2000年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国Eコマースにおけるインフォメディアリーの台頭とその影響 -1-


はじめに

 インターネット技術を活用したEコマースの普及により、製造元が直接、消費者に製品を販売することが可能となり、小売店や自動車ディーラー、証券ブローカーなど、従来の仲介業者を介さない「Disintermediation=脱・仲介現象」が起きた。脱・仲介現象の代表例としては、デル・コンピュータが挙げられる。デルは、消費者のニーズに合わせてコンピュータをカスタム製造し、それを直接販売することを始めた。「ダイレクト・セル(Direct Sell)」と呼ばれるこのビジネスモデルは、コンピュータ業界のビジネスのあり方に大きな変革をもたらし、その後、証券業界を含めた他業界にも「デル・モデル」が拡がっていった。1998年頃には、さらなる脱・仲介現象が進むと予想され、アナリストの多くは、金融業界や製造業界における流通形態に大革命が起きると予言していた。

 しかし、1999年に入ると、脱・仲介現象以上に、販売業者と消費者を結ぶ新たな仲介業者の台頭が目立ってきた。「インフォメディアリー(Infomediary)=情報仲介業者」と呼ばれる新型の仲介業者は、売り手と買い手の間に立ち、両者に関する情報を取引する。インフォメディアリーは、インターネット上に氾濫している情報の中から、売り手と買い手が必要としている情報のみを取り出し、それに付加価値をつけて提供する。そのため、今後のEコマース発展の潤滑油として、現在、非常に大きな注目を集めている。

今回は、このインフォメディアリーに焦点を当て、その動向と影響を分析する。まず、インフォメディアリーの定義と種類を紹介し、次に、タイプ別のインフォメディアリーをケーススタディを交えながら紹介する。そして、今後インフォメディアリーがどのように進化するかを展望する。なお本報告は、ワシントン・コア社に委託した調査報告を基に、「Net Worth」(John Hagel著、99年3月、Harvard Business School Press刊)や関連のホームページを参照するなどして作成している。


1. インフォメディアリーの概要

(1)インフォメディアリーとは

 インターネットの登場により、消費者はオンラインでのショッピングや多様な情報の入手が可能となり、販売業者はインターネットを新たなマーケティング手法として活用することで、新規顧客の獲得や顧客の定着率を向上させることが可能となった。このようにして、Eコマースは、商品の種類や個数といった物理的制約を取り除き、いつでもどこでも欲しい商品やサービスを購入できる環境を実現させた。

 Eコマースの爆発的な成長により、インターネット上で製品やサービスを販売するサイトは、目をみはるスピードで増加している。消費者は、何百、何千とあるサイトから、購入したい商品やサービスを選択できることになったが、全てのサイトを自分で検索するのは不可能ともなった。また、販売側は、オンラインでショッピングを行う消費者の行動や情報を把握できないため、効果的なマーケティングを行うことができない。このような状況から、インターネット上で氾濫する情報を整理し、より効率的に取引を行うことが、Eコマースのさらなる発展に不可欠となった。

 こうした中、売り手と買い手が必要としている情報を収集して提供する新型の仲介業者が登場した。「インフォメーション(情報)」と「インターメディアリー(仲介業者)」という言葉が合成されてできた「インフォメディアリー(情報仲介業者)」は、その名の通り、取引に関する情報を売買する新たなビジネスモデルを指す。インフォメディアリーは、売り手と買い手に関する膨大な量のデータを収集・管理し、そのデータを必要とする消費者やベンダーのニーズに合わせて加工、付加価値のついた形で提供する。インフォメディアリーは、情報の流れを明確にすることで、取引の効率性を飛躍的にアップさせる「Eコマースの潤滑油」として、今後のEコマース発展の重要な鍵を握っている。

 インフォメディアリーがEコマースに与える影響は計り知れない。オンラインで取引を行う消費者と販売業者は、インフォメディアリーを通して自分たちのニーズに合った情報を入手し、効果的なショッピング及びマーケティングが行えるようになる。インフォメディアリーと言う言葉は、コンサルティング大手のマッキンゼーのプリンシパルであるジョン・ヘーゲル氏が1996年1月にハーバード・ビジネス・レビューに発表した「The Coming Battle for Customer Information」という論文の中で初めて使っている。その後、同氏が著した「Net Gain : Expanding Markets through Virtual Communities」(97年3月)でそのコンセプトが明確化され、さらに「Net Worth : Shaping Markets when Customers Make the Rules」(99年1月)において、インフォメディアリーの概観から発展、ビジネスへのへのインプリケーションまで、詳細に示している。例えば、インフォメディアリーのもたらす効果として以下のような例が挙げられている。

  • インフォメディアリーの利用により、消費者のコスト削減効果は、1世帯当り約1,100ドルとなる
  • インフォメディアリーの提供する情報を活用することで、企業のダイレクト・マーケティングの平均成功率は、現在の約2%から20%にまで上がる
  • インフォメディアリーの最大手は、サービス開始から10年後には、年間収益400億ドル、時価総額2,000億ドルという規模に成長している

インフォメディアリーの特徴としては、製品・サービスの売買には直接関与せず、サードパーティーとして介在し、売り手や買い手に情報を提供するという点が挙げられる。また、インフォメディアリーには多種多様なビジネスモデルが存在するという点も特徴の1つである。さらに、米国で活躍を始めているインフォメディアリーは、新興のベンチャー企業が大半を占めており、既存の仲介業者や大企業がインフォメディアリーへと進化するといったパターンはあまり見られない。


(2)インフォメディアリーの種類

 インフォメディアリーは、消費者向けEコマース(Business-to-Consumer EC=B-to-C EC)と企業間Eコマース(Business-to-Business EC=B-to-B EC)の両方の分野で存在し、それぞれ異なる役割を担っている(表1を参照)。

  • B-to-Cインフォメディアリー:買い手である消費者と、売り手であるオンライン販売業者の間に立ち、両者が必要とする情報を提供するインフォメディアリー。買い手に提供する情報の種類や、情報の提供先などにより、このタイプのインフォメディアリーはさらに3つのタイプに大別される。
  • B-to-Bインフォメディアリー:売り手企業と買い手企業を1つのサイトに集め、取引が自由に行える環境を作り出すインフォメディアリー。電子マーケットプレイスとも呼ばれる。

 

表1:米国における主要インフォメディアリーの種類  

タイプ

機能

B-to-C
インフォメディアリー
取引に直接参加しないサードパーティーとして、消費者とオンライン販売業者の間に立ち、両者に必要な情報を提供する
買い手サポート型 消費者個人の細かなニーズを把握し、そのニーズに最適と思われる販売業者や製品を推薦する。あらゆる販売業者の製品価格を比較できるサイトもこのタイプに含まれる Autobytel.com
Xolia.com
MySimon.com
売り手サポート型 消費者に関する一般的な情報(住所、性別など)と、オンラインにおける行動や購買パターンといった詳細な情報を収集し、オンライン販売業者に提供する BizRate.com
Lumeria PrivaSeek
B-to-B
インフォメディアリー
特定の業種において、複数の売り手と買い手を1つのサイトに集め、安全な環境で自由に取引を行える環境をサポートする MetalSite
Chemdex
Promedix.com

出典:ワシントン・コアにて作成


2.タイプ別インフォメディアリー

(1)B-to-Cインフォメディアリー

 B-to-Cインフォメディアリーは、買い手である消費者と売り手であるオンライン販売業者の間に立ち、Eコマースをサポートするインフォメディアリーである。B-to-Cインフォメディアリーは、買い手に製品やオンライン販売業者の情報を提供する@買い手サポート型と、売り手に消費者の購買パターンといった情報を提供するA売り手サポート型の2つに大別される(図1を参照)。


出典:ワシントン・コアにて作成


買い手サポート型

買い手サポート型は、買い手である消費者に製品や販売業者関連の情報を提供し、Eコマースをサポートするインフォメディアリーである。このタイプのインフォメディアリーの走りとしてヤフー、AOL、エキサイトなどのポータルサイトを挙げても良いかも知れない。今さら説明するまでもないが、ポータルサイトは、検索サービスに加え、ニュースなどの情報提供サービス、チャットや掲示板などのコミュニティサービス、ブラウザから電子メールを送受信できるウェブメールなどのサービスを一括して提供している。また、販売業者が、バナー広告やショッピングサイトへのリンクを掲載するなど、オンライン・ショッピングの検索サイトとしても大いに活用されている。但し、ポータルサイトは、消費者が購入したい商品やサービスを販売する企業のサイトを多数掲載することで、オンライン・ショッピングをサポートする役割を果たしているとは言うものの、Eコマースシステムの支援という意味では、完全なインフォメディアリーと呼ぶまでには至らない。

しかし、こうしたポータルサイトがさらに進化を遂げ、単なる情報のみではなく、その情報を活用した付加価値サービスを提供する新たなビジネスが登場した。ここに至れば、インフォメディアリーと呼ぶことができる。このタイプのインフォメディアリーは、消費者個人の趣味やニーズに合わせたパーソナルな形で情報を選択・加工した付加価値情報を提供したり、消費者が購入したい製品の価格比較といったサービスを提供する。多数のオンライン販売業者の情報を収集し、消費者のニーズに合わせたパーソナルな情報に加工して提供する際には、通常、消費者個人のニーズを把握するため、特定の質問をし、その回答によって最適と思われる商品やサービスを推薦する。また、これらのインフォメディアリーは、書籍や玩具など、購入までの決定が比較的容易な商品やサービスではなく、金融商品や自動車といった、購入までの決定やプロセスが複雑なリサーチ中心型(Research-intensive)の商品やサービスにおいて多く見られる。また、幅広い種類の商品やサービスをまとめて扱う「広くて浅い」ポータルサイトと異なり、「狭くて深い」パーソナルな情報を提供するため、一定の商品やサービスに特化しているのが特徴である。

 

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