99年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

98年の回顧と99年の展望 -2-


(2)Eコマースの具体的な進展

今年の暮れはEコマースで始まり、Eコマースに終わりそうである。どのくらいオンラインでものが売れたかについては、新年も明けてしばらくしなければわからないだろうが、毎日様々な報道がなされている。12月9日にデータクエストが発表したところによれば、このホリディ・シーズンのオンライン・ショッピングは23.5億ドルに上ると言う。クレジット・カード会社がカードのオンライン利用推進の立場に回ってキャンペーンを打ったことにより、利用者のセキュリティーへの懸念が過去のものになりつつあるところが大きいようだ。16日にはAOLが、このホリディ・シーズンにおけるAOLのショッピング・チャンネルの利用者が昨年の3.5倍になっていると発表している。最初の2週間で75万人が初めてのオンライン・ショッピングを経験しており、平均的には利用者は週2回の買い物をし、1件あたりの支出額は前年比48%増の54ドルとなっている。今シーズン、最も人気の高いカテゴリーの第1位は玩具や子供向けグッズ、2位は衣料品、3位は書籍と音楽CD、4位は電子製品とビデオ、5位が花、キャンディ、カードなどのギフト品となっている。95%の利用者がオンライン・ショップはいつでも開いていて便利と言っており、最も利用が多いのは夜8時から10時までの時間帯であるが、約3分の1の利用は夜10時から朝10時までの間に行われていると言う。 さて、Eコマース全体の予測であるが、これも様々な数字が出されている。フォレスター・リサーチがこの11月に出した予測によると、米国におけるビジネス対消費者(B to C)の売上高は、98年の78億ドルが2003年には1,080億ドル(米国のリテーリング全体の6%)にまで達するという。ボストン・コンサルティングがやはり11月に出したものでは、98年の北米のオンライン・リテーリングの売上高(オンライン株式購入も含む)は130億ドルに達する見通しとなっている。米国におけるビジネス対ビジネス(B to B)では、97年半ばに発表されて良く引用されていたフォレスターの予測では、98年の160億ドルが2002年には3,270億ドルになるとされていたが、同じフォレスターがこの11月には2003年に世界のEコマース(B to B&C)が最高3.2兆ドルに達するという予測も出している。さらに、フォレスターは12月には、米国内のB to Bが98年に430億ドルだったものが、2003年には1.3兆ドルとなり、米国のビジネスのトレードの9%に達すると言うものを出している。統計が整備されているわけではなく、足元の数字もはっきりしないところで、このような数字をいくら挙げてもきりがないが、予測が出るたびに上方修正されているのは事実であり、B to CもB to Bもスレショルドを過ぎて、成長のカーブに乗ったと言うところであろう。

B to CとB to Bについて、それぞれの特徴などを見てみよう。B to Cは上述のように、今年が一般の消費者に受け入れられた最初の年と言って良いであろう。成功している企業として、良く挙げられるアマゾン書店を例として見てみると、最新の98年第3四半期の売上高は1.5億ドル(前年同期比306%増)、顧客数450万人(同377%増)と非常な勢いで伸びているが、純益は2,400万ドルの赤字となっている。しかし、株価は98年1月頃が30ドル程度だったものが、何と12月中旬は300ドルを超えているというすさまじさである。なぜこういうことになっているのか。詳しい分析はジェフリー・ベゾスCEO(34歳で今や7千億円以上の資産家)が表紙を飾るビジネス・ウィークの12月14日号に載っているのでそちらを見ていただきたいが、一言で言えば、初めての分野で独自のビジネス・モデルを確立したということだろう。書店というのはまず書籍の数を増やしていくことができるし、さらにはCDやソフトウェアなどと言う書籍と同じように売ることのできるものへと特別の投資をしなくても拡大していくことができるというところが、ビジネス・モデルとして優れている点である。もちろん、顧客管理と言う面でのきめの細かさも非常に優れており、例えば、トム・クランシーを買う人はクライブ・カスラーも買っているなどとウェブに出てくるが、その通り私も両方買ってしまっている(が積んであるだけで、実は翻訳が出るのを待っている)。広告戦略もしっかりしており、主要なポータルには相当な投資をして他の追随を受ける前にその知名度を十分高めてきている。

  アマゾンだけを例にして、オンライン・リテーリング全てを語ってはいけないだろうが、これほど成功しているような企業でも収益が出ていないというところに共通の難しさもあるようである。もちろん拡大期であって投資に利益を全て当てているということが大きいのだろうが、ものの販売では、最終的には価格のみの競争となり、送料も別にかかるオンライン販売ではマージンが非常に薄くなるというところが最大の問題なのである。現にどこかのポータルで書籍のタイトルを入れると、アマゾンでは何ドル、別の書店では何ドルとたちまちにして比較が出てくる。こうなると、薄利の中でも、再投資をしていけるところだけが生き残れるということになってしまう。上述のボストン・コンサルティングが言うところでは、現時点ではオンライン・リテーリングは収益を上げる段階ではなく、顧客のベースを広げるためオンライン売上の65%もがマーケティングや広告に再投資されている(通常の小売では4%)とのことである。 この広告と言う点では、知名度が高くない初期の段階ではトップ・ポータルとの提携と言うのが非常に重要になってくる。当たり前の話であるが、AOLや Yahooなどのショッピング・ページにリンクを張って、自分のサイトに飛んでもらうのが最も効率が良い。マンハッタンで言えば5番街に店を構えるようなものである。各社ともトップ・ポータルに3年で2〜5千万ドル程度を支払って出店契約を結んでいるようである。これらも反映して、98年はポータル間の競争が熾烈であった。98年10月時点の米国におけるポータル・ベスト10(Media Metrix調べ)は、AOL、Yahoo、Microsoft、Lycos、Netscape、Geocities、Excite、Disney、Infoseek 、Time Warnerとなっているが、ディズニーはインフォシークに投資し、AOLはついにネットスケープを買収するのであるから(11月24日発表)。もう一つ付け加えるとすれば、上述のアマゾンのライバルであるバーンズ&ノーブルズはマイクロソフトのポータルでの独占的な書籍販売業者となる契約を結んだところであるし、アマゾンは逆に自分の顧客を他のリテイラーに斡旋するサービスを開始すると発表した(すなわちアマゾン自らがポータル化していく)ところである。

B to Bについて、もし企業の例を挙げるとすれば、デル、シスコ、フェデックス、GEなどがすぐに思い浮かぶ。デルは98年の総売上高の14%程度に当たる約22億ドルをオンラインで売り上げる見込みであり、多い日は1日に1千万ドルもの売上があるという。シスコでは98年総売上高の約半分の50億ドル程度が再販業者やエンドユーザー向けにオンラインで取引される。フェデックスは顧客が利用できる貨物追跡システムで有名であるが、今や顧客の貨物を運ぶというより、顧客のディストリビューション・システムの一部になっているように見える。そしてGEは現在の仕入れコスト300億ドルの20%程度をウェブで取引しようとしている。これらの例がいくらでも出てくるところをみると、米国における一流の企業はほとんどが何らかの形でEコマースを取り入れていると言っても良いのだろう。また、少し大掛かりな例としては、自動車ネットワーク・エクスチェンジ(Automotive Network Exchange:ANX)が注目されている。これはビッグスリーと、その部品供給メーカーが共同で実施するバーチャル・プライベート・ネットワーク(VPN)を通じた部品供給のためのエクストラネットで、この9月から運用が開始されている。これなどは、従来であれば自動車業界のEDIと言うことになるのだろうが、セキュリティを強化したインターネット・プロトコル「IPSec」を用いたVPN上に構築した、オープンなEDIとなるものである。

米国では現時点でEDI(VAN経由)は年間2,500億ドル規模であるとされている。ガートナー・グループによれば、現在EDIを利用している企業の80%が5年以内にエクストラネットを導入したいとしているということであり、専用線を用いたEDIとインターネットを経由したEDIの地位が徐々に逆転していくのだろう。と言っても、何もしないで代わっていけるわけではない。EDIの標準プロトコルであるEDIFACTや米国のX.12をインターネットで使えるように置き換えていかなければならない。XML(eXtensible Markup Language)がこれをつなぐものとして注目されており、米国のコマース・ネットやロゼッタネットなどの非営利法人がこのインプリメンテーションのための作業を急いでいる。

もう一つ、これらに関連して98年に話題になったのはサプライ・チェーン・マネージメント(SCM)である。実は米国では96年から97年には既にエンタープライズ・リソース・プランニング(ERP)からSCMに関心は移っていたようである。SCMソフトウェアは企業がサプライ・チェーンを通る部品や製品の流れをより正確に見ることで、在庫が適正か、需要はどのようにシフトしつつあるかなどをより適切に把握することを助けるためのものであるが、97年には20億ドルであったSCMソフトウェア市場が、2002年には140億ドルになるとの予想もあるくらい伸びている分野である。ERPソフトウェアのベンダーである、SAP、PeopleSoft、Baanなども相次いでSCMをERPに一体化させつつあり、i2TechnologiesやManugisticsと言ったSCM専業ベンダーを追い詰めつつあるらしい。上に例示した企業の状況などを見ても、ERP、SCMそしてエクストラネットとつないで、Eコマースの真のメリットを享受できている企業こそが米国で成功を納めていると言っても過言ではないだろう。日本の企業もぜひこのビジネス革命に乗り遅れないようにして欲しいものである。

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