2000年1月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

1999年の回顧と2000年の展望 -2-


将来の課題

来るべき年において、Eコマース・ワーキング・グループは、情報革命の便益を全ての人々にもたらすため、新たな3つのイニシアチブを採る。

  • インターネットへのアクセスを増大することで、全ての人々にとってのデジタル・オポチュニティーを創造する。
  • より良く、効率的な政府サービスを提供し、市民に対する政府の責任を増大する。
  • 遠隔医療や遠隔学習など、可能性のある社会的な便益を持った新たなインターネットの利用を促進する。

 我々はまた、97年と98年の指示に基づき取り組んできた多くの課題に対する作業を継続する。これらの課題は変化し進化するが、フレームワークの原則は、我々が挑戦に取り組み、インターネットとEコマースの約束を達成していく上で、引続き我々を助けてくれる。民間セクターと協働し、我々は情報世代の便益を全ての人々にもたらすべく努力したい。


以上がサマリーの仮訳であるが、これだけではややあいまいなので、具体的に付け加えておいたほうが良いと思われるところを以下に記しておく。フレームワークの中心的な課題であった各項目の進捗状況については以下の通りである。

@ 関税と課税:
関税の方は、ソフトウェアなど大幅出超の米国としては、たとえWTOシアトルでお預けになったとしても、モラトリアムの恒久化を目指す方向でコンセンサス作りを継続していけば良いということだろう。問題は国内課税のほうである。98年10月の「インターネット・タックス・フリーダム法」により、インターネットへの新規課税をとりあえず3年間猶予しつつ、諮問委員会で2000年春まで課税の是非を継続検討することになっている。同委員会のギルモア議長(バージニア州知事)は非課税の恒久化の方向で報告書をまとめつつあるようだが、委員の中には根強い反対意見もある。さらに、ウォルマートなどの、いわゆる「レンガとモルタル」リテーラー(つまり店舗を持つ商店)からは、なぜオンライン・リテーラーだけに無税の恩典を与えるのかとの抗議の声が高まっているのも事実である。税の問題は選挙にも大きく響く問題であり、2000年に本当に結論が出せるのか疑問ともされる。

A 電子署名:
98年10月の「政府ペーパーワーク軽減法」により、政府機関のデジタル認証の利用促進が義務付けられるとともに、99年7月には、NCCUSLが「統一電子取引法(Uniform Electronic Transaction Act = UETA)」により、州の電子署名法制のモデルが規定されている(7月の駐在員報告で詳述)。2000年中には少なくとも27州がUETAを導入又は導入の検討をするという。国際的にはEUが最近承認したより規制色の強い電子署名指令には問題があるとしつつ、契約当事者間の選択の自由、技術的中立性、非差別性、ペーパー・ベース障害の撤廃等の原則に対する国際的コンセンサスを取り付けていこうとしている。

B ドメイン・ネーム・システム:
98年10月、システム民営化機関として「Internet Corporation for Assigned Names and Numbers = ICANN」が発足して以降、これまで政府の委託によりドメイン・ネームの登録を独占してきたNSIとの論争が1年も続いたが、ようやく11月10日に商務省、ICANN、NSI間で合意がまとまった。主な合意の内容は、@NSIがICANNの権威を認める、A当面NSIは、登録の卸売業者としての機能を維持する、BICANNが既に承認している76の民間登録業者は、NSIの持つ登録データの使用料として年間1万ドルを支払う、CNSIは登録業者からドメイン名登録料として1件当たり年間6ドルを徴収する、DNSIはICANNの運営費として年間200万ドルを支払う等々となっており、商務省としては2000年内に民営化への移行を完了させる予定である。

C プライバシー:
98年から99年にかけて、民間のBBBやTRUSTeなどによるプライバシー自主規制の仕組みが整ってきたことに加え、13歳未満の子供のプライバシーについては、98年10月成立の「チルドレンズ・オンライン・プライバシー保護法」の細則も99年10月にFTCが発表し、枠組としては全体が整うことになった(駐在員報告6月号参照)。EUのデータ保護指令との協調のために交渉が続けられている「セーフ・ハーバー原則」については、6月頃にもまとまるかと見られたが、議論は難航しており、11月15日付けで何回目かのドラフトが作られ、この12月に再度交渉が持たれるようである。

D 暗号:
段階的に規制緩和を行ってきたが、最終的に99年9月、一度限りの技術レビューで、鍵長無制限でキーリカバリー無しの暗号製品輸出を認めると発表したが、その後の民間との詰めに時間がかかっており、年内に制度改正の予定が、1月中旬にずれ込む模様。

E コンテンツ:
子供を有害な情報から守るために業界の自主規制を促してきたが、99年7月にインターネットのポータル企業が中心になって「GetNetWise」イニチアチブを打ちたて、親たちに対し、フィルタリング製品や子供に有益なサイト情報などの提供を始めている。98年10月成立の「チャイルド・オンライン・プロテクション法」は、未成年者でないという身元確認なしで、子供に有害な画面を見せたウェブ提供者を処罰するというものであるが、言論の自由に反するとの違憲判決を受けて、当該条項は仮差止め中であるが、政権としては控訴をするとともに、同法で規定されている「チャイルド・オンライン・プロテクション委員会」を発足させ、2000年11月までにどのような技術ツールがどの程度まで子供を有害なコンテンツから守ることができるのかについての報告をまとめることになっている。

新たな3つのイニチアチブは、具体的には以下のようなものである。

@ デジタル・オポチュニティー:
99年7月に商務省国家通信情報局(NTIA)が出した「Falling Through the Net : Defining the Digital Divide」に示されたインターネットにアクセスできる人とできない人のギャップを埋める具体的なアジェンダは以下の3点。

  • 商務省は民間セクターと協力してデジタル・ディバイドを縮めるための国家戦略を策定するとともに、定期的に米国内のディバイドの状況について報告書を出すこと。
  • 教育省、住宅都市開発省、厚生省、労働省は、特に低所得者層にITへのアクセスを提供するコミュニティ・テクノロジー・センターの設置に引続き努めること。
  • 教育省、労働省は米国の労働者がハイテク経済において競争できるよう、IT技能の向上に努めること。

A エレクトロニック・ガバメント:
米国政府はITの活用によって、国民が政府のサービスに、よりアクセスし易いようにするとし、その具体的な努力例としては以下を含む。

  • 納税者が納税申告書をインターネットからダウンロードし、内国歳入庁に電子的に申告できるようにしており、昨年は納税者の10%(2,460万人)がこれを利用。
  • 市民は連邦の求人案内を、また雇用主は大量の履歴書を電子的に閲覧できる。
  • 教育省の奨学金の手続きは98〜99年に672,728件の申請を電子的に処理した。
  • 消費者は飲料水や大気汚染などの地域の環境情報にアクセスできる。
  • 1億人以上の市民が2000年のセンサス・フォームにアクセスできる。

 また、Eコマース・ワーキング・グループとして以下に努力する。

  • 市民が政府情報全体にユニバーサルに触れることのできるようなワンストップ・アクセスを実現する。
  • 政府調達におけるEコマースの活用増大により、納税を節約する。
  • 政府が技術をより活用することで、リーダーシップを示す。
  • デジタル署名技術を用いて連邦政府内の通信を安全なものとする。

B Eソサエティ:
情報技術を用いて市民の機会を高め、生活の向上を図る社会のことを「e-society」と呼ぶ。政府は教室をインターネットに結ぶなどの活動で既に成果を上げてきたが、さらに政府機関は情報技術を以下のような目的のために活用する。

  • 高品質でコスト効率的なヘルスケアへのアクセスの拡大。
  • 親たちが自分たちのコミュニティーの学校のパフォーマンスを、より簡単に評価できるようにする。
  • 人々が、より都合の良い時間、場所、ペースで新しい技能を身につけられるようにする。
  • 21世紀のハイテクの職場に子供たちが適応できるよう、教育と学習のあり方を変える。
  • 人々が物理的に制約のある職場から、どこにでも設置できるバーチャル・オフィスに移れようにする。
  • 音声認識やテキスト・ツー・スピーチなどの技術を通して、障害を持つ人の生活の質を向上させる。


(2)Eコマースの具体的な進展

99年末もオンライン・ショッピングが最大の話題となっており、多くの予測数字が出されているが、一つだけ上げておくとすれば、インターネット・リテーラーの業界団体であるShop.orgの予測で、11月1日から12月31日までの売上高は昨年の3倍の90億ドルに上ると言うもの。(と言っても米国の小売売上高は11月だけでも2,500億ドル(うち約1/4は自動車だが)にも上るので、まだオンライン売上は微々たるものに過ぎないが。)年間全体のB to Cは99年の202億ドルから2004年には1,840億ドルに拡大(99年9月、フォレスター・リサーチ)などという数字があるので、年末への集中は凄まじいものがあり、いろいろな問題点も報告されている。年末にアクセスが集中するサイトは、玩具を初めとするプレゼントに適したものということなので、偏りがあるが、メディア・メトリックスの調べでは12月6日〜12日の週のオンライン・セールス・サイトのビジター数トップ10(一日平均)は、eBayが166万人、アマゾンが139万人、Etoysが41万人、Buy.comが38万人、トイザラスが32万人、バーンズ&ノーブルが30万人、CDNowが26万人、KBKidsが23万人、eGreetingsが19万人、Travelocityが19万人となっている。17日付NYT紙では、アマゾンに頼んだゲーム機が2台のうち1台しか届かなかったとか、トイザラスに頼んだおもちゃが孫の誕生日を過ぎてから在庫切れでしたと言われたとか、いろいろなトラブルが報告されている。これがあまり増幅されてしまわないことを願うものだが、スレショルドはとうに過ぎているので、益々伸びは加速されるのだろう。特に、12月に入ってから、大手ディスカウントのウォルマートがAOLと、KマートがYahoo!と、大手家電のサーキット・シティがAOLと、またこれも大手家電のベスト・バイがmsnと相次いで提携を発表するなどで、オンライン・リテール市場がますます豊かになってきている。小売側はポータル/ISP側のネットワークを通じてプレゼンスを高めることができ、ポータル/ISP側は大手小売店の顧客をネットにひき付けることができると言う双方のメリットによってこれらの提携が進んでいる。しかし、オフライン店舗で大成功したビジネス・モデルそのままで、オンラインに入ってきて成功しているところはないとされており、これらの大小売店も心してかからなければならないだろう。もう一つこの提携で注目されるのは、ウォルマートがISPを低額にし、さらにKマートは無料にしようとしているところである。無料ISPの動きが無料PCに代わって、2000年の話題になりそうである。


B to Bについては、99年の1,140億ドルから2004年には1.5兆ドルに拡大(99年9月、ゴールドマン&サックス)という数字を挙げておくが、見通しは次から次へと上方修正されていくような状況にある。一日数千万ドル以上をネットを通じて売っている企業としては、インテル、デル、シスコなどが上げられるが、これらについて今更説明することもないだろうから、ここでは2000年に注目しようと考えていることを2点挙げておこう。

第1は、XMLのインプリメンテーションの進捗であるが、これは10月号で取り上げたばかりであるので繰り返さないが、12月に開催された「XML'99」というコンファレンスで、XMLをともに推進するマイクロソフトとサンが意見を異にしているなどの報道もあって、目が離せない。Javaのようなことにならなければ良いがと、皆が感じているところであろう。

もう1点が自動車業界のEコマースへの取組みである。11月2日に、GMとフォードが、それぞれプレス発表を行っている。GMはCommerce One(Eコマース・ソリューション専門企業)と組んで「GM TradeXchnage」と呼ぶサプライチェーン・ネットワークを、フォードはオラクルと組んで「AutoXchange」と呼ぶ同様のネットワークを、それぞれ2000年の第1四半期に立ち上げると言うものである。フォードだけでも資材・部品調達費は800億ドルに上ると言うので、インテル、デル、シスコの年間売上高全部を合わせた(約600億ドル)よりも大きな規模である。ビッグ3は、既に98年9月からANX(Automotive Network eXchange)と呼ばれるVPNを用いた部品供給のためのエクストラネットをスタートしており、これとの関係がわかりにくい。12月7日付けでAIAG(Automotive Industry Action Group)はANXをSAIC社(ANXを構築したベルコア社の親会社)に移したが、その発表の中でこれらの関係に触れている。「最近のフォードとGMによるEコマースの発表は、ANXが自動車会社がフル・サービスのサプライチェーン・マネージメント・ソリューションを実現させることに役立っていることを示すものである。」とし、「GMのCommerce Oneとの提携はANXのイノベーションを継続することで強化されるもので、ANXのインフラとサービスがCommerce One のイニシアチブを可能にする。」というGMの発言と、「フォードはANXの最大のサポーターの1社であり続け、ANXサービスをAutoXchangeをサポートするプライマリーのパスとして使うつもりである。」とのフォードの発言を載せている。やはりわかりにくいが、いずれにしても巨大なB to Bネットワークが始動するわけであり、大いに注目したいところである。

 

←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は hasegawah@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.