2000年5月  JEIDA駐在員・・・長谷川英一

米国の東北部におけるIT産業集積の動向 -3-


3.ボストンのルート128号線沿い

続いてボストン地区を取り上げてみよう。ボストンのメトロ地域と128号線沿いというのはシリコンバレーと並んで70年代から80年代にかけて最も発展したハイテクセンターであった。デジタル・エクイップメントやワング・ラボラトリーズといったミニコンメーカーやレイセオンを代表とする防衛企業などが、国防総省からの受託プロジェクトとMIT等の大学の技術力をバックにマサチューセッツ・ミラクルなどと言われるほどの隆盛を極めた。それが、80年代半ばから90年代初めにかけての不況と国防費の大幅削減によって大打撃を受け、それを乗り切ったシリコンバレーとは明暗を成すことになってしまった。


(地域の特徴)

ボストンのルート128号線

既存の産業

 

インターネットセグメント

  • ハードウェア業界
  • ソフトウェア業界
  • 研究
  • ベンチャーキャピタル
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  • ソフトウェア・ソリューション
Sitara Networks
  • イネイブリング・テクノロジー
Nexabit
  • コンテンツ・サービス
Lycos


  しかし、元々、以下のような高いポテンシャルを有する地域のこと、ニュー・エコノミーの到来とともに、ルート128号線は復活を始めた。
  • MITやハーバード以外に、63大学がボストン近郊にあるなど、研究リソースが極めて充実している。

  • ルート128号線沿いに、エンジニアやハイテク技術者の蓄積があった。

  • ベンチャー・キャピタル投資率が全米第2となっている。

  • 現在も連邦の研究開発費が人口比当たり最も多く投じられている。
 復活の様子は、従来のように特定の産業セクターに依存するのではなく、より幅広い分野で,最新の通信サービスや熟練技術者を求めるような新企業が形成されているという点に特徴がある。中でも、アルタビスタやライコスのようなインターネット企業やEコマースマース・ツールの提供企業など、全米を代表するワイヤード都市の機能を遺憾なく発揮するような企業が形成され、またインターネットの中心的団体である World Wide Web Consortiumも、マサチューセッツを本拠としている。


(発展の状況)
マサチューセッツはIT企業、特にソフトウェア企業、Eコマース関連企業、そして通信分野の企業の集積が際立っている。

ソフトウェア企業は、マサチューセッツ・ソフトウェア・カウンシル(www.swcouncil.org)によれば1989年の800社から1998年には2,751社に上り、13.8万人を雇用している。さらに99年には200社以上が新規に立ち上がり、年間の売上は105億ドルを超えている。

Eコマース関連企業については、99年にマサチューセッツ・テクノロジー・コラボレイティブが行った調査に詳しいが、98年の段階で491社のEコマース企業が18,567人を雇用している。この調査ではEコマース企業を次の5つのセグメントに分けているが、ボストンはこのうちのE-Tech企業が全体の44%で、12,000以上の雇用を要している。続いてEコマース・サービスで29%で、2,300人を雇用。

各セグメント 説明
E-Tail オンライン小売セールスが中心の分野
E-Business 企業間(B2B)活動が中心の分野
E-Intranet ERPといった企業内リソース管理が中心の分野
E-Tech E-コマースを支えるソフトやインフラ等が中心の分野
E-Commerce Services ウェッブ活動をサポートするビジネス・サービスが中心の分野


マサチューセッツは、通信産業も全米で人口当たりの集積度が最も高く、年間440億ドルの売上を達成している。この地域の新たな求人の5人に1人は通信関連である。

マサチューセッツにおけるインターネット関連のベンチャー・キャピタル投資は全米ではカリフォルニアに次いで第2位である。IPOでも成功しており、例えばアカマイやシカモア・ネットワークスなどの企業は、130〜140億ドルというマーケット価値を創出している。99年のベンチャー・キャピタルのマサチューセッツへの投資額は37億ドル、カリフォルニアに次ぎ、全米の10%のシェアとなっている。Eコマース企業へのベンチャー投資数でも、図に示すように、カリフォルニアについで第2位で、NYがそれに続く。







もう一つ、マサチューセッツは連邦政府からのR&D投資の大学や非営利研究機関での利用が際立って高い。人口1人当たりでの額では288ドルと、第2位以下の2〜3倍以上となっている。連邦政府R&D資金は民間のR&D投資に波及を与えるのはもちろんのこと、この地域の最先端技術へのコミットを明確に示すものとなっている。



(最近のイニシアチブ)
マサチューセッツの産業振興を支えているのは、州の機関である「Massachusetts Office of Business Development」(www.state.ma.us/mobd/mobdhome.htm)などが中心であり、以下にまとめるようなイニシアチブを実施している。

州政府によるイニシアティッブ

イニシアティッブ 概要
「. commonwealth」計画 州のデジタルエコノミーを促進させる為にMassachusetts Technology Collaborativeやその他のIT業専門団体、政府機関を設立した。
インターネットの消費税 インターネットサービス及びアクセスに課された5%の消費税が廃止された。
Emerging Technology促進 Emerging Technology Fundという最新技術をサポートする基金が設立された。
企業内投資促進 設備に投資する企業に対して3%事業税の減税が提供される。
R&D関連費用のクレジット R&D投資を行った企業に対して10~15%の事業税カットが提供される。
Economic Opportunity Area 特定地域で事業を行っている企業に対して、土地税の低減、投資インセンティブの提供、キャピタル供与の優先扱い、その他のインセンティブを実施している。
事業高コスト対策 光熱費を下げる為にエネルギー市場の規制緩和を行った。
事業税の改革 好ビジネス環境を作るために事業税を28回も低減した 。

また、別に「Massachusetts Technology Collaborative(MTC)」(www.mtpc.org/about/about.htm#)では、州のイノベーションを振興するための各種調査活動などを実施している。

また、ボストン市のレベルでも、市におけるビジネス・オポチュニティを支援するために「Boston Office of Business Development」(www.ci.boston.ma.us/dnd/obd/1_Business_Dev.asp)を98年6月に設立している。同オフィスにおいて、Venture Capital Forumと言ったイベントを開催するなど、各種支援策を実施している。

もう一つ、ベンチャー起業支援と言うことでこの地域で忘れてはならないのが、MITの各種プログラムである。その中心的な組織が「MIT Entrepreneurship Center 」(entrepreneurship.mit.edu/index.html)で、ハイテク・ベンチャーの管理者を訓練してその能力を向上させることがその中心的な目的である。このセンターの支援で行われている各種コンペなどから、実際に多くの起業が起こっている。
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