2000年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

1999年の回顧と2000年の展望 -3-


2.インターネットとメディア・ビジネス

(1) 電話会社による主導権争い

98年に続き99年も電話会社間、あるいは電話会社によるケーブル会社の合併や買収の話題にはことかかなかった。と言っても、今や数が絞られてきてしまったので、そろそろ終息に近づいてきたと言えるかも知れない。以下に98年以降の主要な合併等の状況を示してみよう。

長距離電話会社によるもの
AT&TのTCI(CATV2位)の買収(98年6月発表、99年3月完了)
AT&TとBTの国際部門の合体(98年7月発表、99年10月完了、社名「コンサート」)
ワールドコムによるMCIコミュニケーションズ買収(98年9月完了)
AT&TのIBMグローバルネットワークの買収(98年12月)
AT&TのMediaOne(CATV4位)の買収(99年4月発表)
クエストのUSウェスト買収(99年7月発表)
グローバル・クロッシングのフロンティア買収(99年9月発表)
MCIワールドコムによるスプリント買収(99年10月発表)

地域電話会社によるもの
SBCのアメリテック買収(98年5月発表、99年10月完了)
ベル・アトランティックとGTEの合併(98年7月発表)
ベル・アトランティックが長距離電話参入(99年12月承認)

これらの買収や連携は、もちろん規模の経済の追及によるところが大きいが、余剰なネットワークの効率使用、あるいは制度や市場によって阻まれていた新しい分野への参入と言う動機などにも基づいているようである。

例えば、ベル・アトランティックは97年にニューヨーク市をテリトリーとするナイネックスを買収し、今は米北東部州をテリトリーとするGTEと対等合併しようとしている。これにより、文字通り米国のアトランティック側全てをテリトリーとする効率的な地域電話会社となれるとともに、GTEの長距離電話及びインターネット網なども加え、ベル・アトランティックとしては念願の長距離市場への参入が手の届くものになるわけである。と言っても、まだこの対等合併は認められると決まったわけではないが、既に司法省の認可はとれており、州の規制当局の認可もカリフォルニア州とオハイオ州を残すだけとなっており、FCCの認可も時間の問題かもしれない。(AT&Tは、この合併について、各州の審査に当たって意見書を出すなどして、足を引っ張ろうとしてきているが、今のところ功を奏していないようである。)なお、FCCは12月22日に、ベル・アトランティックのニューヨーク州での長距離電話サービス(現在地域電話サービスを660万世帯に提供)開始を承認し、いよいよ地域と長距離の相互乗入れの時代の幕が上がったことになる。

また、クエストやグローバル・クロッシングなど新興の長距離通信会社は、海底ケーブルも含め、光ファイバー・ケーブル・ネットワークに相当額の投資を行って伸びてきたが、技術が進んで、同じ一本のファイバーでも運べるトラフィック量が増えたため、かつて言われていたようにはIPトラフィックでネットワークがパンクするということもなさそうであり、余剰キャパシティを抱えるという状況になっている。従って、これらのキャパシティを埋めるトラフィックが欲しいわけであり、クエストのUSウェスト買収などは、正にユーザーがぶら下がっている優良なネットワークとつなげるわけであり、理想の買収と言うことになるのだろう。(クエストがインターネット2のAbileneネットワークにファイバー網を無料で提供しているのも、どうせ空いているものだから、将来有料化に移行できることを見据えてやっているのだろう。)

やや勝手な推測を交えたが、上に掲げた新たな買収提案の中で、最もハードルが高そうなのが、AT&Tによるメディアワン買収と、MCIワールドコムによるスプリント買収である。後者について少し解説してみると、10月5日の発表は、MCIワールドコム(長距離第2位)が史上最大の1,290億ドル相当の株式交換により、スプリント(第3位)を買収することで両社が合意したと言うものであった。合併が実現すると同社は「ワールドコム」と呼ばれ、年商500億ドル、市場価値2,900億ドルで、65カ国でオペレーションを行う世界最大の通信会社となる。新会社のCEOになる現MCIワールドコムCEOのエバース氏は、「スプリントの買収はワイアレス通信がフルサービス・オファーの重要な要素となりつつある中で非常にタイムリーなもの」とし、DSLとMMDS(後述)を組み合わせた新ブロードバンド・アクセス・サービスを提供していくとしている。これについて、10月5日付けWSJ紙によれば、「MCIワールドコムがスプリント買収をしかけた理由の第一はスプリントのワイアレス・ネットワーク(400万人のPCS加入者と170万人のポケベル加入者を有する)にあるとし、その意味でこの買収劇に参加して敗退したベルサウスとスプリントの組合せより、理想的であったとアナリストは言っている。しかし、既にFCCのケナード委員長が慎重な審査を示唆しているが、FCCの認可を取得することはかなりの難問のようだ。」としている。さらに、11月13日付けWP紙は、「両社の合併は、連邦政府の承認を得られない見通しである。合併後の両社とAT&Tを併せると、長距離市場のほぼ80%となり、連邦規制のレベルをはるかに超えるものとなる(AT&T; 43%、MCIワールドコム; 26%、スプリント;11%)。このため、両社はこのルールの適用除外にしても、なお競争市場へのメリットがあるという理由で、規制当局を納得させなければならない。その基本的な議論は「長距離市場というものはもはや存在せず、新たな競争は複数のサービス(地域/長距離電話、高速インターネット・アクセス等)をいかにバンドルして売れるかというところにある。従って規制当局は単に長距離市場ということではなく、幅広く通信市場という中での新企業の力を評価されるべき。」と言うもの。しかし、MCIワールドコムのエッバースCEOが上院司法委員会でこの趣旨の証言を行ったが、司法委の見方は懐疑的である。またFCCのケナード委員長も合併の発表日「2社の合併は長距離市場での競争の降伏を意味する」と批判しており、司法省のクライン反トラスト担当副長官も承認は難しい見通しであると表明している。」と伝えている。12月14日付のWSJ紙によると、この合併の審査に当たって司法省はウォール・ストリートで高名な反トラスト法弁護士の、ステファン・アキシン氏を雇い入れたとのこと。このように外部の弁護士を雇うと言うのは異例で、最近ではマイクロソフト裁判でデビッド・ボイーズ弁護士を雇っただけとのことで、司法省の力の入れようがわかる。FCCは司法省の結論を見てからということらしい。と言うことで、もしこれが認められると2000年以降のインターネットを取り巻く環境が大きく変化することになるのだろうが、どうもそうは簡単にいかないようである。


(2) AT&Tのブロードバンド戦略を巡る動き

さて、インターネットへのアクセスを巡る1999年最大の話題は、AT&Tのケーブルを使ったボイスを含むブロードバンド戦略にあったと言っても良いだろう。これについては、99年9月報告で詳細に取り上げたので、ここではその後の動きについて簡単に触れることに留める。

ちょっとおさらいしておくと、AT&Tは98年6月にTCIを買収(480億ドル)すると発表し、99年3月に買収が完了。TCIは新部門「AT&T BIS(Broadband and Internet Services)」を形成することになり、コンシューマー向けのデジタル電話、インターネット・アクセス、デジタル・ビデオ等のサービス・パッケージの提供を目指す。その間、1、2月にはTCIの系列ケーブル会社及びタイム・ワーナーとも合弁会社を設立することを発表。さらに4月、メディアワンの買収(580億ドル)を発表。これらを併せると、全体で約5,600万世帯(全米には約1億世帯があり、うちケーブル視聴世帯は6,700万世帯とされる)がAT&Tの視野に入る。AT&T BISは既に7月からサンフランシスコ近郊のフレモント市で上述のパッケージ・サービスの実験を開始している、と言うところ。

さて、AT&Tは上述のパッケージはまだ実験的に開始したばかりであるが、TCIの時代から始めているケーブル・モデムを使った高速インターネット・アクセス・サービスは、「AT&T@Home」として提供している。これは文字通りAT&T(元はTCI)の子会社である@HomeをISPとして独占的に使って提供しているものであり、これを他のISPにも開放するようにと主張する、いわゆる「オープン・アクセス」の争いが99年一杯繰り広げられてきたわけである。従来よりオープン・アクセスを強制しないという立場をとってきたFCCは10月13日に、ケーブル・サービス局のスタッフの名前で「BROADBAND TODAY」(http://www.fcc.gov/Bureaus/Cable/News_Releases/1999/nrcb9017.html)と題する報告書を発表し、その立場を確認している。すなわち、ブロードバンド・インダストリーはまだ揺籃期にあり、何らかの規制がかかるという懸念だけでその普及の速度が遅くなってしまうので、現段階では注視するのみと言うのが適切な政策であるというもの。

この件を巡っては、10月25日、GTEが、AT&T BISと@Homeを、消費者にISPの選択を許さない経済力の乱用に当たるとして、反トラスト法違反によりピッツバーグの連邦地裁に提訴したり、11月1日には、AT&T対ポートランド市の訴訟の第2段階の控訴裁判が開始されたりしている。そうこうしている間に、12月6日、AT&Tはケーブル及び固定無線を使った高速インターネット・アクセスについて、ISP各社に開放することを発表した。その内容は、固定無線については来年初から、ケーブルについては現在独占契約を結んでいる傘下のエクサイト@ホームとの契約が切れる2002年半ばから、ISP各社に開放すると言うもので、マインドスプリング社を初め、すでにいくつかのISPと交渉を開始していると言う。これでこのオープン・アクセスを巡る問題も終わりに近づいたかのようにも思われるが、どうもAT&Tとしては、FCCの受けをさらに良くしてメディアワンの買収についての判断を有利に持っていこうとか、2002年まで@Homeに独占させれば、相当程度まで市場を押えられるとかの思惑が見え見えであり、まだまだ本件はもめそうである。

ところで、同じ12月6日、AT&Tはワイアレス事業を子会社化して来週株式公開をすることを中心とした財務強化方針を発表するとともに、部門毎の今後の方針などを明らかにしているが、関連の記述は次の通り。「BIS部門は、設備のアップグレードやシステムの統合、新世代の通信、情報、エンターテイメント・サービスへの入れ替えが予定以上に進んでいる。99年内にケーブルの2方向化は51%完了し、2000年内には85%まで完了する。ブロードバンド・テレフォニーは8市場(13都市)で試行中であるが、2000年内には40〜50万人の顧客を獲得できる見込み。現在16.4万人のAT&T@Homeの顧客は、2000年第1四半期末までに27.7万人になり、さらに2000年末では70.0万人に達する見込み。毎日3千人が新規に顧客となっている。2000年にはケーブル視聴者の25%程度に当たる250〜300万人がデジタルのケーブル顧客になる。なお、BIS部門は2000年には12〜14%増収となり、5つの成長分野、すなわちテレフォニー、高速インターネット・アクセス、ビデオ、インタラクティブ・ビデオ、ビジネス用ブロードバンド、に積極的に投資していく。」

FCCのケナード委員長はこの12月16日に、ロサンゼルスで開催されたカリフォルニア・ケーブル・テレビジョン協会主催の「ウェスタン・ショー」で「ブロードバンド・ケーブル、次のステップ」と題する講演をしている。この中でFCCとしては「オープン・アクセス」に近づく方法として、規制ではなく、市場にチャンスを与えると言う難しい選択をしたとしている。ただ、この夏に関係者がやってきて、子会社ではないISPがケーブルを利用する方法について相談していると聞いて励まされたことを明らかにしており、それがAT&Tとマインドスプリングの上述の発表につながったと言うことである。つまり、AT&Tが自主的にオープンにすることを見越した上で、強気でケーブル側の後押しをしていたと言うことなのかもしれない。いずれにしても、これからのケーブル業界は、オープン・プロトコール、オープン・バウンダリー、オープン・プライスに心がけつつ、ケーブルのアップグレードにまい進して欲しいと結んでいる。


(3) ケーブル・モデム対xDSL

ケーブル・モデム対xDSLの顧客獲得合戦は99年時点でもケーブル・モデムが大きくリードを取っている。ケーブル・モデムはキネティック・ストラテジー社(http://cabledatacomnews.com)の調査によると9月末時点で140万台(98年末は51万台)、一方のxDSLはテレチョイス社(http://www.xdsl.com)の調査で同時点27万件(同3.9万件)となっている。因みにそれぞれが2003年の見通しも出しているが、それぞれ1,590万台、960万件となっており、その時点でもケーブルがリードしていることになっている。が、データクエストは2002年では既に逆転して450万対700万などとも言っているので、そんな先の予想は止めておいた方が良さそうである。

ケーブルの方はExcite@HomeとRoadRunnerという二つのISPのほぼ複占状態にあり、うちExcite@Homeは12月6日に加入者が100万を記録したと発表している。xDSLの方は、ILEC(Incumbent Local Exchange Carriers)が22万件(うち81%が一般家庭、19%がビジネス用)、CLEC(Competitive Local Exchange Carriers )が5万件(それぞれ21%と79%)となっており、今のところ電話会社自身がサービスを提供しているところが多いが、AOLなどが着々とILECと提携して、サービス部分を受け持とうとしている。ILECの中では、最大手のSBCコミュニケーションズが最も進んでおり(既に10万件以上と発表)、10月には今後3年間で60億ドルの投資を行い、加入者線のアップグレードや光ファイバーネットワークの再構築などを行い、ADSLでもNo.1に立つと言う「プロント計画」を発表している。11月には、この一環としてISP大手のプロディジーの株式43%を買収して、プロディジーにインターネット顧客の管理を任せると発表もしている。

ところで、xDSLについても、ケーブルと同様、オープン・アクセスの問題は存在している。ILECにとっては、アップグレードまでしたデジタル加入者線(DSL)を、通常の回線と同様にCLECやISPに原価で貸与するというのでは割に合わないと主張していたのだが、こちらはFCCが硬く、xDSL部分を子会社化する場合を除き、これまでと同様にすることとしていた。さらに、複雑なのは、1本のデジタル加入者線を通常の電話部分を元通りILECがサービスし、高速インターネット接続部分をCLECが借り受けるというようなこともするようにとの通達まで、FCCは11月18日に出している。「Line Sharing」と呼んでいるようであるが、技術的に本当にできるか疑問もあるようであるが、このような競争が可能になって来ると、xDSLサービスの価格は下がり、普及に益々弾みがつくのかもしれない。


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