2003年5月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

米国における電子政府関連政策の動向(その1)


はじめに

   今月と来月で、久しぶりに米国における電子政府関連政策の動向について取り上げる。
   電子政府関連政策については、約1年半前の2001年8月にも取り上げたが、当時はまだブッシュ政権誕生後間もなかったため、"新政権路線"が十分には機能していなかった。しかしその後、ブッシュ政権の「行政改革大綱」とでも呼ぶべき「大統領マネジメント・アジェンダ」における主要対策の一つに電子政府が位置づけられ、また2002年12月には電子政府推進体制や電子政府基金の法律的根拠を確かなものにする「2002年電子政府法」が成立しており、連邦政府における電子政府の責任者であるMark Forman氏のもとで、ブッシュ政権としての特徴を明確にした様々な電子政府イニシアティブが着々と推進されてきている。
   電子政府と一口に言っても、既に連邦・州・地方政府の各機関で広く様々な取組みが行われているのであるが、本稿ではこの1年半の電子政府の進捗状況に関して、今月は連邦政府の電子政府戦略の全体像について取り上げ、来月はエンタープライズ・アーキテクチャ、電子認証、Linuxなどのトピックスについてご紹介することとしたい。


1. 米国連邦政府の電子政府推進の全体動向

(1) ブッシュ政権における電子政府の基本的考え方 〜「大統領マネジメント・アジェンダ」

   2001年に発足したブッシュ政権は、2001年8月の本駐在員報告でも触れたように、前政権下における電子政府に関する広範な取組みを踏まえながら、Mark Forman氏の実質的連邦CIO(Chief Information Officer)への任命、省庁横断型の電子政府イニシアティブを支援する「電子政府基金」の創設といった新しい取組みを打ち出した。
   ブッシュ政権は2001年2月末の大統領予算教書で、「行政改革」の部で「国民中心の(Citizen-Centered)政府の実現」のための方策として電子政府基金の創設を打ち出していた。こうしたブッシュ政権における電子政府に対する取組みの基本的考え方は、その後2001年8月25日に公表された「大統領マネジメント・アジェンダ(The President's Management Agenda)」において一層明確化されることとなった。

   ブッシュ政権における「行政改革大綱」とでも呼ぶべきこの「大統領マネジメント・アジェンダ」は、行政改革のための政府全体に関わる5つの対策として、「人的資本の戦略的マネジメント」、「民間サービスとの競争」、「財務執行の改善」、「予算と成果の統合」と並んで「電子政府の拡充」を掲げている。(図表1)

図表1 行政改革のための政府全体に関わる5つの対策
1. 人的資本の戦略的マネジメント(Strategic Management of Human Capital)
2. 民間サービスとの競争(Competitive Sourcing)
3. 財務執行の改善(Improved Financial Performance)
4. 電子政府の拡充(Expanded Electronic Government)
5. 予算と成果の統合(Budget and Performance Integration)

(出展: 「大統領マネジメント・アジェンダ」)

   すなわち、ブッシュ政権における電子政府とは、行政改革によって「国民中心の(Citizen-centered)」、「結果重視の(Results-oriented)」、「市場原理に基づいた(Market-based)」政府を実現するための主要な方策の一つという位置付けなのである。

   大統領マネジメント・アジェンダにおける電子政府に関する記述は、ブッシュ政権の電子政府に対する発想の仕方をよく物語っているので、以下にその概要を紹介しておくこととする。

問題点
   連邦政府は世界最大のIT消費者。ITは民間部門の生産性向上に40%寄与したのに、2002年にITに450億ドルも費やす米国政府の労働者の生産性に目立った向上が見られない。少なくとも4つの問題点がある。
  • 政府機関はITシステムを通常、国民のニーズではなく自らのニーズに役立つかどうかで評価。
  • 政府機関は1990年代に、ITを新しくより効率的なソリューションの創出のためではなく既存のプロセスの自動化のために使用。
  • ITは時代遅れの縦割りの官僚組織を壊す機会を提供するが、不幸にも政府機関はしばしばこれを脅威ととらえ、とうの昔にその目的を失っている指揮系統を維持するために無駄で重複した投資を行っている。
  • 多くの政府機関はITシステムの相互運用性の確保に配慮しない。

イニシアティブ
   ブッシュ政権は、政府機関の境界をまたぐ成果を生むプロジェクトを支援することにより電子政府戦略を推進。政府機関にIT投資のより効果的な企画を求めるため、予算プロセスを活用して電子政府プロジェクトを管理。
   各政府機関の代表者によるタスクフォースはOMB(大統領府行政管理予算局)及び大統領マネジメント協議会と協力して、各省庁にまたがる電子政府プロジェクト(対個人、対企業、政府機関間、内部プロセス)を選定するとともに、電子政府を阻害する組織的な障害を特定。OMBは相互運用性を最大化し重複と無駄を最小化するため連邦政府のIT投資を精査。

期待される効果
   ITマネジメントを改善し、業務プロセスを簡素化し、政府機関をまたがる情報のフローを統合することによって

  • 電話、対面、ウェブに係わらず国民に質の高いサービスを提供。

  • 政府とビジネスを行う際の費用と困難性を低減。

  • 政府の運営コストを削減。

  • 迅速な政府サービスを国民に提供。

  • 障害者による政府機関のウェブサイトや電子政府アプリケーションの一層の利用を可能にする。

  • 政府をより透明性が高く説明責任が果たせるものにする。

   以上のように、大統領マネジメント・アジェンダでは、それまでの例えば「すべての国民を政府の製品、サービス及び情報と結びつける」(CIO協議会「Strategic Plan FY2001-2002」2000年10月)といったフロントオフィス(国民への行政サービスの提供)重視の電子政府戦略から、よりバックオフィス(政府内の業務プロセス)改革に踏み込んだものへと発想が変化していることが窺える。「小さな政府」を志向する共和党政権らしい発想と言うことができよう。

続き→

| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は Ryohei_Arata@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.