注目した。しかし、例えば、国防に関する政府改革小委員会(House Government Reform Subcommittee on National Security)の委員長であるシェーズ下院議員(共和党、コネティカット州)は、その小委員会において「ペンタゴンが現在保有している周波数は、将来の無線周波数利用のために確保しておく必要がある」、「1,700MHz帯をめぐる国防総省と3Gサービスのための周波数帯を確保したがっているモバイル通信業者との間の戦いに決着をつけるためには、ホワイトハウスの判断が必要になるだろう」と述べるなど、調整は容易ではなかったようである。

結局、本稿を書いている最中の2002723日、NTIAFCC、国防総省他の関係省庁による検討チームは「3G Viability Assessment」と題する検討結果(http://www.ntia.doc.gov/ntiahome/threeg/va7222002/3Gva072202web.htm)を公表し、国防総省他が現在使用中の1,710-1,755MHz45MHz200812月までに明け渡すこと、そのための費用はこの周波数帯を割り当てられる民間事業者が負担すること、現在非政府部門が使用している2,110-2,170MHzからも45MHz3G向けに確保すること、などの方向が示された。

やっと3G用周波数帯のアロケーション問題に見通しがついたことは喜ばしいことではあるのだが、報道によると、実際に1,710-1,755MHz帯の競売が行われるのは、早くても2004年から2005年になる見込みとのことであり、米国で本格的な3Gサービスが始まるのはまだまだ先の話になりそうである。

 

(3)          主要モバイル通信事業者の3Gサービスに向けた動き

米国のモバイル通信事業者には、「米国も世界標準に準拠していく必要があり、周波数アロケーション問題を解決しなければならない」という認識がある一方で、実際に関係者間の調整がつくまで何年かかるかわからないという現実問題もある。そこで主要モバイル通信事業者は、上述のように既存の周波数帯域(800MHz帯および1,900MHz帯)を活用することにより、高速モバイル通信サービスを提供し始めている。

例えばVerizon Wirelessは、上述のように20021月末にcdma2000 1XRTTによる3Gサービスを開始しており、その後Lucent Technologies社とともにcdma2000 1XEV-DO(注6)の試験を行っている。Cingular Wirelessは、現在のところGPRSEDGE(注7)での3G移行を予定しており、既に一部の市場でGPRSサービスを開始している。AT&T Wirelessも、既に一部の市場でGPRSサービスを開始しており、2003年にはEDGEサービスを導入する予定だという。Sprint PCSは、2002年夏にcdma2000 1XRTTによる3Gサービスの全米での提供を目指すとしている。Motorolaが開発したiDEN方式でサービスを提供しているNextelは、次世代ネットワークのプラットフォームとしてCDMAネットワークを採用することを発表した。Nextelは、現在のiDENネットワークと互換性をもつCDMAインフラを、QualcommMotorolaの協力を得て進めていく予定であるという。

(注6cdma2000 1XEV-DO: 1X Evolution Data Onlyの略。cdma2000規格に含まれる技術仕様の一つで、1X仕様を改良してデータ通信に特化して通信速度を最大2.4Mbpsまで高めたもの。

(注7EDGE: Enhanced Data GSM Environmentの略。GSM方式、TDMA方式の携帯電話網を使ったデータ伝送技術の一つで、GPRSの後継技術に当たり、最大で384kbpsのデータ伝送が可能。IMT-2000規格で採択され、第3世代(3G)通信方式の一つとして扱われている。

通信業界関係者の予測では、米国で世界標準の3Gサービスが実際に開始されるのは20052007年ごろになるのではないかと見られているが、上述のように周波数アロケーションの問題もあり、もっと遅れる可能性も否定できない。日本や欧州での3Gサービス導入のもたつきやアプリケーション不足の懸念を踏まえ、「3GITバブル崩壊後の次のバブルに終わるのではないか」といった冷めた論調も出てきており、米国のモバイル通信事業者は欧米の動向を見極めながら現実的な高速モバイル通信サービス戦略を進めていくこととなりそうである。



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