2002年11月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるITSの動向」(その1


はじめに

今月と来月は、米国におけるITSIntelligent Transportation Systems)の動向について取り上げる。

ITは我々の日常生活を取り巻く様々な分野において利用され、経済社会に大きな変革をもたらしているが、そのうち交通、運輸等の分野におけるIT利用がITSである。一般的にITSに関しては日本と欧州が先行しており、米国のITSは遅れを取っていると言われてきたが、米国においてもITブームの中にあって、またドットコム・バブル崩壊後もしばらくは、IT業界にとって残された巨大市場としてITS(特にテレマティックス)に期待が集まっていた。

しかし、去る101417日にシカゴで開催された「ITS World Congress 2002」を見た限り、参加者は23年前に比べて2/3程度まで減っているのではないかと思われ、テレマティックスに対する熱も冷めてきたことを感じざるを得なかった。

本稿では、まず今月、連邦政府による取組みなど米国におけるITSの全体的な動向について概観し、来月はテレマティックスの動向などについて取り上げることとする。


1. 
ITSIntelligent Transportation Systems)とは

(1)  ITSの定義

いつものように、まず定義から始めたい。

ITSとは、Intelligent Transportation Systems(欧州や日本ではIntelligent Transport Systems)の略であり、直訳すると「知的運輸システム」ということになる。日本では経緯上「高度道路交通システム」と、道路交通に焦点を当てた言葉が用いられているが、ITSは実際には鉄道や歩行者も含めた幅広い概念である。(陸上交通を指すのが基本であるが、場合によっては空路や海路までも含めた意味で用いることがある。)

ITSは幅広い概念であるが故に、逆に定義があいまいである点は否定できないのであるが、これもITSの特徴の一つであり、ITSの可能性の大きさを表していると理解すべきであろう。

参考までに、ITS関連の産学官による協議体Intelligent Transportation Association of AmericaITS America)(http://www.itsa.org/)と連邦運輸省(DOT)のホームページから、「What is ITS?」の部分を図表1に書き出しておく。


図表1 What is ITS?

ITS Americaホームページ

ITSと総称される広範囲にわたる多様な技術は、我々の運輸上の問題の多くに対する答を提供してくれる。ITSは情報処理、通信、制御、エレクトロニクスなどの様々な技術から成る。これらの技術を我々の運輸システムに適用することによって、人命を救い、時間とお金を節約することができる。

連邦運輸省ホームページ

ITSは次世代の全米にわたる運輸システムを表す。情報技術と先進的エレクトロニクスは、家庭やオフィスから学校や余暇に至るまで、我々の現代社会のあらゆる局面に大変革をもたらしているが、運輸ネットワークにもまた適用されている。最新のコンピュータ、エレクトロニクス、通信、安全システムなどが含まれる。

(出展: ITS America及び連邦運輸省のホームページ)

  (2)              ITSの利用者サービス

さて、さすがにこの定義らしきものだけでは何が何だかわからないので、ITSの具体的な分類について見てみよう。

米国におけるITSの全体像については、日本や欧州と同様、「システム・アーキテクチャ」と呼ばれるITSの全体設計図に規定されている。

米国版のシステム・アーキテクチャ「The National ITS Architecture」は、初版が1996年に連邦運輸省(DOT)によって策定されて以来、改定が重ねられてきており、最新のVersion 4.0においては、図表2のように8分野で計32の利用者サービスが設定されている。

図表2 米国のITSにおける8分野32の利用者サービス

1 旅行・交通管理(Travel and Traffic Management)

  1.1 旅行前の交通情報(Pre Trip Travel Information)
  1.2 運転中のドライバーへの情報(En Route Driver Information)
  1.3 経路誘導(Route Guidance)
  1.4 搭乗調整・予約(Ride Matching and Reservation)
  1.5 旅行者サービス情報(Traveler Services Information)
  1.6 交通制御(Traffic Control)
  1.7 交通事故管理(Incident Management)
  1.8 交通需要管理(Travel Demand Management)
  1.9 排気ガス試験・削減(Emissions Testing and Mitigation)
  1.10高速道路と鉄道の交差(Highway Rail Intersection)

2 公共交通管理(Public Transportation Management)

  2.1 公共交通管理(Public Transportation Management)
  2.2 旅行中の公共交通情報(En Route Transit Information)
  2.3 個人の公共交通乗換え(Personalized Public Transit)
  2.4 公共交通の安全(Public Travel Security)

3 自動料金支払い(Electronic Payment)

  3.1 自動料金収受サービス(Electronic Payment Services)

4 商用車両管理(Commercial Vehicle Operations)

  4.1 商用車両の電子式許可(Commercial Vehicle Electronic Clearance)
  4.2 路側での自動安全検査(Automated Roadside Safety Inspection)
  4.3 車載安全モニタ(On-board Safety Monitoring)
  4.4 商用車両の行政手続き(Commercial Vehicle Administrative Processes)
  4.5 危険物事故への対応(Hazardous Material Incident Response)
  4.6 貨物輸送管理(Commercial Fleet Management)

5 緊急事態管理(Emergency Management)

  5.1 緊急事態の通知と個人の安全(Emergency Notification and Personal Safety)
  5.2 緊急車両管理(Emergency Vehicle Management)

6 高度車両安全システム(Advanced Vehicle Safety Systems)

  6.1 前後の衝突防止(Longitudinal Collision Avoidance)
  6.2 左右の衝突防止(Lateral Collision Avoidance)
  6.3 交差点での衝突防止(Intersection Collision Avoidance)
  6.4 衝突防止のための視認性の向上(Vision Enhancement for Crash Avoidance)
  6.5 危険状況の予知(Safety Readiness)
  6.6 衝突前の拘束手段(Pre-crash Restraint Deployment)
  6.7 自動車両運行(Automated Vehicle Operation)

7 情報管理(Information Management)

  7.1 保管データの機能(Archived Data Function)

8 保守・建設管理(Maintenance And Construction Management)

  8.1 保守・建設の運用(Maintenance And Construction Operations)

(出展: “The National ITS Architecture Ver.4.0”より作成)

参考までに、1999年にITS関係5省庁(現4省庁)によって策定された日本版のシステム・アーキテクチャにおける利用者サービスについて、図表3に掲げておく。

図表3 日本のITSにおける9つの開発分野と21の利用者サービス

1 ナビゲーションシステムの高度化

  1) 交通関連情報の提供
  2) 目的地情報の提供

2 自動料金収受システム

  3) 自動料金収受

3 安全運転の支援

  4) 走行環境情報の提供
  5) 危険警告
  6) 運転補助
  7) 自動運転

4 交通管理の最適化

  8) 交通流の最適化
  9) 交通事故時の交通規制情報の提供

5 道路管理の効率化

  10) 維持管理業務の効率化
  11) 特殊車両等の管理
  12) 通行規制情報の提供

6 公共交通の支援

  13) 公共交通利用情報の提供
  14) 公共交通の運行・運行管理支援

7 商用車の効率化

  15) 商用車の運行管理支援
  16) 商用車の連続自動運転

8 歩行者等の支援

  17) 経路案内
  18) 危険防止

9 緊急車両の運行支援

  19) 緊急時自動通報
  20) 緊急車両経路誘導・救援活動支援

  21) 高度情報通信社会関連情報の利用

(出展: 「高度道路交通システム(ITS)に係るシステムアーキテクチャ」より作成)

米国版と日本版では、括り方や細かさ、順番等が異なっているが、実際にはシステム・アーキテクチャにはさらに細分化された区分があり、そこまで見ると日米の違いはそれ程大きくはない。しかし、例えば日本版の利用者サービスでは「歩行者等の支援」や「高度情報通信社会関連情報の利用」が大きく取り扱われており、一方で米国版では「商用車両管理」で電子式許可等が規定されているなど、両国の交通事情等の相違が反映されたものとなっている。(例えば米国の幹線高速道路(インターステート)では、大型トラック等の過積載を抜き打ちで取り締まるため州境付近などに計量所(weigh station)が設けられているが、計量の順番を待つトラックの列がしばしば渋滞を引き起こすため、その効率化が課題となっている。)

 

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