99年5月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるコンピュータ2000年問題の近況 -1-


はじめに

昨年の2月、10月に続いて、今回が3回目のY2K報告となる。カウントダウンは250日を切ったが、米国においては打てるべき対策は概ね打っており、あとはそれらを坦々と進めていくという段階にあるように思う。日本も昨年半ばからの追い上げは素晴らしく、実作業の進捗度ではやや遅れているとしても、情報の浸透度や対策のバラエティという面では、もはや米国に遜色がないところに達していると聞いている。と言うことで、私の報告の方も、これまでの2回は「米国ではこんな試みもされていますよ」というような紹介が中心であったが、今回は既に知られている情報のアップデートというようなものになることをご了解いただきたい。


1. 政府の対応

(1) 2000年変換委員会

98年2月にクリントン大統領直属の組織として設置された「2000年変換委員会(President's Council on Year 2000 Conversion)」が政府としてのY2K問題への対応の要となっていることは、周知のとおりであるが、その議長として1年強を務めてきているジョン・コスキネン議長の活躍振りは特筆に価するものがある。2000年変換委員会のホームページ(http://www.y2k.gov/java/index.htm)を見れば一目瞭然だが、委員会自体の活動、連邦政府機関からの進捗状況ヒアリング、議会の公聴会での証言、海外も含む様々な場での講演などなど、席を暖めるひまもなさそうに見える。私も昨年の暮れ、ホワイトハウスの隣のオールド・エグゼクティブ・ビルディングにある(ここもホワイトハウスと呼ばれる)オフィスでコスキネン議長にお会いする機会があったが、人懐こい笑顔を見せながらも、タフに仕事をこなしていかれる方という印象を受けた。因みに、日本から聴けないのは残念だが、委員会がこの1月から設けている消費者向けのY2K情報センター無料電話サービス(1-800-USA-4-Y2K)に電話をして、タッチトーンで「消費者は2000年にどう備えれば良いか」というところに辿り着くと、「ハロー、ディスイズ、ジョン・コスキネン」と急に本人が出てきたかのようでびっくりする。そこで彼は、「Y2K問題で通信、電力、運輸、金融などの重要なインフラに重大な中断(major national disruption)は起こりません。皆さんは普通の嵐に備えるように、ラジオや懐中電灯用の乾電池、3日分くらいの水と食料を準備し、車は満タンにしておくのが良いでしょう。新しい情報が入ったらお知らせしますので、またお電話ください。(抜粋)」などと気軽に話し掛けてくれる。(日本でもやってみてはいかがでしょうか。)

さて、委員会の活動としては、毎月一回の定例委員会で活動方針を確認しつつ、連邦政府機関のY2K対応の指導・監督から始まり、州・地方政府との活動の政策調整、さらには25のセクター別のワーキンググループが業界団体等と協調しながら民間におけるY2K対応の進捗を促進する、と言う3段構えになっている。それらの活動の一部始終がホームページ上で公開されており、広報という面では大変な効果を上げていると思われる。Y2K情報の公開という意味では日本でもY2K顧問会議の議事録が公開されているが、こちらでも当然ではあるが、議事要旨が発表されており、例えば上述のような無料電話サービスの開設とか、後述する中小企業アクション・ウィークの開催、国際Y2K協力センターの設置などなど実に広いアイデアが話し合われているのがわかる。昨年10月にY2K情報公開法が制定されて以降は特に、民間においてY2K情報の公開を促進するように呼びかけるとともに、また、Y2K変換委員会としてもセクター毎の進捗状況を中心とする四半期報告を策定することとなった。

第1回の四半期報告は99年1月7日に公開されているが、この4月21日に発表された第2回の四半期報告が内容の充実したものとなっている。「The President's Council on Year 2000 Conversion, Second Summary of Assessment Information」(http://www.y2k.gov/new/FINAL3.htm)という60ページ近くの報告書では、連邦政府、州政府から通信、電力、金融、食糧供給、ヘルスケア、運輸など15のセクターにおけるY2K対応状況について詳細な評価を行っている。それらについては、あとで述べることにするが、コスキネン議長はプレス発表において以下のようにサマライズしている。


1. 過去6〜12ヶ月で大きな進展があり、以下の点が明らかになった。

  • 連邦政府のミッション・クリティカル・システムの対応は2000年に間に合う

  • 電力、金融、通信、運輸などの米国の重要インフラに国家的なY2K問題は生じないだろう

  • Y2K問題に適切な注意を払っていない者、あるいはウェイト&シーを決めこんでいる者は自らを重大な危機に追いやっており、特に小規模企業や地方政府にそれが見受けられる

  • 国際的なY2K活動は、盛んになりつつあるものの未だ遅れており、米国にとっての脅威の源となる


2. 多くのセクターがこの夏を最終目標として対応を急いでおり、概ねその軌道に乗っているが、ここで安心していられる余裕はなく、委員会としては次の四半期に以下の点に注力する

  • 連邦と州との関係を強化し、州独自のプログラムのみならず、メディケイドやフードスタンプなど連邦支援の州プログラムの継続のためにクリティカルなシステムのY2K対応を促進する

  • 食糧供給、医薬品などの病院への供給、国際的な海上大量輸送などについて、Y2K対応状況に関するより詳細な情報収集に努める

  • Y2K情報公開法に沿った民間セクターによる情報公開の促進に努める

  • 国連Y2Kワーキング・グループと国際Y2K協力センターと協働し、国際的なY2K対応を促進する、特に各国のY2Kコーディネーターを集めた国連での会合について、昨年12月の第1回に続く第2回を6月21〜23日に開催

  • この夏に地域レベルでのY2K情報シェアリングを高めるためのイニシアティブを打ち上げる、これは地方の公務員と電力、水道などのサプライヤーが地域住民とY2K問題について対話するというもの

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