98年4月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国産業におけるIT活用の動向(後半) -2-


事例(1)
ファーストシカゴ(First Chicago NBD)
 ファーストシカゴ銀行の持株会社。本社イリノイ州シカゴ。96年営業収入62億ドル。97年総資産1,130億ドル(米国9位)。(IT予算非公開)

ITプロジェクト:法人バンキング(Corporate and Institutional Banking)部門におけるイントラネット・ベースの情報サービス(97年8月完成)

推定コスト:非公開

技術内容
 ウェーブフォア・ニュースキャスト(WavePhore Newscast)社提供の金融情報を、テキサス州ダラスに設置されているサンのサーバで提供。OSには「ソラリス2.5」を、ウェブサーバ・ソフトウェアには「アパッチ(Apache)」を使用。情報コンテンツとトランザクションの管理は、サイベースのリレーショナル・データベース管理システムで行っている。「ナビゲータ」と「インターネット・エクスプローラ」の2大ブラウザに対応。

プロジェクト概要
 ファーストシカゴの法人バンキング(C&IB)部門は、企業をはじめとする大規模な組織向けの預金・融資・資産管理サービスを提供している。営業とマーケティング戦略の観点から、ウェーブフォアの情報サービスを採用した。これによって、ファーストシカゴは、それまで自行で運営していた情報サーバをウェーブフォアにアウトソーシングする形になった。

 ウェーブフォアは、毎日およそ3,000のニュースソースから金融情報コンテンツを選び出し、ファーストシカゴ専用データベースとしてアップデートしている。利用者は、通常のウェブ・ブラウザを使って、ファーストシカゴのイントラネットにリンクされたウェーブフォアのサーバにアクセスする。ここでは、上記の記事データベースの他、ダウ・ジョーンズ社などの通信社が配信している金融関連ニュースをリアルタイムでチェックできる。情報の提供は、ウェーブフォアのサイトに利用者がアクセスすることで行われる「プル型」の他に、利用者のデスクトップに最新の情報が連続的に送られる「プッシュ型」の2通りの方法で行われている。

 C&IB部門のスタッフは、既存顧客や潜在的顧客との面談を行う前に、ウェーブフォアの情報にアクセスして相手企業に関する最新情報を入手する。ファーストシカゴは、既存の顧客企業毎にデータベースを整備しており、ウェブサイトから社名をクリックすることで瞬時にアクセスできる。このウェブページには、顧客企業の会社概要、株価動向、財務プロフィールが整理されており、個別の項目をクリックすることによって、より詳しい情報が引き出せる仕組みになっている。さらに、ウェブサイトには2種類のサーチエンジンが組み込まれており、連邦証券取引委員会(SEC)に提出される財務報告や各社のプレスリリースなどが検索できる。このように、営業活動の前に入念な情報収集を行うことで、ファーストシカゴは顧客(開拓先)に関する十分な知識を身につけ、他行との差別化を図ることをめざしている。

 また、C&IB部門のスタッフは、個人的に関心を持っている企業や分野をあらかじめ指定しておくことによって、それらに関する重要な動きをいち早くキャッチすることができる。例えば、企業間の合併に関与しているスタッフは、いずれかの企業に関する新しい情報が入るたびに、顧客に適切な助言を行うことができる。

主な成果、実施企業及び顧客へのメリット
 ファーストシカゴは、この情報サービスの成果に関する具体的数字を公表していないが、C&IB部門のマーケティング担当者は、このイントラネットが同行の主要な戦略的情報ソースになったと語っている。このことは、故障のためウェーブフォアへのアクセスがわずか15分間にわたって途絶した時、ファーストシカゴの技術スタッフに内部から問い合わせの電話が殺到したという報告によっても裏付けられている。

 現在このサービスへのアクセスは、C&IB部門の従業員約2,500人に認められており、同行は、このうち700人が日常的にサービスを利用していると推定している。ファーストシカゴは、次の計画として、消費者向け、中小企業向けバンキング部門にもアクセスを拡大することを検討している。実現すれば、同サービスの利用者は、25,000人に拡大する。

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