98年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の現状 -1-


はじめに

2000年まで、あと2年を切るところになった。ITの世界では2000年問題を知らない人はもちろんいないだろうが、外国がこの問題にどう対処しているのかまで、詳しく知る人は少ないであろうし、またその必要もないのかもしれない。しかも、もっと前ならいざ知らず、自分のお尻に火がついてからよその状況を聞いても仕方がない、ということかもしれない。しかし、昨年11月の米議会の公聴会で、日本のY2K対策がひどく遅れているような証言もあって、日本のことが誤解されているようであるし、逆もあるのかもしれない。いずれにしてもネットワークで相互接続されている時代であり、Y2Kは一国でもしディザスターが生じればその他の国にも影響を及ぼすという問題である。その意味から米国の状況を知っておくことも必要かもしれないと思い、今回の報告のテーマとすることにした。

 なお、今回の報告はインターネット上から様々に集めた資料、ITAA(全米情報技術協会)を訪問してのインタビュー、ワシントン日米コンサルティングから提供されている各種の報告等を基に作成している。


1. 米国におけるY2K問題の概要

まず、コンピュータ2000年問題の背景について説明すべきところであろうが、本月報を読まれるような立場の方に、コンピュータでは年を2桁で表しているため2000と1900の見分けがつかなくなって云々、などと今更申し上げる必要もないであろうから、省略させていただく。なお、Year 2000を、1000のところをキロを表すKと略し、Y2K(ワイツーケー)という呼び方が米国で多く使われているので、本稿でもY2Kと略して書くことにする。

Y2K問題については、多くのコンサルタントやコンサルティング会社が様々な情報をインターネット上などに公開している。その量は膨大なもので、全部読もうとすると2000年を過ぎてしまうのではないかと思えるほどである。民間のY2Kのホームページも数多くあるが、6年も前からY2Kの警告を発しているというコンサルタントのピーター・ド・ジェイガー氏らが開いている“The Year 2000 Information Center (www.year2000.com)”が一番充実しているようである。本報告に使った資料の相当部分はこのホームページから辿っていって集めている。ニュース・クリッピングも充実しており、平均すれば毎日10以上の記事が集められている。米国ではそれだけ関心が高まっていると言うことで、ニューヨーク・タイムズ紙だけでも、1月に入ってから20日までの間に、5つもの記事が載っている。

さて、Y2K対策の規模等についていろいろな予測等がなされているが、その中でも最も多く引用されているガートナー・グループのものによれば、

  • 1999年末までに適切なY2K対応をとらなければ、90%のビジネス・アプリケーションは使えなくなる。(が、もちろんこうはならない。)

  • 中規模の企業で8,000のプログラムを持っているとすると、プログラムあたり改修費は450〜600ドルかかると見積もられるので、360万〜420万ドルかかるいう計算になる。マンパワーに直すと、ツールのあるなしによるが、12〜24人年かかることになる。

  • 世界全体での対策総額は3000億〜6000億ドルと見込まれる。

  • となっている。(なお、この他にガートナーは世界に5,000万個を超える日時の概念のあるチップを含めた機器(embedded-system)があり、これらも重大な問題をもたらすとしているが、本報告ではそこまでは範囲を広げないこととする。)

    また、ソフトウェア・プロダクティビティ・リサーチ社によると、米国のY2K対策は、192万人のソフトウェア・エンジニアにより932万人月かかるとし、総額750億ドルと算出している。同様に日本は、90万人で438万人月の420億ドル、続いてドイツ240億ドル、イギリス170億ドルなどと算出している。ITAA(全米情報技術協会、後述)によれば、米国の情報サービス市場は年間1,500億ドル程度であるので、Y2K対策だけで半年分の市場規模となる。

    当然、ソフトウェア要員は不足すると見られるが、定量的なデータは見つけることができなかった。ただ、通常プログラム1ステップ当たり1〜1.5ドルと言われているものが、98年には4〜4.5ドルに跳ね上がるだろうと言うような予測もあるようである。

    Y2K対策については、米国は世界で最も進んだ国であることは間違いないが、2000年までに全ての対策が終了すると考えている人は皆無のようである。議会での公聴会などが頻繁に開かれたこともあって、連邦政府自身のY2K対策は民間より遅れているとは言え、相当加速されてきている。しかし、OMB(行政管理予算局)による評価でも24省庁中7省庁が現時点では不可とされている。州政府もY2Kでは大きな問題を抱えているが、連邦政府よりは進んでいるのではないかとの見方もあるようである。

    民間企業については、今のところ認識は高く対策も相当進んでいるようであるが、それを計る手段はない。いくつかの推定はあり、例えば、METAグループの97年第3四半期終了時点での推計では米国の大企業のうち57%が評価の段階を終了していると言う。また97年末のイギリスのPAコンサルティング・グループの推定では米国の71%の企業がプランニングの段階を終了しているが、ヨーロッパ企業は57%であるとしている。定義も調査方法もまちまちであろうから、これらの数字を並べてみてもあまり意味がないだろう。SEC(証券取引委員会)への上場企業の四半期報告にY2K対策が含まれるようになれば、もう少しはっきりしてくるだろう。

     なお、進捗状況等を計る際に、認識(Awareness)、評価(Assessment)、改修(Renovation)、確認(Validation)、実証(Implementation)のフェーズで見るのが一般的である。2000年に向けて対策を万全のものにするためには、98年の秋までには改修を終えて、それから確認と実証に入る必要があるとされており、そうみると、上のような数字ではかなり間に合わせるのは難しいようにも思われる。

    Y2Kについて、挙げるべき政府の政策は多くない。米国においては基本的には政府も民間も、Y2K問題はユーザーが自らの責任で対応すべきもので、政府の規制や支援策が持ち込まれるべきでないとの立場をとっているからである。後述するように、SECのディスクロージャーの指導(法制化されるかもしれないが)、政府調達時のY2K対応の強制(これもこの時期になってみれば当然のこと)、標準の推奨などが見られるだけである。中小企業庁に確認してみたが、特にY2K対策を特定した融資/保証のような制度もないとのことである(もちろん、他の名目で借入れはできるのだが)。民間の振興策としても、ITAAが様々に行っている啓蒙活動が中心のようである。

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