2000年2月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国Eコマースにおけるインフォメディアリーの台頭とその影響 -2-


(ケーススタディ)

@ Autobytel.com(www.autobytel.com

 Autobytel.comは、自動車の売買取引に介在し、買い手が必要とする情報を提供するインフォメディアリーである。同社は1995年、ピーター・エリス氏とジョン・ベドロシアン氏によって設立された。エリス氏は、南カリフォルニアで自動車のディーラー業を営んでいたが、1990年代における自動車不況のあおりを受け、廃業となった。同氏は、当時の経験を活かし、別の角度から自動車の販売を試みることを決心した。創設当初から大きな注目を集めたAutobytel.comは、インターネット関連のベンチャー企業への投資に旺盛な大企業からの資金援助を得ることができた。例えば、ゼネラル・エレクトリック、GEキャピタル・サービシズ、自動車保険大手のAIG(American International Group)といった大企業に加え、ワーナーミュージック・グループ元社長であるマイケル・フクス氏(同氏は現在、Autobytel.comの会長を務めている)から投資を受け、着実に成長していった。

 消費者は、Autobytel.comのサイトを訪れると、車の仕様、評価、ディーラーの価格といった情報を検索し、購入したい車種を決定する。購入オプションとしては、新車、中古車、リースの3形態が選べ、購入希望書及びリース申込書を提出する。購入希望書は、Autobytelとパートナーシップを結んでいる3,000を超えるディーラーの中で、消費者の地元にあるディーラーへと送られ、その後24時間以内にはディーラーから直接連絡が来る。

 消費者はさらに、自動車保険や自動車ローンの比較を行うこともでき、複数の保険会社やローン会社に同時に見積りのリクエストを出し、最適なオファーを選ぶこともできる。また、自動車関連サービスを提供する「Services.autobytel.com」に登録すると、新サービスの通知、修理工場への予約、リコール製品に関する情報の入手など、パーソナルなサービスを受けることができる。

 同社の収入源としては、まず、広告収入が挙げられる。日々、何万人にものぼる潜在購入者が訪れる同社のサイトは、格好の広告媒体であり、自動車保険会社や車の展示ショーなどに関する広告が至るところに掲載されている。また、ディーラーによって支払われる毎月の手数料(500〜7,500ドル)も、重要な収入源の1つである。

 95年3月の創設以来、Autobytel.comを通してディーラーに購入希望を提出した消費者は400万人に上り、同サイトと契約しているディーラーを通しての毎月の売上台数は5万台、売上総額は12億ドルを超える。

 Autobytel.comの登場は、自動車購入に関する従来の通念を大きくくつがえした。自動車の購入に際し、必要となる情報を全て1箇所に集め、消費者に提供するというAutobytel.comのモデルは、インフォメディアリーの代表として大きな注目を集めた。その後、Autoweb.comやCarsDirect.comなど、Autobytel.comのモデルにならって自動車関連情報を提供したり、サイトから直接自動車を販売するサイトが次々と誕生した。しかし、自動車売買のインフォメディアリーの第1人者であるAutobytel.comは、マスコミや投資家から脚光を浴びたことで、最も知名度が高く、オンライン自動車サイトの「ブランド名」となっている。これは、新しい事業機会を逸早くとらえ、実績や知名度を確立した企業が圧倒的に強いという、Eコマースの「一番のりの強み」を如実に表わしている。


A Xolia.com(www.xolia.com

 Xolia.comは、オンライン証券取引に関心がある消費者に対し、売り手であるブローカーに関する情報を提供するインフォメディアリーである。オンライン証券取引は、eトレードの登場が火付け役となり、急速に普及している。従来の証券会社大手も次々とオンライン市場に参入を果たしており、現存するオンライン専門の証券ブローカーの数は数10社を超える。Xolia.comは、これらブローカーの情報と消費者の情報を組み合わせることで、オンライン証券取引の成立をサポートする。

 Xolia.comは、1998年にイリノイ州オークブルック市に創設された新興企業である。同社のCEOで創設者でもあるアナス・オズマン氏は、アンダーセン・コンサルティングでITコンサルタントとしての経験を積んだのち、独立し、Eコマースを専門とするITコンサルティング会社「バーサタイル・テクノロジーズ・グループ」を設立するなど、インターネットやEコマースに関する知識と経験を豊富に持つ人物である。エンジェル投資家から25万ドルを集め、Xolia.comを設立したオズマン氏は「2002年までに、オンライン証券取引の口座数は2,470万にまで膨れ上がると言われている。オンライン証券取引の成長において、我が社がこれから担う役割は非常に重要なものとなるであろう」と述べている。

 Xolia.comのサービスは3つに大別される。「DecisionMaker」は、個々の利用者(買い手)のニーズに最適なオンラインブローカーを推薦するサービスである。オンライン証券取引を行ったことのない、また、現在利用しているオンラインブローカーを替えたいという消費者は、DecisionMakerの中の質問に答え、ブローカーに求める条件などを入力する。するとDecisionMakerが、その要望に合ったブローカーを選んでくれる。また、「Broker Profiles」は、大手オンラインブローカーの情報や統計を集めた一大データベースであり、取引形態のオプション、手数料の一覧表、業界での格付けといった情報を検索できる。さらに、複数のブローカーの中でどこを選ぶか迷っている消費者は、「Comparison Tool」と呼ばれる比較ツールを利用し、一度に最大3社のブローカーに関する詳細な情報を見比べることができる。Xolia.comの収入源は、広告収入とブローカーから徴収する手数料の2つが主要なものとして挙げられる。

 Xolia.comは、創設してまだ間もなく、社員数も7人と非常に小規模ではあるものの、オンライン証券取引におけるインフォメディアリーとしては第1号であり、急成長している-オンライン証券取引に逸早く目を付けた先鞭性が買われ、99年夏にビジネスウィークやシカゴトリビューンといった有名雑誌・新聞等で取り上げられている。未だ、成功が約束されたビジネスとはなっていないが、今後、Xolia.comに続く、同タイプのインフォメディアリーが続々と登場するのは間違いない。


BmySimon.com(www.mySimon.com

 買い手である消費者に、製品などの情報を提供する買い手サポート型のインフォメディアリーには、多数のサイトで販売されている同一製品の価格比較を行うタイプもある。こうした製品比較タイプのサイトでは最大級を誇るmySimon.comは、コンピュータ、書籍、CD、電気製品、衣服、生花、スポーツ用品など、14に上るカテゴリーにおける、2,000を超えるサイトの製品に関する情報をカバーしている。利用者が購入したい製品やサービスを選択すると、最新の人工知能技術を駆使した検索エンジンが、多数のウェブサイトを自動的に検索し、価格や配達期日などの情報を表示する。

 mySimon.comは、マイケル・ヤン氏とイオギル・ユン氏によって、1998年4月に設立された。ヤン氏は、ゼロックスやインターグラフといったハイテク企業において、ビジネス開発やマーケティングの役職を歴任し、ウェブソフトウェアの開発会社の社長を務めるなど、インターネットに関する優れた知識とビジネス経験を持っていた。一方、ユン氏は、スタンフォード大学でコンピュータ・サイエンスの博士号を取得、在学中に開発した人工知能技術「Virtual Learning Agent(VLA)」の商用化を目指していた。こうした2人がお互いの強みを活かし、その結果、MySimon.comが誕生したのである。

 mySimon.comのような製品比較サイトは、多数存在する。代表的なサイトとしては、アマゾン・ドット・コムの傘下にある「ジャングリー(Junglee)」、エクサイト社の持つ「ネットボット・ジャンゴ(Netbot/Jango)」などが挙げられる。これらのサイトは、1日に1回、多数のショッピングサイトを訪れて情報を収集し、それらの情報をデータベースにまとめて保管している。しかし、mySimon.comは、ショッピングサイトだけでなく、オークションや新聞広告を含めたサイトをリアルタイムで検索する。そのため、消費者は、常に最新の製品情報を閲覧することができる。

mySimon.comの収入源としては、@自社が開発したVLA技術ポータルや他のショッピングサービスにライセンスし、これらの企業から徴収するライセンス料、A広告収入、スポンサーシップ、BMySimon.comが提携しているショッピングサイトから徴収する手数料--の3つが挙げられる。

なお、2000年1月20日、mySimon.com はITニュース大手のCNETにより、7億ドル相当の株式交換方式で買収されると発表している。


売り手サポート型

売り手サポート型のインフォメディアリーは、買い手である消費者に情報を提供する買い手サポート型とは対照的に、売り手であるオンライン販売業者に、買い手に関する情報を提供する(図1を参照)。具体的には、消費者のオンライン・ショッピングに関する経験や購買パターンといった詳細な情報に始まり、販売業者の顧客ターゲット層に関する一般的な情報に至るまでを収集し、販売業者のニーズに合った形で加工して提供する。

もう一つ、大変ユニークな(日本ではすぐには考えにくい)タイプのインフォメディアリーが生まれている。それは個人のプライバシー情報を個人に代わって管理し、個人の要請に基づいてオンライン販売業者などに情報を提供すると言うもので、売り手サポート型の一種ではあるが、個人にとっても自らのオンライン・プライバシーの管理というサービスが提供されると言うものである。これについては、3.で後述する。


(ケーススタディ

@ BizRate.com(www.bizrate.com

 BizRate.comは、オンライン販売業者に消費者情報を提供するインフォメディアリーの代表的存在である。自らを「eビジネスの格付けサイト」と位置付けるBizRateは、オンラインでのショッピングを体験した消費者からのフィードバックを集め、それぞれのサイトの格付けを行っている。BizRate.comが持つデータベースには、50万人(オンラインショッピングを行う消費者全体の58%に相当するとしている)を超える消費者のアンケート調査結果が保管されており、消費者は無料でこのデータベースにアクセスできる。

 BizRate.comのビジネスモデルは、同社の創設者でCEOのファード・モヒット氏が、ペンシルバニア大学のビジネススクール在学中に書いた論文が基となっている。「オンライン販売業者の信頼性を格付けする最良の方法は何か」という質問に対して出された答えがBizrate.comである。1996年に設立されたBizrate.comは、ハンブレヒト・アンド・クイスト(現在、チェース・マンハッタン銀行の傘下にある)、メディア・テクノロジー・ベンチャーズといった大手ベンチャーキャピタルから、総額2,450万ドルに上る資金を獲得している。

 消費者は、BizRate.comの「Rapid Report」及び「Category Search」機能を利用して、サイトや製品に関する情報を入手できる。「Rapid Report」は、2,700を超えるオンラインショッピングサイトの格付けが細かく掲載されている。例えば、CDを購入したい消費者は、音楽のカテゴリーを選ぶとCD販売のサイトがリストアップされ、価格、製品の豊富さ、カスタマーサポート、注文のし易さ、プライバシーに関するポリシー、配達期日の遵守といったポイント別の格付け、及び全体の格付けを見ることができる。

 オンラインのショッピングサイトに関する知識がない消費者は、「Category Search」に行き、求めている商品を入力する。そうすると、価格、配達期間、全体的格付けなどに基づき、ランクの高いサイトの商品からリストアップされる。

 BizRate.comのビジネスモデルは非常にユニークである。BizRate.comに参加しているショッピングサイトは、サイトへの掲載料をBizRateに支払う。BizRateは、同サイトを通して買い物をした消費者に、リベートという形でそのコミッションを還元する。消費者は、買い物をした後に、ショッピングサイトの使い易さなどに関するアンケートに答える機会が与えられる。買い物をする度に、最高25%のリベートがもらえるため、消費者がBizRateを利用して買い物をする、ひいてはアンケートに答えるインセンティブが創り出される。

 BizRate.comの収入源は、@消費者のアンケート結果に基づいた市場調査レポートの販売、A消費者に還元されるリベート小切手の処理手数料(毎回3ドル)の2つである。BizRate.comは、独自の需要予測モデルを活用した調査レポートや、カスタム化されたレポートの作成なども手がけている一方、消費者の個人情報の貸与や販売は行っていない。

 BizRate.comは、消費者とオンラインベンダーの両方に有益なサービスを提供するサイトとして人気を集めている。しかし一方で、このような格付けサイトの事業継続性を疑問視する声も挙がっている。調査会社大手、ギガ・インフォメーションのアナリストであるアンドリュー・バーテル氏は「消費者に無料で情報を提供するというビジネスモデルで、安定した収益が得られるとは思えない。こうしたサイトは、いずれ、ポータルなどに買収される運命にある。」と予測している。今後の動向が注目されるところである。

 

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