98年3月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国産業におけるIT活用の動向(前半) -2-


2.競争優位のための主要IT技術

上述のようなIT投資の効果は、投資の量ではなく質で決まる。近年、産業界ではオープン標準に基づくITシステムの価値が広く認識されている。それは、オープン標準の導入が「情報アクセスの民主化」、「従業員の権限強化(エンパワーメント)」、「業務連携の促進」につながるためである。従って、今後、企業がITを活用しながら競争力を拡大していく上で鍵となる技術は、このような新しいモデルを下敷きにしたものとなるであろう。

企業のIT投資の進め方として、いくつかの流れがあるようである。まず、基盤となるITアーキテクチャーとして、ホスト・コンピューティング、クライアント/サーバー・コンピューティング、そしてネットワーク・コンピューティングと続く流れがある。業務の性格によっても異なるが、現在の主流となっているクライアント/サーバー・システムはインターネットとウェブ技術に支えられてイントラネットの構築の基礎となり、さらに発展が期待される。

次の世代となるネットワーク・コンピューティングの波は現時点ではまだ寄せたり引いたりの段階であるが、最新のIDCの調査でも米国におけるJavaの採用計画は97年第4四半期で45%(第3四半期は35%)と高まっているようである。ただ、Javaを常用する企業はまだ5%以下、広く使用する企業は約10%と、自律的に普及が進むようになるまでにはもうしばらくの時間を要するようである。

企業の基幹となるソフトウェアとして、90年代初めのリエンジニアリング・ブームにのって急速に普及した「SAP R/3」に代表されるエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)ソフトウェアがある。SAPの売上高は91年の3,000万ドル5年後の96年には13億ドルに急増している。

ERPの最大のセールスポイントは業務に必要な情報管理の完全自動化にある。ERPパッケージは、受注に始まって在庫管理、製造スケジューリング、納品、請求、代金回収まであらゆるデータを一手に把握する。従って導入も難しいが、例えばSAP R/3をいち早く導入した企業の一つであるマイクロソフトは、わずか1年間で6,000万ドルものコスト節減を達成したと報告している。今後はさらに、サプライ・チェーン管理(SCM)などの技術を活用して、この流れを取引先にもつなげていく試みが盛んになっていくと思われる。

 一方、最近のIT投資には、顧客とのインテグレーションを通じたシェアの維持拡大を狙いとするものが増えている。直接的なアプリケーションの事例として、イントラネット及びエクストラネットがある。次項の事例でも示すように、これらは導入企業と顧客の双方に大きなメリットをもたらしている。インターネットという既成のインフラを利用することで、企業は最低限の時間と費用で、国内各地はもとより世界中の顧客・取引先とのコミュニケーションを確立することができるからである。

顧客が利用できるエクストラネットのサービスを開始した企業も、これを有料化して新たな収入源とするよりも、無料化して顧客の業務効率化に貢献することを選んでいる。顧客に奉仕することで、本来の商品やサービスの売上増進が図れると考えられているためである。そして、もう一つの重要なアプリケーションとしてエレクトロニック・コマースがある。

シスコ・システムズのような成功事例も多くなってきているが、今後、インターネットをベースにしたECをさらに発展させるためには、商取引のプロセスを社内や取引先の業務プロセス(財務管理や原材料の納入など)に統合化させ、ECを核とした業務プロセスのリエンジニアリングを行うことが必要となるであろう。

 こう見てくると、どのようなIT導入の流れを辿ってきているとしても、最終的に米国企業は、競争力を拡大・維持する鍵が顧客満足にあることを認識したIT投資を行っていくと思われる。このような動きは、企業の枠を超えた「エクステンデッド・エンタープライズ」(ITを媒介として企業、仕入先、顧客が一つの大きな事業体のように機能すること)の発達を促している。これがこれからのキーワードとなるのではないだろうか。

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