99年4月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国情報技術研究開発政策の動向
(IT2の発表)-1-


はじめに

 昨年12月号でも米国のITに係るR&D政策の動向を取り上げたばかりであるが、99年1、2月にかけて、2000年度以降の米国の情報技術研究開発政策の行方を左右する重要な2つのドキュメントが発表されていることから、もう一度この話題を取り上げることにする。ドキュメントの第1は、1月24日にホワイト・ハウスから発表された「21世紀に向けた情報技術(Information Technology for the Twenty-first Century ; IT2)(アイティー・スクエアーと読みます)」イニシアティブであり、その第2は、2月24日に大統領情報技術諮問委員会(PITAC)から提出された「情報技術研究:未来への投資(Information Technology Research : Investing in Our Future)」と題された報告書である。また、その間の2月1日には、2000会計年度(1999年10月〜2000年9月)の連邦政府予算要求も発表されている。本稿ではこれら3点を紹介するとともに、同じタイミングで発表になった米競争力評議会の最新の報告(日本が技術革新力でトップに立った?というもの)についても、少し触れてみたい。


1. PITACのビジョン

大統領情報技術諮問委員会(President's Information Technology Advisory Committee ; PITAC)が97年2月の設置以来、大統領の諮問により情報技術政策のビジョン策定を行ってきており、98年8月に中間報告を出したことは12月の報告に記した通りである。このPITACが、99年2月24日に約70ページに及ぶ最終報告書、「情報技術研究:未来への投資(Information Technology Research : Investing in Our Future)」を発表している。最終報告書は中間報告書と章立てなどはほぼそのままであるが、事実認識や提言の詳細な見直しと、5年間で倍増とのみ中間報告で言っていたR&D予算の具体的な増額値を掲げているところが新しい。以下に最終報告書の概要を掲げる。なお、議長はライス大学のパラレル・コンピューティング研究センターのケン・ケネディー所長とサン・マイクロシステムズ社の共同創始者で研究開発担当のビル・ジョイ副社長が共同で務め、委員はIBM、AT&T、インテル、マイクロソフト、クレイなど主要なIT企業からと、スタンフォード、カーネギー・メロンなどの大学等から選定された24名から成っている。

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情報技術に関する大統領への諮問委員会
「情報技術研究:未来への投資」最終報告(骨子)99年2月24日

情報技術は過去のR&Dの恩恵により、92年以来の米国の成長の1/3をも支えてきたが、 21世紀に向けてのITのイノベーションの可能性はかつてなかったほど大きくまた重要になってくる。 しかるに連邦政府のIT研究開発へのサポートは危険なほど不十分かつ近視眼的に過ぎている。 本委員会は昨年8月にこの問題に対処するよう、中間報告において2004年までのIT R&D投資倍増を提言した。 その後の検討によりこれらの提言をリファインしたものが本最終報告である。 連邦政府は2000年度予算要求で「Information Technology for the Twenty-first Century(IT2)」 イニシアティブをコミットしたが、これがこれからの努力のファースト・ステップとなる。

Recommending Funding Increases for Information
Technology R&D ($ in millions)
Area FY 2000 FY 2001 FY 2002 FY 2003 FY 2004
Software 112 268 376 472 540
Scalable Information Infrastructure 60 120 180 240 300
High End Research 180 205 240 270 300
High End Acquisitions 90 100 110 120 130
Socioeconomic 30 40 70 90 100
Total 472 733 976 1192 1370
注. FY99予算に上乗せすべき額を表示


(認識と提言)

  • 連邦のIT R&D投資は不十分。ITの経済に対する重要度は劇的に高まっているにも関わらず、実質ドルで見てこの10年のIT R&Dはフラットないし減少。その結果、米国では、次の世代のITイノベーションをもたらすアイデアの宝庫となるはずの長期かつハイリスクの研究投資が危機的なまでに不足。
  • 連邦のIT R&Dはあまりにも短期的課題に集中。大半の連邦IT R&D投資はそれぞれのミッションをもった連邦機関によってなされるため、短期的なITの課題解決にプライオリティを置いてしまう。つまり、長期的研究ではなく、短期的でミッション・オリエンテッドなゴールにプライオリティを置いており、この傾向は民間でも同様。その結果、この10年間の情報経済を推進してきたアイデアの流れがさえぎられ、国家的な重要課題の解決への努力に脅威。
  • 提言:長期のIT R&Dでの戦略的イニシアティブの創設。上述の問題に対処すべく、本委員会は大統領がコンピューティング、インフォメーション、そしてコミュニケーション分野での基礎的な長期的研究を支援するための戦略的イニシアティブを創設するよう提言。このイニシアティブは2004年までに13.7億ドルの予算上乗せをすべき。連邦機関はこの上乗せ分を、実現が難しいようなハイリスクの研究を振興するように使うべきで、そのためには研究支援の方法を改め、プロジェクト期間も伸ばす必要がある。


(4つの研究プライオリティ分野)

  1. ソフトウェア:より使い易く、信頼性が高く、パワフルなソフトウェアの開発のための技術
  2. スケーラブルな情報インフラストラクチャー:地球規模のネットワークなどの情報インフラストラクチャーを支えるための技術
  3. ハイエンド・コンピューティング:2010年までにペタフロップスを実利用で持続できるようなアーキテクチャー、ハードウェア、ソフトウェアの技術(この分野の研究管理をCICのHECCの下に一元化すべき)
  4. 社会経済へのインパクト:米国の社会経済と労働力が情報世代に適応するための研究(具体的には、ITリテラシーの向上、マイノリティや女性のIT職種への参入拡大、広帯域ネットワーク接続への地域格差是正、学校でのIT教育及び教育へのIT活用の拡大など)


(連邦IT R&Dのマネージメントとインプリメンテーション)
21世紀の国家に必要な連邦IT R&Dプログラムの構築のためには、新たなマネージメント戦略、新たな研究支援のモード、そして新たなインプリメンテーション戦略が要求される。具体的には以下を提言。

  • NSFが基礎的IT研究の総合調整のリーダーシップをとるべき
  • IT R&Dのためのシニアの政策担当官を置くべき
  • HPCC(CIC)のコーディネーションのモデルを他の主要なプログラムにも応用すべき
  • 研究支援のモードを、より広いスコープで、長期間の、チームで行われる研究に重点を置き直すべき
  • 科学者やエンジニアがITの未来の姿を描く「21世紀の探索」のための「バーチャル・センター」を創設すべき
  • 次の世代のIT技術を国家の重要な課題に適用していくための「可能にする技術センター(enabling technology center)」を創設すべき
  • 研究目標や支援モードの年次レビューを実施すべき

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