98年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

97年の回顧と98年の展望 -2-


1.変化するPC市場

(1)第3の波
 JEIDA駐在員としては、やはりまずPCの動向から入るのが自然かもしれない。データクエスト社は、97年、PC市場に「第3の波」が訪れたという。これはデル社の急速な発展が示す、いわゆる「デル・ビジネス・モデル」が、PC市場の競争状況を一変しつつあることに着目したものである(因みに第1の波は1985年のIBMのPCの市場標準化、第2の波は1992年のウィンドウズとインテルx86のアーキテクチャーの浸透)。これに同意するかどうかは別にして、PC市場にいくつかの変化が起きているのは事実である。

 第1は、その通り、受注生産・直販方式が市場の競争状況を大きく変えたということであろう。特に97年第3四半期に遂に米国PC市場第2位に躍進したデルは、オンラインによる売上げを年間10億ドル程度としており、1日平均300万ドル、歳末シーズンでは600万ドル(1台2,000ドルとして3,000台)の売上げを達成する日もあると言う。ゲートウェイ2000やマイクロンがこのBuild-to-Order方式の2番手、3番手と続いているが、デルとの差は開く一方である。また、この方式に乗り遅れていた伝統的PCメーカーも相次いで導入しつつあるが、まだ成果が現れる段階には至っていない。98年もこのBOT方式が拡大していくだろうが、本格的に部品サプライヤーも含めた企業内の受注生産体制を整え、かつ直販のための様々なサービス体制や、現行の販売チャンネルとの調整などをやり遂げられない限り、15四半期過去最高を記録しているデルの伸びを抑えることはなかなか難しいであろう。

 第2は、低価格PCの97年後半での爆発的な伸びである。97年2月20日にコンパックはサイリックス社のペンティアム互換MPUであるMediaGXの133MHzを使ったプレサリオ2100シリーズをモニター無しで999ドルで出した。そして、6月30日にはMediaGXの180MHzを使ったプレサリオ2200シリーズをモニター無しで799ドル(モニターを付けても999ドル)で売り出し、これが本格的な1,000ドル以下PCの草分けとなった(97年最も売れた機種)。これらにその他の大手も追随し、低価格競争に拍車がかかった。2,000ドル以下のPCを持っていなかったIBMは家庭用PC市場で相当の後退をしていたが、9月15日にようやくAMD社製のMPUを使って1,199ドルのアプティバを投入している。今やペンティアムMMX機までが1,000ドル以下の市場に登場してきており、97年のクリスマス商戦で売れているホームPCの7割までもが1,000ドル以下のものと言われている。さらにはペンティアムU機の参入だとか、800ドルPCや500ドルPCの計画まであり、この流れはしばらくは留まるところを知らないだろう。アナリストによれば97年のPC出荷台数のうち、25%程度が1,000ドル以下のPCであり、98年には33%に達するともされている。しかし、これによってPCメーカーの収益率が下がっていることは明らかであり、過当競争によって市場から脱落するところが出てくるかもしれない。これらの流れに伴うインテルの戦略の変化も注目しなければならないが、これは後述する。

 第3には、アップル・コンピュータ社の危機を上げなければならないだろう。7月26日に期待されていたMacOS8をリリースしたばかりであったアップルは、8月7日、マイクロソフトの救済を受ける形で財政・業務面での提携を発表した。その後、互換機メーカーをライセンシング・フィーの値上げができないことで切り捨て、10月13日には次世代OSラプソディーの開発業者への事前出荷を始め、11月10日にはBOT方式の導入と第3世代のPowerPCであるG3プロセッサー搭載機種の発表を行うなど、暫定CEOのスティーブン・ジョブズ氏は建て直しに懸命である。しかし、インターナショナル・データ・コーポレーション(IDC)社が発表した97年第3四半期のPC出荷台数報告によれば、米国内でのシェアは前期の5位から8位に転落し、4.4%にまで落ち込んでしまっている(96年同期は7%)。このシェアで今後も非ウィンドウズOSの開発を単独でやっていけるのだろうか。教育、出版、デザイン等に強いと言っても、そのアドバンテージを維持できるのだろうか。98年が正念場であろう。頑張ってもらいたい。

 その他、前号でCOMDEXの感想として述べた、いくつかの動きがある。家電とPCの融合(これについては後述する)、新しいPC技術としてのUSB、IEEE1394などの新インターフェースとCD-R、MO、PDなどの新記憶装置、そしてウィンドウズCE2.0のリリースなどに弾みをつけられたモバイル・コンピューティング、等々である。詳述はしないが、これらは98年のPC市場では標準的なものになっていくに違いない。

 そして、もう一つ1998年のPC市場に大きな影響を与えるものとして、ウィンドウズ98のリリースがあるが、これについては現下の司法省対マイクロソフトの訴訟の行方が大きく影響してくるので、次のところで述べることにしたい。

 さて、米国のPC市場を総括すると、95年が2,300万台、96年が15%増の2,650万台であったところ、97年は20%増の3,200万台になりそうである。日本が横這いであるのとは格段の差である。さらにIDCは98年も17%程度の伸びを予測している。データクエスト社が12月11日に発表した家庭へのPCの普及率調査によれば、既に43%の家庭がPCを持っているが(昨年同時期は35%)、この半年以内にあと10%の家庭がPCを購入したいと言っているという。日本が20%程度の普及率で伸び悩んでいるのと違い、米国では家庭がPCを使って家計用ソフトを動かしたい、タイプライター代わりに使いたい、あるいは電子メールを使いたいという明確な目的がある。また、学校教育の現場でもPC教育が導入されており、家でも子供にPCを使わせたいという家庭が多いのだと思う(私の妻も子供の学校のPC教育ボランティアに参加しようかなどと言っている)。もちろんホームPC市場はビジネス市場より小さいのだが、まだ手つかずの部分が多く残されており、そこに市場が拡がっていくということであって、まだまだ伸びを維持する源泉となるだろう。

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