99年8月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国における電子署名に関する政策動向 -2-


2. NCCUSLにおける検討状況

 NCCUSLの策定する統一商法典(UCC)は米国各州の契約法のモデル法であり、現在Article 1(第1編)「総則」から、第2編「売買」、第2編A「リース」、第3編「商業証券」等々、第9編まで(第10編、第11編もあるが附則的なもの)規定されている。各州(義務ではないが、ほとんどの州)は、これらに若干のアレンジを加えつつ、州法として採用している。

 さて、新たな契約形態である電子的な契約については、今後それぞれの編の中に組み込まれていくことになるはずであるが、たまたまかなり前から(初ドラフトは96年)から検討中であった、第2編B「ソフトウェア契約と情報のライセンス(Software Contracts and Licenses of Information)」が、電子的な契約に係る規定を多く含むことから、このドラフティングを待って、他に広げていくというコンセンサスがあるようである。

  その第2編Bであるが、NCCUSLは99年4月7日に発表を行い、統一商法典の第2編Bという形ではなく、「Uniform Computer Information Transactions Act = UCITA」(http://www.law.upenn.edu/bll/ulc/ucita/citam99.htm)として法制化することにするとしている。後述するUETAもそうであるが、NCCUSLは統一商法典という普遍的な契約法で取り扱うべきもの以外の特定の分野は、"Act"という形態で法制化しており、既に70以上存在している。州がそれをモデルにして州法として取り込むと言う点ではほとんど同様の使われ方をしているようであるが、より機動的に特定重要分野を法制化することができるということのようである。

  UCITAは、コンピュータ・ソフトウェア、マルチメディア・インタラクティブ製品、コンピュータ・データとデータベース、インターネットとオンライン情報、の製作、修正、移転、配布に関する契約を規定するものである。従って、従来のものの売買などを規定するUCCの中に入れることはミスマッチであると言うことでActとされたわけである。当然のことながら電子的な契約についても章が割かれているが、電子署名については以下に述べるUETAにその規定を譲り、補完しあっているので、UCITAの内容そのものはここでは触れない。なお、UCITAのドラフトは7月23-30日にコロラド州で開催されるNCCUSLの年次総会で検討されることになっている。

 「Uniform Electronic Transaction Act = UETA」の検討は、96年6月にNCCのコミッショナーであるパトリシア・フライ女史が、その当時に既に法律化が先行していたユタ州、フロリダ州、カリフォルニア州などのデジタル署名法制を総括し、統一法の必要性を検討したメモを提出したことに始まる。その後NCCUSLの今後の計画を検討する委員会などの了承を受け、97年5月に起草委員会が発足して検討を開始し、7回の審議を経て最終ドラフト(http://www.law.upenn.edu/bll/ulc/uecicta/etaam99.htm)がまとめられた。こちらは7月23-30日のNCCUSL年次総会で投票が成され、採択される予定である。やや長くなるが、今後の米国の本分野を決するものなので、以下にUETAの概要を示す。(PART 3のその他を省略した以外、PART 1, 2のセクションは全部挙げているが、その中の規程は一部の仮訳のみであるので、注意願いたい。)

PART 1. NONGOVERNMENTAL ELECTRONIC RECORDS AND SIGNATURES
SECTION 101. SHORT TITLE {略}
SECTION 102. DEFINITIONS {略}
SECTION 103. SCOPE
 本法は、他の法律(UCCの他編や遺言関連法等々)で規制されている取引以外の全ての取引に係る電子記録と電子署名に適用する。

SECTION 104. USE OF ELECTRONIC RECORDS AND ELECTRONIC SIGNATURES; VARIATION BY AGREEMENT
 本法は、取引当事者間で合意して行う電子的取引についてのみ適用し、そうでない取引に電子記録、電子署名を使うことを要請するものではない。

SECTION 105. APPLICATION AND CONSTRUCTION
 
本法は、電子的取引が他の関連法に調和することを促進し、電子的取引に係る合理的なプラクティス及びそれらのプラクティスの引続きの拡大に調和させ、本法の内容を州が法律化しているものを統一させることを推進するために適用される。

 (注:つまり本法は、電子記録、電子署名の利用を有効とすることで、電子的取引を促進させ、取引を簡素化させ、さらに電子的取引に係る州法の統一化を促進すること等を目的とする、ということ。)

SECTION 106. LEGAL RECOGNITION OF ELECTRONIC RECORDS, ELECTRONIC SIGNATURES, AND ELECTRONIC CONTRACTS
 記録と署名あるいは契約はそれが電子的な形態であるという理由だけで法的効力を否定されることはなく、逆に法律が書面での記録を求めている場合には電子的な記録でもこれを満たす。

SECTION 107. PROVISION OF INFORMATION IN WRITING; PRESENTATION OF RECORDS
 両当事者が電子的取引を行うことを決め、法が一方から他方へ情報を文書で伝達することを命じていた場合、電子的な記録での伝達でも良く、その情報が受け取られたときに受領者による保有が成されたとする。但し、その法で情報の伝達や開示に他の方法が指定されていた場合はそちらに従う。

SECTION 108. ATTRIBUTION AND EFFECT OF ELECTRONIC RECORD AND ELECTRONIC SIGNATURE
  電子記録と電子署名は、その人の行動であればその人に帰す。その人の行動であることはいろいろな方法で証明されうる。電子記録や電子署名が記する人を決定するのに適用される安全手続きの効能を示すことも含む。

 上に言う、その人に帰する電子記録や電子署名の効果は、それが作られ、実行され、適用されたときの周囲の環境によって決まる。当事者間の合意とか、法によって与えられる場合もある。

SECTION 109. EFFECT OF CHANGES AND ERRORS
 当事者間での電子記録の伝達の際に変更や誤りが起きた場合は以下のルールに従う。

  • 両当事者間で変更や誤りを見つける安全手続きに合意していれば、その手続きに従って変更や誤りを発見した側が、その電子記録の効力を回避できる。
  • 個人を含む自動取引では、その個人が他の当事者の電子的なエージェントとの取引の中で誤りを犯した結果としての電子記録の効力を、以下のような場合は、回避することができる。すなわち、その個人が誤りに気づいたときに電子的なエージェントが誤りの修正ができるような機会を設けておらず、その個人も誤りを即座に相手に伝達し、合理的なステップに基づいた行動をとった場合など。

SECTION 110. NOTARIZATION (公証人による文書の証明)
 もし法が署名の公証人による証明を要求している場合、電子署名の場合には、電子記録が電子署名に加えて公証人の電子署名も含んでいれば、要求を満たしたことになる。

SECTION 111. RETENTION OF ELECTRONIC RECORDS; ORIGINALS
 
もし法が記録の保持を要求しているならば、電子記録の形であっても、それが最終的な形を反映し、また後刻参照できるようになっていれば、それで要求を満たしたことになる。

SECTION 112. ADMISSIBILITY IN EVIDENCE (証拠としての認容)
 法的手続きの中で、電子記録や電子署名は、それが電子的であるからといって、あるいはオリジナルでないからと言って、証拠から除外されてはならない。

SECTION 113. FORMATION OF CONTRACT
  引き合いに対する回答が電子記録で返ってきても、契約は電子的でないものと同様の有効性を持って同じように成立し、引き合いの受理は、受領したときに効力を発する。
  自動取引の場合は、電子エージェントとやりとりをすることで成立し、電子エージェントの対応について、個人が承知していなくても良い。

SECTION 114. TIME AND PLACE OF SENDING AND RECEIPT
  他に取り決めのない限り、電子記録は、その情報に受信者がアクセスした時か、又は発信側の手を離れ、受信側の管理下の情報処理システムに入った時に、送られたとする。

  また、電子記録が、受信側がその情報を取り込めるように指定した情報処理システムに入り、そのシステムで処理されることのできる形である場合に、受け取られたとする。

SECTION 115. TRANSFERABLE RECORDS
  「移転可能記録」とは、UCCの第3編「商業証券」や第7編「倉庫証券・運送証券」などで規定されているもののうち電子記録化されたものを言うが、その移転可能記録の移転を証明するためのシステムが移転可能記録を発行者や受領者を確定できるようにし、移転可能記録は管理されなければならない。


PART 2. GOVERNMENTAL ELECTRONIC RECORDS AND SIGNATURES
SECTION 201. CREATION AND RETENTION OF ELECTRONIC RECORDS AND CONVERSION OF WRITTEN RECORDS BY GOVERNMENTAL AGENCIES

 州の各政府機関は、どの程度まで、電子記録を作成し、保持し、あるいは非電子記録を電子化するか決定しなければならない。

SECTION 202. ACCEPTANCE AND DISTRIBUTION OF ELECTRONIC RECORDS BY GOVERNMENTAL AGENCIES
 州の各政府機関は、電子記録と電子署名を他との間でどの程度送付し、受入れ、それらにどの程度依存するかについて決めなければならない。また、それらを受け入れる際に、電子記録のフォーマットはどのようなものとするか、電子署名をつける場合はその種類やフォーマットはどのようなもので、伝達の証明のために第3者機関を使う場合はそのクライテリアはどのようなものとするか、等について定めなければならない。

SECTION 203. INTEROPERABILITY
 州がSECTION 202で標準を採用する場合には、連邦政府や他州、あるいは民間との間での交換ができるだけ可能なようにインターオペラビリティに注意する。

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