2000年7月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

ポストPC時代における次世代型情報端末と企業戦略(前半) -3-


(2)携帯端末

ここでは携帯端末としているが、例えばIDCなどはスマート・ハンドヘルド・デバイス(SHD)と総称して、その下にハンドヘルド・コンパニオンとパーソナル・コンパニオン(=PDA)があるとしているし、フォーチュン誌のテクニカルガイドでは、モバイル・デバイスという中にハンドヘルドPCとパーム・サイズPC(=PDA)がモバイル・フォンとページャーと並んで分類されている。分類学はその辺りとしておくが、いずれにしてもIDCの言うウルトラ・ポータブルPC(フロッピー・ドライブもCD-ROMドライブも内蔵されていない超薄型ノートブック)より下位の機種からとなる。

携帯端末(SHD)全体の世界における出荷台数については、IDCによれば99年540万台であったものが2003年には2,890万台に伸びると言う。99年時点でSHDのうちの65%以上がPDAであった。またその約80%をパームが占めたと言う。

@ハンドヘルドPC

さて、ウルトラ・ポータブルとパーソナル・デジタル・アシスタント(PDA)の狭間の、ハンドヘルド・コンパニオンあるいはハンドヘルドPCと呼ばれるカテゴリーには、この分野のベストセラーとされるHPの「Jornada 690」や、NECの「MobilePro Series」、コンパックの「Aero 8000」など、ウィンドウズCEベースで縮小版のキーボードを持った機種が主に入る。しかし、この市場はさらに小型化が追求されてきたウルトラ・ポータブルと、性能も向上してキーボードもオプション的に使えるようになっているPDAに挟まれ、旧ウィンドウズCEの不人気もあって徐々にそのシェアを失いつつある。HPのJornadaのようにユーザーからの根強い人気をもつ機種やワークパッド型の業務用の機種以外は次第にこの上下の市場に融合されていくと見られている。

さらに付け加えれば、トランスメタ社の低消費電力チップのクルーソーが、この6月末のPC EXPOでウルトラ・ポータブルのIBM、NEC、日立、富士通の機種に搭載されて出品されていた。これらが実際に年内に発売されると、従来より安価で電池の長持ちするウルトラ・ポータブルが出現することになる。もちろん、ハンドヘルドPC(特にウェブ・パッド型のもの)やPDAにもクルーソーが入るはずであるが、このあたりの境界はさらにあいまいなものになると思われる。

APDA

さて、本命のPDAであるが、米国ではパーム社(palmpilot.3com.com)が現時点では圧倒的な強さを示しているのは言うまでもない。1996年に登場したパームパイロットは、発売から1年半足らずの間に100万台を販売するなど、驚異的な伸びを見せ、この3〜5月期の決算発表によれば、同四半期の出荷台数(世界での)は110万台、累積では710万台になったという。主要なラインナップを挙げておくと、ベイシックなパームV(8MBメモリー付きで249ドル)そのカラー版のパームVc(同449ドル)、薄型のパームX(同399ドル)、ワイヤレス・アクセス機能を持つパームZ(2MBで449ドル)となっている。

このパームに挑戦を挑んできたのが、ウィンドウズCEベースのハンドヘルドPCであったが、97年に鳴り物入りで登場したものの、こちらは上述のようにノートブックのウルトラ・ポータブル化に押されて、シェアを伸ばせないまま来ている。そこでマイクロソフトは、パームの競合メーカー3社--コンパック、HP、カシオ--とパートナーシップを形成し、ウィンドウズCEを大幅に改良、新しいPDAである「ポケットPC」をこの4月に発表して巻き返しを図ったのである。このポケットPCは、16〜32MBのRAM、133MHzのプロセッサー、16ビットのカラー画面等の仕様を持ち、ポケット版のインターネット・エクスプローラ、MS アウトルック、MSワード及びエクセルのほか、MP3の音楽が聴けるメディア・オーディオ・プレーヤー、電子書籍の読取りソフトのマイクロソフト・リーダーなどのソフトウェアを搭載している。また、「CompactFlash」拡張スロットには300MBのコンパクト・フラッシュ・メモリーや、モデム、プリンター、デジタルカメラなどが接続できるというもので、価格は449、499ドル(16MB)〜599ドル(32MB)と設定されている。

 この3代目ポケットPCの登場について、今のところアナリストの意見は分かれている。メタグループは「ポケットPCは、ウィンドウズCEのイメージを一新すると思われるが、パームの地位を揺るがすほどの力はない」とコメントしているし、IDCは、その機能面での優位性から、次第に市場に受け入れられ、1999年には80%近いシェアを保っているパームが2003年にはシェアを54%にまで落とし、その一方で、ウィンドウズCEが、シェアを1999年の13%から2003年には39%にまで伸ばすと予測している。


マイクロソフトの巻き返しに対抗し、パームも、PDA市場の圧倒的優位を維持すべく、さらなる技術開発を進めている。とりわけ、同社はインターネット・アクセス技術の開発に力を入れており、99年5月のパームZ発売開始に併せて、パーム専用のワイヤレス・インターネット・アクセス・サービスである「Palm.Net」をスタートしている。パームネットは、電子メールに加え、株式、ニュース、スポーツなどの情報をウェブから拾い上げ、ユーザーが見やすい形で整理して提供するサービスであり、ウェブ・ブラウジングではなく、ウェブ・クリッピングであると説明している。利用料は月額9.99ドル(50KBのデータ転送量まで)、24.99ドル(150KB)、39.99ドル(300KB)、44.99ドル(無制限)に設定されている。

加えて、この4月、パームのカール・ヤンコフスキーCEOは、年内に全てのパーム機器にワイヤレス通信機能を持たせると発表している。既にパームV用のクレードル(パームの裏に合体するドッキング・ステーション)型のワイヤレスモデムは発売されていたが、この6月にはパームX用も発売された。それに限らず、通信機能を持たせるためには、Zのように受信機を搭載するか、ブルートゥース(Bluetooth)を搭載して携帯電話を介してウェブに接続するかなどが考えられ、これらにチャレンジしていくと言うものである。同CEOはパーム機器自体はやがては通信機器となり、パーム社自身は一種のワイヤレス・サービス・プロバイダーになっていくとまで言っている。


改めて説明するまでもないとは思いつつも、ブルートゥースについて一言触れておこう。ブルートゥースは、エリクソン、IBM、インテル、ノキア、東芝が中心となって98年から標準化活動を推進してきた近距離無線データ通信技術で、2.4GHz帯を用い、1Mbpsで10メートル程度の近距離を結ぶ。携帯電話やPC、IAなどにブルートゥース機能を持たせるためには、送受信モジュールを組み込む必要があるが、この主要な供給者であるエリクソンやインテルでの技術面からの量産の遅れから、実際の最終製品の出荷は2001年にずれ込むとも言われている。これらに関する情報は、ブルートゥースに関心を持つ企業の国際的な集まり(1,900社程度が参加)である「Bluetooth Special Interest Group(SIG)」(www.bluetooth.com)などから得られる。

このブルートゥースの実現と普及が、PCやポストPC機器間の接続を容易にし、特に家庭内の普遍コンピューティング化を進める上で、不可欠なものであるとされているが、この辺りについては、(5)でも触れる。

 パームのもう一つの開発戦略は、新たなスロットを導入しての、拡張性の強化である。ポケットPCや後述するバイザーなどは、後発だけにパームの弱点とされている拡張性を補うために、汎用性の高いスロットを持たせている。ワイヤレスでのアクセスにしても、これらの機器では、スロットにアドオンのカードを入れて携帯電話とつなぐだけで簡単に行えるのである。この6月27日に、パームは拡張スロットとして「Secure Digital(SD)」スロットを選択し、2001年にはそれを搭載したパームを発売すると発表した。SDカードは、シリコンバレーのサンディスク社(www.sandisk.com)が東芝と松下と共に開発したフラッシュ・メモリー・カードで、ソニーのメモリースティックと激しい競争に入りつつある技術である。後述のハンドスプリング社やソニーとは互換性のない技術を選んだことで、PDA市場の競争はますます熾烈になることが予想される。


 さて、話が前後したが、ハンドスプリング社(www.handspring.com)は、パームパイロットを生み出したドナ・ダビンスキー女史とジェフ・ホーキンズ氏がパームをドロップアウトして創設した新興企業であり、99年9月に、第1号製品である「バイザー(Visor)」(8MBで249ドル)を発表した。バイザーは、パームOSを搭載しており、外見も機能も非常に似ているが、キーボードやその他の周辺機器を接続するための拡張スロット「スプリングボード(Springboard)」を備えているのが特徴である。このスロットを使い、モデムを装着したり、MP3プレーヤー機能を持たせたり、GPS受信機を着けたり、ビデオ・ゲームを楽しんだり、あるいはブルートゥース機能を加えたりもできる。このような拡張性から、パームを脅かすのみならず(5月はPDA市場の25%を抑えたとの調査(NPDインテレクト調べ)もある)、パームOS陣営としてポケットPCとの競争にも大きな役割を果たすと見られている。

 パームOS陣営には他にも有力な企業がいる。その一つであるIBMも、パームXをベースとした「WorkPad」(8MBで価格は399ドル)を発売している。ロータス・ノーツとの互換性や赤外線ポートによるIBMのPCとのデータ交換などを特徴としている。

 TRG社(www.trgpro.com)も、パームVとコンパチブルな「TRGpro」(8MBで価格は329ドル)を発売している。こちらはポケットPCと同様のコンパクト・フラッシュ拡張スロットを持っていることが特徴となっている。

 さらに、今回のPC EXPOの話題をさらっていたソニーのパームOSベースのPDAも控えている。実際に触れることはできない展示であったが、メモリースティック(書き換えが可能な小型の記憶媒体)のスロットははっきり見ることができ、これによるオーディオ・ビデオ機能の拡張が期待されているものである。今のところ名称も価格もスペックも明らかになっていないが、米国のハイテク・ブランドの一つとなっている、あのソニーのものだけに、その展示ブースは黒山の人だかりであった。


 このように、携帯端末市場は、圧倒的なシェアを誇るパームを初めとし、それに追随する形で大手メーカーがしのぎを削るというダイナミックな構図となっている。今後しばらくは、このPDA市場の中で、パームがトップの地位を守りきるのか、それとも、マイクロソフトを初めとする競合企業が成功を収めるのか、目が離せないところである。しかし、その一方で、後述するようないわゆるスマートフォン(PDAの機能を内蔵した携帯電話)との市場間の競争、あるいは融合が待ち構えている。消費者としても選択が難しいところである。(余計なことだが、個人的には、モバイルPCと携帯電話も十分に使いこなせないうちにPDAを買っても使いきれないであろうし、そのうちに携帯電話にPDA機能が入るだろうから、それを待っていたい、と実は思っている。)

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