99年8月 JEIDA駐在員・・・長谷川英一
米国における電子署名に関する政策動向 -1- |
はじめに
昨年11月に、米国における「デジタル認証」の動向について報告した際にご指摘を受けたのが、重要な用語の使い方がなっていないと言う点である。すぐに訂正をすべきだったのだろうが、読者の方はたぶん誤りを諒解しつつ読んでいただいているだろうと勝手に判断させていただいた。今回の報告は「電子署名」に関するものであり、昨年の報告と重複するところも多いが、入っていくところが一歩手前と言うものである。一般に解釈されているところによれば「電子署名」というのは、より技術中立的な広い概念で、署名者が電子記録にサインをしようとする意図で付けた電子的なシンボルや、音やプロセスであって、つまり「デジタル署名」はもちろんのこと、キャッシュカードの暗証番号でも、スキャナで読み取った印影でも、あるいは指紋や声紋でも良いということになる。一方、「デジタル署名」は電子署名のうちの一つの技術手法で、公開鍵暗号を使って送るもので、デジタル認証(authentication)を伴っているものを言うということになるが、これ以上説明すると長くなるのでやめとおこう。つまり、今回の報告はより広い「電子署名」に関するルール作りの状況を中心にしているので、タイトルもそうさせていただいていると言うことであり、訳語も両方を使い分けている。とは言いながらも、やはり電子署名の中心はデジタル署名であり、それは誰もわかっていながら、技術中立の立場から一歩引いて電子署名という言葉を使っているということなのである。
デジタル認証(いきなり電子署名ではないところから入ってしまうが、フレームワークはそう書いているのでやむを得ない)に係るクリントン政権の基本的な立場は、97年7月の「グローバル・エレクトロニック・コマースのフレームワーク」に示されているとおり、「デジタル認証システムを可能にするボランタリーでマーケット・ドリヴンのキー・マネージメント・システムが構築されることをエンカレッジする」と言うものである。 具体的には、統一州法委員会全国会議(National Conference of Commissioners on Uniform State Laws = NCCUSL)とそのスポンサーであるアメリカ法律協会(American Law Institute = ALI)が、全米法曹協会(American Bar Association = ABA)などの参加を得て進めている統一商法典(Uniform Commercial Code = UCC)の、サイバースペースへの適用のための見直し作業、すなわち「統一電子取引法(Uniform Electronic Transactions Act = UETA)」の作成を支援するとしている。 州においては、ユタ州の「1995年デジタル署名法」を皮切りに、現在では全ての州が何らかの形の電子署名に関する法律を制定しており、UETAはこれらに統一性を与えるものである。 一方、国際的には、国連国際商取引法委員会(United Nations Commission on International Trade Law = UNCITRAL)に協力して、電子署名一般規則(Uniform Rules on Electronic Signatures)のモデル・ロー(1996年策定)を完成するとともに、その後のデジタル署名に関する統一規則のドラフティングなどに参加している。 念のため、グローバル・エレクトロニック・コマースのフレームワークにある、電子署名に関する対処方針をおさらいしておこう。 国内的にはNCCUSLの動き、国際的にはUNCITRALの活動を支えるとした上で、政府としてEコマースのフレームワークが作られる過程で尊重されるべき原則を以下のように示している。
それでは、フレームワークから2年間、商務省は何をしてきたのだろうか。たまたま、99年6月9日、下院商業委員会通信・貿易・消費者保護小委員会において、H.R.1714「Electronic Signatures in Global and National Commerce Act」に関する公聴会が開催され、商務省のEコマース担当のジェネラル・カウンセルであるアンドリュー・ピンカス氏がその点についてわかり易く証言しているので、ここに関連部分の仮訳を掲げておく。 「この2年間、商務省がEコマースの適切な法的フレームワーク構築のために行ってきたところについて、簡潔に述べてみたい。 州法は長い間、米国内での商取引を治める基本的な標準となってきた。NCCUSLは97年の初めからこれらの標準をサイバースペースにも適用するため、新しいモデルとして「Uniform Electronic Transactions Act = UETA」を起草しつつあり、これによって電子記録と電子署名に法的な認知を与えるための予測可能で必要最小限のフレームワークを構築しようとしている。NCCUSLの第一の任務は、法律のどの領域が統一されることで利益を得るのかを決め、州の立法府が制定できるように統一法を策定し提案することである。UETAドラフトは7月末のNCCUSLの年次総会で最終承認を受ける予定であり、承認されれば各州に提示されて適用されることになる。 この分野のクリントン政権の政策原則を考慮すると、このUETAは電子的取引の優れた国内の法的フレームワークを提供するばかりでなく、世界的に強力なモデルにもなる。それは規範的ではなく、実現可能なものであり、かつ技術的に中立である。我々はUETAを各州が直ちに承認することを希望している。 昨年制定された「政府ペーパーワーク軽減法」は、政府と非政府機関・国民との通信に利用される技術の選択における適切なバランスに配慮しているが、国際的な面に目を向けると状況はより複雑で、我々は世界的な電子商取引を可能にするための基礎を形成する原則を確立することに努力を傾けなければならない。 一方では、96年に採択されたUNCITRALのEコマースに関するモデル法に反映された広いコンセンサスが存在する。それは、重要な情報が電子的な形態で通信されたときに、そのようなデータの利用に係る法的な障害やそれらの法的効果や有効性に対する不確実性により、妨げられるかもしれないというものである。モデル法は、そのような法的障害がどうしたら取り除けるか、より確実な法的環境が国境を超えたEコマースの促進のためにどうしたら造れるのかについて、国際的に認められうるルールを提供している。我々は米国のUETAに対する努力がこの国際的なコンセンサスの上に立てられているということを喜ばしく思う。 他方では、電子認証に関して、少なくとも二つの異なった法的モデルが国際的に開発されつつある。その第一は、UETAやUNCITRALのモデル法に代表されるモデルで、電子的な合意や電子署名に対する障壁を除去し、しかもいかなる特定のタイプの認証に対しても法的なステータスを与えないというものである。 第二のモデルは認証サービスに相当程度の政府規制をかけようというものである。それは電子署名に対する特定の技術的要求を設定することで電子認証の一つかいくつかの形態への選好を形成することを政府に対して許し、しばしば、その手法を用いて署名された電子契約が法的に有効であるとの推定を提供する。EUの電子署名指令は、この秋に欧州議会で検討される予定であるが、このアプローチをとっている。 97年7月以来、我々は電子認証のアプローチを採用するよう各国に要請してきており、この電子認証によって取引が世界的に認知され効力を持つようになることが保証される。このアプローチの下で各国は、
我々は、様々なマルチあるいはバイのコンテクストの中で、このアプローチをとることをエンカレッジすることに成功を収めてきた。98年10月のOECD閣僚会合で、これらの原則を確認するEコマースの認証に係る宣言を採択した。加えて、我々はいくつかの重要な貿易相手国(フランス、日本、韓国、アイルランド、オーストラリア、イギリスを含む)と、これらの原則の確認のための共同声明を採択している。さらに、我々はUNCITRALに対して、これらの原則を具現化する電子的取引の国際コンベンションを検討するよう要請してきている。」
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