2000年6月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国における電子政府構築の動向


はじめに

 昨年の12月に、クリントン大統領は電子政府実現の加速のためのメモ(後述)を各省庁宛てに発出している。Y2Kの直前でもあって、その時点では各省庁に余裕もなかったのか、あまり話題に上らなかったが、ゴア次期大統領候補にとっても、副大統領として2000年内に相当程度の成果を上げることは不可欠のことでもあり、ここのところぐっと力が入ってきたように見える。様々な連邦政府のポータルができ、Government Computer News(http://www.gcn.com)とか、Federal Computer Week(http://www.fcw.com)などの業界誌(そういう業界誌がいくつもあるところがさすがですが)には、次から次へと新しいニュースが登場する。また、議会もY2Kの次はe-Govと言うことで、いろいろと公聴会などが開かれつつある。  

 日本でもミレニアム・プロジェクトとして電子政府の本格的な展開が始まったと承知しているが、今回は米国における電子政府構築の動向について述べて見たい。材料としては、本文に示した政府のポータルを見るだけでも山のようにあり、それに業界誌などから新しいニュースを付け加えた。いつも調査をお願いしているワシントン・コアとワシントン日米からも貴重なサジェスチョンをもらっている。



1. 電子政府の経緯

(1) 電子政府の経緯

 電子政府推進の経緯については、99年8月の「米国における電子署名に関する政策動向」において少し触れたところではあるが、もう一度簡単におさらいしてみよう。電子政府という考え方は、クリントン政権による「全米情報インフラストラクチャー(NII)」構想からスタートしている。NIIのアジェンダの一つに「インターネットによる政府情報へのアクセス提供」と言うものがあり、情報技術による政府のリエンジニアリングを目指している。ゴア副大統領は93年9月に自らの行政改革イニシアチブである「国家業績審査(National Performance Review = NPR)」に「Reengineering Through Information Technology」というビジョンを作らせ、この実施のため同年12月に、連邦政府機関の代表からなる「政府情報技術サービス(Government Information Technology Services = GITS)ワーキング・グループ」(http://gits.gov)を設置した。  

 その後、96年6月にGITSは政府リエンジニアリングに関する1200とも言われたアクション項目の中間的な達成状況報告を出し、同年7月には大統領令によりGITSはワーキンググループからボードに格上げされ、毎月ボード・ミーティングが開かれるようになった。 そのGITSが新たな目標として掲げ直したものが97年2月、ゴア副大統領によって発表された「Access America Report」(http://www.accessamerica.gov/docs/access.html)である。一言で言えば、2000年までに政府の主要なサービスにはインターネットからアクセスできるようにするとの目標を、一つ一つのサービス項目を挙げながら説明したものである。その目標については、その目次を見れば一目瞭然なので、ここでは説明無しでそれのみを掲げておく。

ELECTRONIC GOVERNMENT - "SERVING THE PUBLIC ON ITS TERMS"
A01: Improve The Public's Access To Government Services
A02: Implement Nationwide, Integrated Electronic Benefits Transfer
A03: Provide All Federal Payments Using Electronic Funds Transfer By 1999
A04: Bring Environmental Information To The Public
A05: Build An Electronic Environment, Safety, And Health Assistance Resource For Business
A06: Establish The Intergovernmental Wireless Public Safety Network
A07: Address The Information Technology Needs Of Our Nation's Criminal Justice Community
A08: Provide Simplified Employer Tax Filing And Reporting
A09: Support International Trade With Better Data, Available Faster
A10: Create Electronic Export Assistance Centers
A11: Use Electronic Commerce To Streamline Government Business Processes
A12: Expand The Intergovernmental Information Enterprise
A13: Improve The Sharing Of Information Technology Experience Worldwide

SUPPORT MECHANISMS - "THE TOOLS TO OPERATE AN ELECTRONIC GOVERNMENT
" A14: Guarantee Privacy And Security
A15: Integrate The Government Services Information Infrastructure
A16: Improve Information Technology Acquisition
A17: Increase The Productivity Of Federal Employees
A18: Enhance Information Technology Learning

これらのイニシアチブが基本となって、現在もその努力が続けられているが、最近時点におけるホワイトハウスからの電子政府推進の指示としては、12月17日に発表されたEコマース・ワーキング・グループ(議長:デビッド・ベイヤー副大統領主席内政顧問)がまとめた「Towards Digital eQuality」と、それに併せて出されたメモランダムがある。

 「Towards Digital eQuality」(http://www.doc.gov/ecommerce/ecomrce.pdf)については、2000年1月の本駐在員報告に概要を掲げたことろであるが、97年7月のクリントン大統領の「グローバル・エレクトロニック・コマースのフレームワーク」以降、98年11月の第1回年次報告に続く、第2回報告という位置付けのものである。フレームワークの進捗状況と、第1回年次報告で示した新たな課題(ブロードバンド、消費者保護、途上国、経済的インパクト、中小企業の5つ)の達成状況、そして次の新課題の設定などがまとめられている。その新たな課題として設定されているのが、@デジタル・オポチュニティー、Aエレクトロニック・ガバメント、BEソサエティーという3つのイニシアチブである。このうちのAについて記述されているのは以下の通りの簡単な内容である。  

 電子政府: 米国政府はITの活用によって、国民が政府のサービスに、よりアクセスし易いようにするとし、その具体的な努力の例としては以下を含む。

  • 納税者が納税申告書をインターネットからダウンロードし、内国歳入庁に電子的に申告できるようにしており、昨年は納税者の10%(2,460万人)がこれを利用。
  • 市民は連邦の求人案内を、また雇用主は大量の履歴書を、電子的に閲覧できる。
  • 教育省の奨学金の手続きは98〜99年に672,728件の申請を電子的に処理した。
  • 消費者は飲料水や大気の汚染、毒物の流出、有害廃棄物などに係る地域の環境情報にアクセスできる。
  • 1億人以上の市民が2000年のセンサスのフォームにアクセスできるようになる。
  • Peace Corps(平和部隊)ボランティアへの応募がオンラインでできる。

 以上の例に見るように米連邦政府はデジタルエイジに向かって大きなステップをとってきたが、まだやるべきことは多く、Eコマース・ワーキング・グループとして以下について努力する。

  • 市民が政府情報全体にユニバーサルに触れることのできるようなワンストップ・アクセスを実現する。
  • 政府調達におけるEコマースの活用増大により、納税を節約する。
  • 政府が技術をより活用することで、リーダーシップを示す。
  • 市民がオンラインで政府職員により広くアクセスすることを認める。
  • 連邦政府が広くデジタル署名技術を用い、安全な通信手段を提供する。

 この報告書と併せ、同日に出されたクリントン大統領から各省庁の長に宛てたメモランダムは、もう少し詳しく2000年末までの目標を示している。それを仮訳すると以下の通りである。

「各省庁の長へのメモ:電子政府について」 99年12月17日 ホワイトハウス
 政府はこれまでもオンラインに情報の富を築いてきたが、未だに連邦サービスに関してはつまらないペーパーワークが残っている。各省庁はそれぞれのウェブサイトの中で「ワンストップ・ショッピング」アクセスができるようにしてきているが省庁を統一したものでないため、そもそもどこの省庁が受けたいサービスを提供しているのかも知らないような通常の市民にとっては、あまり親切なものとは言えない。市民のニーズに合ったように、省庁毎でなく、情報やサービスのカテゴリー毎に政府の情報を提供しようと言うような努力は十分ではなかった。その上、市民の意識やインターネット利用が高まるに連れ、政府とのオンラインでのトランザクションや、政府の情報やサービスへの簡易で標準化された方法でのアクセスなどが、ますます重要になってきている。同時に、市民が政府とのコミュニケーションが安全でプライバシーも守られているということに信頼をおけるようにしなければならない。 それゆえに、既存の政府情報やサービスに市民がワンストップでアクセスできるようにするため、また政府のサービスや政府の市民への責任の高まりに、より良く効率的に対応できるようにするため、私はこのメモにおいて関係省庁に対して、必要に応じて民間とも協力しつつ、以下のような行動をとるように指示する。

  1. 総合サービス庁(General Service Administration = GSA)の長官は、NPR、CIO協議会、GITSやその他の省庁と調整の上、省庁毎ではなく、市民が探しているサービスや情報の種類毎にまとめた政府情報にアクセスできるように振興する。それらのデータは、市民が見つけ易いように識別されて括られる必要がある。

  2. 各省庁の長は、市民に使われている政府サービスのトップ500項目に関して、2000年12月までに、できる限りそのフォームをオンラインで提供できるようにする。「Government Paperwork Elimination Act」では、政府のサービスの処理に係るトランザクションは2003年までにオンライン化を実現することになっている。この目標を達成するために、行政管理予算局(OMB)の長官は、トランザクションをオンライン化するための各省庁の責任ある戦略の開発を監督する。

  3. 各省庁の長は、Eコマースの利用を推進し、連邦調達において早くて安い注文をすることで、納税者の税を節約する。

  4. 各省庁の長は、そのウェブサイトに、OMBの指示に従ってプライバシー・ポリシーを掲げるとともに、子供向けのウェブサイトには、子供の情報を保護するための情報ポリシーの適用を進めることで、良好なプライバシー・プラクティスを確立することを継続する。

  5. 各省庁の長は、その職員に公共の電子メール・アドレスを与えて広いアクセスを認め、それを通して、市民が各省庁に接触し、質問やコメント、関心などを表明できるようにする。さらに。連邦のウェブサイトに障害者がアクセスできるようにする。

  6. NSFの長官は、関係する連邦機関と協力し、オンライン投票のフィージビリティについて、1年間のスタディを実施する。

  7. 厚生省、教育省、退役軍人省、農務省、社会保障庁、連邦緊急管理庁の各長は、市民にアシスタンスを提供している関係省庁とも協力して、インターネットを通じて市民がプライバシーが守られ安全に広範なサービスの恩恵を受けられるようにする。

  8. GSA長官は、財務長官、商務長官、GITSボード、NPR等と協力して、他の省庁が、公開鍵技術を用いて、プライバシーが保護されて安全かつ効果的な省庁間や市民とのコミュニケーション手段を確立することを支援する。この目標に照らし、各省庁はGSAの協力の下、2000年12月までに少なくとも10万のデジタル証明書を発行する。

  9. 各省庁の長はそれぞれの省庁におけるインターネット利用を、よりオープンで効率的かつ応答性を良くするとともに、それぞれの省庁のミッションをより効率的に達成すべく、その能力向上のための戦略を開発する。少なくともその戦略は以下を含む。

    a) 幹部を含む職員のトレーニングの拡大
    b) 先進的な公共や民間セクターの採用したベスト・プラクティスの発見と適用
    c) 新しい先進的な省庁のインターネット・アプリケーションを提案できる人材の評価
    d) 先進的アプリケーションの実験のための研究機関とのパートナーシップ
    e) 省庁のインターネット利用に係る省庁のステークホルダーからのインプットを集めるメカニズム

  10. このメモの1)から8)と、97年7月1日、98年11月30日付けのメモは、承認予算額や各省庁の優先順位や予算額との整合性などに従い、法律の許す範囲で実施する。
    11) 副大統領は引続き米国政府のEコマース戦略との調整の下、リーダーシップを発揮する。さらに、各省庁の長は大統領と副大統領に対し、このメモの達成状況について、EコマースWGの年次報告を通して、報告する。




(2) 現在の電子政府推進の体制

 電子政府の推進は、上述のようにゴア副大統領をヘッドとして、NPRやGITSの主導の下に、各省庁が進めてきているということであるが、やや詳しく見てみよう。

 まず、「国家業績審査(National Performance Review)」であるが、98年に「National Partnership for Reinventing Government 」(http://www.npr.gov)に名称を変えて(略称はNPRのまま変らず)、GSAに間借りをし、各省庁からの出向者から成る組織とは言うものの、より独立性の高い機関となっている。職員は各省庁などから3ヶ月〜1年程出向してきて、アクセス・アメリカを初めとする、後述のような横断的な政府サービスの改革の立案に従事し、各省庁に戻って、実際にそれを推進するという役割を果たしている。人員はダイレクトリーで見ると100名程度のようである。改めてその使命を掲げると、「In time for the 21st century, reinvent government to work better, cost less, and get results Americans care about. 」と言うことになっており、設立後7年間の成果として、定量的には以下のような点を挙げている。

  • NPRの成果として政府支出が7年で1,360億ドル節減できた。
  • 政府調達の改革のみで120億ドルが節減できた。
  • 1,200件のハンマー賞が大胆な改革と370億ドルの節減に対して与えられた。(このハンマー賞と言うのは、自分の勤める省庁の改革にハンマーを振るった連邦職員にゴア副大統領が本物のハンマー(6ドル相当)と賞状を与えて賛えると言うもの。どこかの国は逆が密かに賛えられたりしていないだろうか?)
  • 93年以来、連邦職員の17%に当たる約38万人が削減できた。等々

 本稿は行革に焦点を当てようとするものではないので、この辺で止めておくが、一つの政権が7年間も一貫して続けていると、かなりの成果が上がるもののようである。

 さて、NPRと並ぶ、もう一つの主導役であった、GITSボードは、この4月にCIO協議会(Chief Information Officers Council)(http://www.cio.gov)に吸収されることになった。これは、アクセス・アメリカの目標の中でGITSが責任を持って進めてきたプロジェクトが相当程度終結してきたこと、中でも最近の活動の相当部分を占めていた連邦PKI(Federal Public Key Infrastructure)が後述するように実用段階に入ってきたことなどにより、プロジェクト全体をCIO協議会に移せると判断したためのようである。CIO協議会の方でも、内部委員会の改変を行って電子政府委員会を設置し、これをGITSプロジェクトの受け皿としている。新委員会は、連邦PKI運営委員会をその傘下に入れることになり、各省庁がデジタル認証をシェアし、オンライン取引を拡大すべくパイロット計画を推進していくとしている。電子政府委員会の当面のゴールは以下のように設定されている。

  • WebGovプロジェクトを支援し、連邦および州のウェブサイトを横断的に見たり感じたりできるようにする
  • 連邦、州、地方政府の上位1,000ウェブサイトのヒット数の年間データを公表する
  • 政府から市民がオンラインで買うことができるものの数を増やす
  • 重要な機能についてワンストップ・ショッピング・ポータルに統合する
  • 連邦、州、地方政府の公共安全機関とともに、2002年のソルトレーク・シティーの冬季オリンピック期間に、インターオペラブルなコミュニケーションを開発する
 

 蛇足だが、この4月6日のGITSボード最終回のミニッツ(http://www.gits.gov/text/mtgn0400.html)を読むと、グレッグ・ウッズ議長(教育省)がゴア副大統領からのGITSへの感謝状を読み上げる様子やメンバーにライフロングのフレンドシップを感謝する様子、GITSボードのプロジェクトを責任を持ってCIOに引き継いでいくという決議をする様子などが生き生きと表されている。ボードというものはこのくらい真剣でなければならないと思うし、公開するミニッツもこのように立派なものでなければならないとつくづく思うところである。





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