98年8月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

グローバル・エレクトロニック・コマース
フレームワーク発表から1年(前半)-2-

この1年間の全体の流れ

フレームワークが出されてからの半年強は、それぞれの項目が、担当の連邦政府機関、議会の関係委員会、民間における自主的活動、さらには、OECD、WTO、WIPO、APECなどの国際的なフォーラムに分けられて、それぞれに議論が進められてきている。大統領は、2月の一般教書において、インターネットについては、子供を不適切なコンテンツから守ることと、同時にインターネットの商業的なポテンシャルを守ることについて触れるとともに、次世代インターネット(NGI)への支持を訴えているが、フレームワークの成果についてはまだ述べるまでに至っていなかった。最近になって、ようやく、いくつかの場面で全体の進捗状況について、話されるようになってきた。そのうちのいくつかを上げてみよう。

1.エマージング・デジタル・エコノミー

4月15日、ウィリアム・デーリー商務長官は「The Emerging Digital Economy (興隆するデジタル経済)」と題する同省の報告書を発表した。この中で商務省は、情報技術(IT)が過去5年以上の米国の経済成長に4分の1以上寄与しており、740万人に及ぶこの分野の従事者に民間企業平均の64%増しの給与46,000ドルを与え、さらに昨年のインフレ率もITなくしては3.1%となっていたものを2.0%に引き下げるなど、多くの貢献をしてきたとしている。産業のIT投資も盛んで、民間設備投資の45%以上にもなっているが、これらを通じたEコマースで既に多くの企業が生産性と効率を高めており、2002年にはビジネス間で3,000億ドルの取引が成されるとの予測もある。これら急速な進展を支えるため、今後10年以内に130万人もの新たなIT従事者が必要とされる。

この報告書自身はEコマースの現状認識と今後の展望を述べているものであり、課題の提起は既にフレームワークで成されているという立場をとっている。労働需要の変化への対応が米国にとって大きな課題となるという点を新たに挙げているという程度である。

 しかし、この報告書の記者発表の際に、デーリー長官はEコマース推進のフレームワークの進捗状況等について言及している。最初に、知的所有権の保護について、議会がWIPOの著作権条約及び実演・レコード条約の実施法を通すことを求めている。また、プライバシーについては民間による自主的なアプローチが適当であり、

1)認知;消費者が誰が個人情報を集めているか知り、それがどう使われ、どうすれば抑えられるのか知ること、
2)選択;消費者が自らの個人情報がどのように使われるかについての選択肢を持つべきこと、
3) データ・セキュリティ;企業は個人情報を安全に保持すべきこと、
4) アクセス;消費者は企業が持つ自らの個人情報に適切な方法でアクセスし情報の修正を求めることができるようにすべきこと、の4つの柱を重視すべきとしている。

そして、最も注目すべきなのは暗号政策についての発言である。デーリー長官は、政府が追及してきた国家安全保障と民間の利益とのバランスを求めるという方向は間違っていなかったものの、これまでの進め方には誤りがあったと述べているのである。法執行当局の懸念は理解するものの、既に米国以外の29ヶ国が97年末段階で656の暗号製品を出荷しており、このままでは外国にこの市場を支配されてしまう。従って、政府においても民間においても、妥協による問題解決を図るという努力を改めて開始しようと呼びかけている。

2.Eコマースに関する日米共同声明

 5月15日、クリントン大統領と橋本首相は、首脳会談に先立ち、Eコマースに関する日米共同声明を発表した。Eコマース及びインターネット問題の大統領顧問であるアイラ・マガツィナー氏は、経済規制の多い日本が市場主導のEコマースのアプローチを取ったことは大きな意味があり、欧州を初め他国を説得する大きな「てこ」となると述べている。同声明は、

1)Eコマースのための非課税の環境、
2)プライバシーや個人情報の産業界による自主的保護、
3) WIPOのコピーライトとトレードマーク保護の合意の批准、
4) 電子認証/電子署名の国際間の合意、
5) 国境を越えた自由な情報の流れの確保、
6) 子供を守るための政府規制でないフィルタリング・ソフトの利用、
7) 電子決済システム開発における民間セクター主導、
8) 従来の商取引とオンライン取引での同程度の消費者保護の確保、等を含む。

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