2000年6月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国における電子政府構築の動向


2. 具体的な電子政府の進捗

  具体的な電子政府の進捗状況を大まかに見てみよう。アクセス・アメリカに挙げられているA01〜A18までのどのアクションアイテムが完了したかと言う見方がありそうなものだが、さらにブレークダウンされたアクションアイテム120項目のうち、期限が切られているものは遅いものでも2000年1月までとなっており、それらは完了していることになる。例えばA01の「政府サービスへの公共のアクセスを増大」の中のA01.3の「公共がITにアクセスできる拠点の増大」などというアクションアイテムは程度の問題であって、期限も切られていないことから、なかなかこのアクションアイテムをもって、進捗状況を図るのは難しいことになる。

 言い訳をしていても仕方がないので、具体的に何が電子化されたのかという例を見ていくことにしよう。それには、連邦政府の各機能毎に電子化を進めていくと言う動きと、ワンストップ・ショッピングを目指して、ポータルにまとめていこうとする動きの両方を見る必要があるだろう。


(1) 政府の機能毎の電子化

 電子政府に期待されている役割としては、まず、@ウェブを通じた情報の収集と提供、A文書のファイリングと処理の電子化、Bウェブを通じた補助金などの公募と配布、C政府調達や政府証券などのEコマース化、Dイントラ/インター・ガバメントのネットワーク化、の5つを挙げることができるだろう。それぞれについて、具体的に達成されている例を拾ってみよう。

1. 情報の収集と提供

  • International Trade Data System(ITDS)
    http://www.itds.treas.gov/ITDS/Frames/Build_Frames.cfm?Site=ITDS

    上述のアクセス・アメリカのA09に掲げられている目標で、米国の国際貿易に係る手続きを簡素化・電子化し、貿易業者と政府双方の便益を高めようというもの。現在、ニューヨーク州のバッファローをトラックで通過する米加の貿易などをパイロット・プロジェクトとしてインプリメントを進めているところ。

  • Hazard Awareness Advisor(http://www.osha-slc.gov/dts/osta/oshasoft/hazexp.html
    労働省の労働安全保健局が99年9月にリリースしたエクスパート・システムで、民間企業が無料でダウンロードでき、職場における様々な危険に対処する方策や関連法規等について、企業が学ぶことができると言うもの。


2. 文書のファイリングと処理

  • Automated Export System Direct(http://www.aesdirect.gov
    99年10月に商務省センサス局がスタートした、インターネットによる輸出申請書のファイリングシステム。

  • FCC Electronic Filing Systems (http://www.fcc.gov/e-file) FCC(連邦通信委員会)が通信業者に要請する各種のライセンスの申請や届け出、さらには電話が通じないなどの苦情の受け付けまでをもオンラインで受け付けるシステム。


3. 補助金などの公募と配布

  • NSF FastLane(https://www.fastlane.nsf.gov
    研究補助金の申請に加えて、交付のためのピア・レビューから交付決定、進捗度情報、補助金送金までをオンライン化したシステム。96年頃から運用が開始され、98年度ですでに約2割の申請が、このシステムを通じて行われた。

  • Home Loan Guaranty VA Assignment Systems (http://vaas.vba.va.gov) 退役軍人が家を建てるためのローンを借りる際に、貸し手側が退役軍人省からの保証を得るためのインターネット・ベースの割り当てシステムで、99年7月から稼動。


4. Eコマース



5. イントラ/インターガバメントのネットワーク

  • Interagency Research Partnership for Infectious Diseases(IntRePID)
    伝染病の発生などの情報を政府間で交換し、流行を防止するための早期警戒システム。
  • Advance Law Enforcement and Response Technology
    司法省、連邦高速道路局、財務省、バージニア州が共同して行っているパイロット・プロジェクトで、連邦と地方の取締り当局や医療、緊急対応要員などを結ぶモバイル・コミュニケーション・コントロール・ネットワークの構築。




(2) 政府のポータル設置

 上の例のような連邦政府の個々の取組みを、ワンストップ・ショッピング化する試みが、いろいろと行われている。その究極のものが、連邦政府の全情報/サービスへのポータルとなる“WebGov”プロジェクトである。これについては、99年の初め頃からGSAやGITSの話題に上り、年内にはできるはずとも言われていたが、強力な新サーチエンジンでもないと使えないなどとの技術論などもささやかれ、結局登場しなかった。上述したCIO協議会の新電子政府委員会でもWebGovを支援するとされているし、4月にGSA長官がスピーチした中にもWebGovは我々が次に成すべきことで、その方向は誰もが信じている、と言っている。その時も1ヶ月以内にもWebGovのサイトがフェーズ1としてでも現われるだろうと観測されたのだが、今のところ出てきていないようである。  

 そうこうするうちに、連邦政府サービス全体へのポータルとして、AOLが運営しているGovernmentGuide(http://www.governmentguide.com)や、govWorks.com (http://www.govworks.com)、ezgov.com (http://www.ezgov.com ) など、民間版のものが出てきている。サイトを覗いてみると、それぞれに工夫が凝らされていて結構使えそうである。少なくともそれらを超えたものを出さなければならないのだから、WebGovの担当者は今頃大変な思いで開発を急いでいるに違いない。

 さて、WebGovほどではないまでも、すでに着々とできつつあるワンストップ・ショッピング・ポータルも、かなり広範な省庁間の連携をベースとしており、立派なものが多い。それらへの入口となっているのがアクセス・アメリカのホームページ兼オンライン・マガジン( http://www.accessamerica.gov)である。このオンライン・マガジンはNPRが中心となって98年10月から編集しているものであり、そのNPR(http://www.npr.gov)のホームページも同様に、ポータルへの入口と言う機能を果たすものとなっている。それらから、連邦政府ポータルと呼べるようなものを抽出してみると、以下のようなものが出てくる。

Access America for Seniors (http://www.seniors.gov )
Access America for Students ( http://www.students.gov/index2.html )
Acquisitions (http://www.arnet.gov )
Afterschool.gov (http://www.afterschool.gov )
Asset Sales (http://www.financenet.gov/financenet/sales/sales.htm)
Boost4Kids ( http://www.boost4kids.gov )
BudgetNet (http://www.financenet.gov/budget.htm)
Business Advisor ( http://www.business.gov)
CodeTalk (Native American) ( http://www.codetalk.fed.us)
Communicators (http://www.fcn.gov/headline/index.htm )
Computers (http://www.computers.fed.gov/School/user.asp)
Consumer Gateway (http://www.consumer.gov )
Education ( http://www.ed.gov/free )
FinanceNet ( http://www.financenet.gov) GrantsNet (http://www.hhs.gov/progorg/grantsnet )
Health Finder ( http://www.healthfinder.gov )
Inspector General Network ( http://www.ignet.gov)
Non-Profit Gateway ( http://www.nonprofit.gov ) PAVNET (Partnership Against Violence Network) (http://www.pavnet.org)
Popular Services( http://www.whitehouse.gov/WH/Services )
Recreation ( http://www.recreation.gov )
SafeCities ( http://www.safecities.gov )
State/Local Gateway ( http://www.statelocal.gov )
Statistics ( http://www.fedstats.gov )
USA Jobs (http://www.usajobs.opm.gov )
Veterans ( http://www.va.gov/customer/consumer.htm)
Web Pages For Kids ( http://www.hud.gov/kids/safeplay.html )



 タイトルを見ると、どのような政府機能を集めたポータルかだいたい想像がつくので、一々説明することは避けるが、これらの中でも(www.○○○.gov)という形のURLを持っているものは、インターエージェンシーで作られたポータルで、完成度が高いようである。良く出来ていると思われる例を2、3覗いて見よう。



  • Access America for Students

     アクセスアメリカのイニシアチブの一部として、教育省のリーダーシップの下に作られたウェブサイトで、学生たちの連邦政府へのゲートウェイとして設計されている。そこからできることとして、以下のようなものがある。

    ・連邦の奨学金制度の申し込み
    ・税金の電子的申告
    ・住所変更の要請
    ・職探し
    ・学生ローンのコンソリデート
    ・セレクティブ・サービスの登録
    ・平和部隊ボランティアの申し込み
    ・社会保障カードの変更
    ・郵便切手のオンラインでの購入
    ・その他連邦政府機関からのバーチュアルな情報の探索

  • U.S. Business Advisor

    中小企業庁が中心となり、企業活動に対するサービスや規制などを有している60にも上る政府機関の情報を網羅したポータル。ビジネスの立上げから、金融支援、税、各種法規制、労働力確保、政府調達などの項目に分かれている。

  • Consumer.gov

     文字通り一般消費者のための連邦政府情報へのワンストップ・リンクとして作られている。例えば、食品、健康、製品安全、金融、交通などのカテゴリーに別れ、さらにそれらがサブカテゴリーに分かれ、連邦政府の関連サイトにリンクしている。現時点では166の連邦政府機関や傘下の研究所などのサイトに行き着くことができる。  

     例えば、食品というカテゴリーをクリックすると、主に食品薬品局(FDA)と農務省からの様々な情報が掲載されているが、スポットライトという項目の最初の項目は大豆のたんぱく質がダイエットや心臓病予防に良いが、逆に乳がんを増やす恐れがあるとの研究もある・・・などいうFDAのレポートが掲載されている。  

     製品安全というカテゴリーでは、例えばNHTSA(National Highway Traffic Safety Administration)の自動車のリコールに関するデータベースにリンクしている、などである。



←戻る | 続き→



| 駐在員報告INDEXホーム |

コラムに関するご意見・ご感想は hasegawah@jetro.go.jp までお寄せください。

J.I.F.に掲載のテキスト、グラフィック、写真の無断転用を禁じます。すべての著作権はJ.I.F..に帰属します。
Copyright 1998 J.I.F. All Rights Reserved.