99年10月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国におけるインターネット取引標準 -2-



2.オンライン調達の標準

 米国の企業間電子商取引において、現在、最も急速に成長しているビジネスとし てオンライン調達が挙げられる。ここで言うオンライン調達とは、MRO (Maintenance, Repair and Operations)と呼ばれる文房具などのオフィス・サプ ライ用品や工場の備品など企業が間接費や経費などで購入する物品をインターネッ トを利用して購入する仕組みを指す。これらの物品は商品数が多く、社員のニーズ が発生する度に不定期に調達するため調達コストがかさむ。実際、企業における全 調達件数のうち、80%以上がMROの調達など小額の取引と言われ、その調達コス トは1件当たり75ドル〜150ドルもかかるとされている。この削減が企業にとっ て急務であったが、調達が不定期かつ多種多様にわたることから、既存のEDIに そのまま載せることも困難であった。しかし、ゼネラル・エレクトリックやマイク ロソフトが企業間電子商取引の仕組みをMRO調達に導入して大成功を収め、それ 以来、多くの企業がオンライン調達を実施している。

 コンピュータ・ワールド誌の統計によると、オンライン調達サービス市場は急速 に拡大しつつあり、96年の4,000万ドルから98年には7,500万ドルに、2000年 には1億4,000万ドルにまで成長すると予測されている。規模こそ小さいが、どの 企業も必要とするものであり、競争も活発な分野である。オンライン調達の取引標 準としては現在米国において、@Open Buying on the Internet(OBI)、ACommon Business Library(CBL)、BCommerce XML(cXML)という3つの異なる標準 が発表されている。


(1) Open Buying on the Internet(OBI)(www.openbuy.org

OBIは、フォーチュン500級の企業やベンダーが集まり、96年10月に結成し たOBIコンソーシアムが設定したオンライン調達の標準である。「オープンで拡張 性が高く、相互運用性にもすぐれてセキュリティも万全な標準」を目標に設定され たOBIは、高速アクセスができ、プラットフォームの種類に関係なく利用できる という特徴を持つ。OBIの開発に携わっている企業としては、アメリカン・エキス プレス、フォード、オフィスデポ、ナショナル・セミコンダクターなどが挙げられ る。OBIコンソーシアムの会員数は60社を超えており、現在も拡大を続けている。

OBI標準は、売り手と買い手が情報のやり取りを行うための共通の言語であり、 そういった意味で非常にEDIに似ている。OBIの画期的な点は、互換性のないソ フトウェア・ソリューションを排除したところにある。従来、買い手企業向けに提 供されていたソリューションはプロプラエタリ(特定ベンダーの独自仕様のハード ウェアやソフトウェアで構築されるソリューション)であり、特定のソフトウェア ベンダーやサプライヤーを選択しなければならない上、システム全体を買い手企業 のイントラネットで運営・管理しなければならなかった。また、サプライヤーを変 更する場合には、新しいサプライヤーの製品データを統合するなど、複雑な作業が 必要であった。こうしたシステムは、買い手やサプライヤーの両方にとって非常に 利用コストが高くなる。買い手企業がシステムを運営・管理しているとしても、電 子カタログに掲載している製品や価格の変更・更新は、サプライヤーが行うためで ある。買い手企業によって異なるシステムを利用している場合には、こうしたデー タの更新作業は膨大な量となる。OBIは、サプライヤーのウェブサイトに掲載さ れた製品カタログに買い手企業が直接アクセスするという形態をとることで、買い 手企業の負担を大幅に軽減し、製品データの更新にかかるコストを削減することを 目的としている。具体的な手続きの流れを簡単に説明すると図1.のようになる。

OBIは98年6月に出された1.1版での試行段階を終え、99年8月に出された2.0 版による普及段階に入るとされる。2.0版では、マルチベンダー・ソフトウェア、 顧客特有のカタログ、複数通貨による取引などを新たにサポートするとともに、安 全性も向上されている。標準としては、SSL、HTML、X12 850 EDIなどをベー スとしており、将来、XML、EDIFACTなどに発展させていくとしている。


図1.OBI2.0の仕組み


  1. 買い手(社員)はウェブブラウザで、社内の購買サーバーのリンクを通して、サプライヤーの販売サーバーにアクセス。

  2. サプライヤーの販売サーバーは買い手のデジタル証明書で買い手を確認し、買い手に応じたカタログを表示。買い手はその中から購入する製品を選択。

  3. 買い手の選択に基づいたEDI対応の発注書がサプライヤー側で作成され、暗号化されて買い手企業に送信。

  4. 買い手企業は支払方法などの情報を発注書に加えるなどの社内処理。

  5. 承認され完成された発注書がサプライヤー宛てに送信。

  6. サプライヤーが受注を遂行するための請求手続きなどを処理。

  7. 取引金融機関から請求書が発行され、代金が入金。
出典:OBI2.0技術仕様書を基に作成


(2) Common Business Library(CBL)
 (www.commerceone.com/solutions/xml/xml_tech.htm

CBLはXMLで書かれたオープン標準であり、製品仕様書、発注書、インボイ ス、発送スケジュールといったビジネス文書の交換を異なる業界間で行うために設 定された。CBLは、XML製品ベンダーのベオ・システムズが開発した。しかし、99 年1月に同社のライバルであったコマースワン(www.commerceone.com)がベオ・システムズを買収したことで、現在はコマースワンがCBLの開発やマーケティングを手がけている。

CBLは、マイクロソフトのBizTalkイニシアティブ(後述)、OASIS(後述)、 やUN/CEFACT、コマースネットのeCoフレームワーク・プロジェクトといった電 子商取引の標準設定を行う企業や団体からも支持を得ており、さらなる普及を目指 すべく、コマースワンやそれらのウェブサイトにおいて無料で提供されている。現 在のバージョンは、99年7月に発表されたCBL2.0である。

CBLは、従来なら高価なVANを利用したEDIで行われていたオンライン取引 をインターネットに移行することで、EDIを導入するだけの資金を持たない中小 企業などにも電子商取引の門戸を大きく開放した。CBLの特徴は、異なる業界で 共通して利用されるXMLのコンポーネンツを再利用している点であり、互換性の 高い電子商取引のアプリケーションを構築する際に非常に重要なツールとなる。


(3) Commerce XML(cXML)(www.cxml.org  

cXMLは、オンライン調達アプリケーションの大手ベンダーであるアリバ・テク ノロジーズ(www.ariba.com)が99年2月に発表した標準である。cXMLは、文字通りXML標準に基づいて開発された標準であり、取引に関する情報交換における要請/返答(request/response)のプロセスを定義付ける。要請/返答のプロセスとは、発注、注文の変更、受注、発送通知、支払いなどである。

 cXMLは、アリバ・テクノロジーズの主導の下、40社を超える企業が協力して開 発した標準である。これらには、バーンズ・アンド・ノーブル、シスコ・システムズ、 フェデラル・エキスプレス、ヒューレット・パッカード、ゼネラル・モーターズ、マ イクロソフト、VISA、USウェストなどの大手企業が名を連ねている。

 cXMLの仕様は発表されたばかりであり、今後、どのような発展を遂げるかわか らないが、cXMLの開発に携わっている関係者らは「cXMLは、OBIコンソーシ アムやコマースネットの進めている標準設定に対抗するのではなく、これらの動き をサポートすることを目的としている」と述べている。しかし、あらゆる標準が登 場することで、単一の標準を設定するという従来の目的から大きく乖離することも 可能性として挙げられており、今後の動きが大いに注目されるところである。

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