2000年8月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

ポストPC時代における次世代型情報端末と企業戦略(後半)


3. デジタルセットトップボックス

 上述のように、デジタルテレビを巡って進まないのはそちらのせいだという非難合戦が繰り広げられているが、CATV業界も負けてはいない。全米ケーブルテレビ協会(National Cable Television Association = NCTA)(http://ncta.cyberserv.com)は、放送局がアナログ波を政府に返却するまでにはケーブル業界も放送局のプライマリーな放送を流すようにするが、アナログもデジタルも両方流せと言うような要求には応じられない。放送局はHDTV放送を放送する約束で政府から何十億ドルと言う価値の周波数を無償で割り当てられているのに、データ放送など別の収益目的のためにそれを使い、かつそれを流すようにCATVに押しつけてくるなどとんでもないことだ、などとやり返している。  


 そのケーブル業界は、デジタル化が遅れているとは言われながらも、96年通信法施行以来、360億ドルも費やしてデジタル化への施設のアップグレードを行っており、既に6月末時点で全米のCATV視聴世帯数6,700万世帯のうち710万世帯がデジタルで視聴していると言う。最近では月37万世帯のスピードで広がっており、今年中に1,000万世帯を超えて、2006年には4,200万世帯に達すると言う予測も立てている。因みに現時点でデジタル放送視聴のライバルであるデジタル衛星放送(DBS)の視聴世帯数は1,300万世帯程度で、こちらも急増しているが、2000年上半期の視聴者の増加数では、CATVが220万世帯、DBSが190万世帯で、CATVが追い越すのは時間の問題である。 


 このようなサービスは、AT&Tワイヤレス(1,250万人)、スプリント(780万人)、あるいはベルサウスとSBCのワイヤレス部門の提携会社(1,620万)のいずれでも、ほぼ同様なレベルで提供が始まっている.。もちろん、例えばAT&Tは接続時間は無制限だが、eメールの送信は月150ページまで基本料に含まれるなど、少しずつ差異はあるが、日本の同様のサービスに比べ、やはり接続時間は無制限に近づけようという姿勢がうかがわれる。


 このようにCATVのデジタル化が進む中、遅れていたデジタルセットトップボックスの開発がようやく本格化してきた。デジタルセットトップボックスは、現行のCATVのセットトップボックスをデジタル化するものだが、それのみならずケーブルモデムも組み込まれ、双方向性を持つものとなる。デジタル衛星放送のレシーバーもテレビの上に置くと言う意味ではセットトップボックスであるが、電話線のアップリンク併用でインターネットのダウンロードは可能とは言え、双方向の情報端末とは言えないため、ここでは省略する。


 さて、従来のアナログセットトップボックスについては、ゼネラル・インストルメント社(www.gi.com)とサイエンティフィック・アトランタ社(www.sciatl.com)の複占状態にあったが、100ドルもしないようなアナログSTBと違い、技術力によっては新たな参入が可能で、かつ1台当たりの単価も高い(300〜500ドル)デジタルセットトップボックス市場は、各ベンダーにとって大変魅力ある市場である。そこにおける競争は、97年12月に、CATVトップのTCI社が競争入札の結果、「ゼネラル・インストルメントのデジタルセットトップボックス1,500万台(1台300ドル程度で総額45億ドル)を今後5年かけて導入していく」と発表したことにより始まったと当時のNYT紙が報じている。また、それに組み込まれるOSを巡って、マイクロソフト、ネットワーク・コンピュータ(オラクルとネットスケープの合弁会社で現リベレート・テクノロジー社)、サン・マイクロシステムズなどが火花を散らしているのが報道された。その後4月には、CATV2位のタイムワーナーがサイエンティフィック・アトランタからを中心に数100万台のSTBを導入するなどとの発表も行った。しかし、98年6月にAT&TがTCIを買収すると発表して以来、メディアワンの買収(99年4月発表)も含めて、CATV業界全体の再編が続いたため、その影に隠れてデジタルSTB導入の様子は見えてこなかった。


 再び動きが見え始めたのが99年9月であり、一つがモトローラによるゼネラル・インストルメントの買収、もう一つがCATV6〜7位のケーブルビジョンによるソニー製STB、300万台の調達発表であった。その後も、2000年1月にCATV4〜5位のコムキャストがモトローラから100万台を、5月にCATV6〜7位のアデルフィアがモトローラとサイエンティフィック・アトランタの両方から160万台ずつを導入するなどの発表が相次いでいる。


 AOLTVの正式発表に先立って、AOLは6月14日、ティーボ社(後述)と共同で、ティーボの「パーソナルテレビ」(デジタル・ビデオ・レコーダー)の機能を内蔵したAOLTV用のセットトップボックスを開発すると発表している。フィリップスのセットトップボックスも5GBのハードディスクを備えているが、ティーボのものは録画や再生が思うがままにできる本格的なパーソナルテレビ機能を持つもので、2001年の初頭に登場する予定である。また、これに併せてAOLがティーボに2億ドルまでの出資(15%相当)をすることが合意された。さらに、今年の年末には、ウェブTVと同じくAOLTV/DIRECTVレシーバーも発売するとしており、マイクロソフトとの全面戦争が展開される。


 ハードウェアの競争に加えて、それに組み込まれるOSについても熾烈な競争が繰り広げられている。マイクロソフトの「Microsoft TV」、リベレート・テクノロジー(www.liberate.com)の「Liberate TV Navigator」、サンの「Java TV」、ソニーの「Aperios」、OpenTV社(www.opentv.com)の「OpenTV Set-Top Box Software」、PowerTV社(www.powertv.com)の「PowerTV Set-Top Box Software」などが現時点の主要なOSのようである。ロボット犬「Aibo」にも使われているリアルタイムOSであるAperiosが注目されているようであるが、AT&Tに昨年4月、50億ドルの出資をしてMicrosoft TV(ウィンドウズCE)の採用拡大を迫ったマイクロソフトがやはり強力なようであり、また、その他のJavaをベースとしたOS群も既に欧州での実績があり、オープン・プラットフォームということから、採用に安心感があるようである。


 と言うことで、2006年に向けてのデジタルセットトップボックス市場は、後述するホームネットワーキングの要にもなり得る重要な分野であることから、その競争の行方は目が離せないところである。



4. パーソナルビデオレコーダー(PVR)

 ポストPCの情報端末と言う点からはやや離れるが、上述のインターネットテレビやセットトップボックスと、あっという間に強いつながりができた、パーソナルビデオレコーダー(PVR)(デジタルビデオレコーダー(DVR)と呼ばれることもある)について少し触れておこう。PVRは通常のアナログテレビ番組を瞬時にデジタル化してMPEG2(Moving Picture Experts Group 2)方式で圧縮し、ハードディスクに録画する次世代ビデオレコーダーであり、昨年春に登場している。  


 PVRの代表的なメーカーはティーボ(www.tivo.com)とリプレイネットワークス(www.replaynetworks.com)で、どちらもシリコンバレーの新興企業である。ハードウェアはティーボ側はフィリップスとソニーが399ドルで提供しており、リプレイTVはパナソニックが699ドルで提供している。どちらも30時間までの録画が可能なもので、その他にティーボはサービス・フィーとして月9.95ドル又はライフタイム・サービスとして199ドルが必要となり、リプレイTVのサービスは無料である。。


 PVRの特徴はハードディスクへの録画であるため、放送中の番組を録画した番組のように視聴、一時停止、巻き戻しができる点で、録画の最中でも好きなときに再生することができる。巻き戻しは数分前に録画してあるところまで可能であり、その場合、遅れたままで番組を視聴し続けたり、CM時にその遅れを取り戻して現在の放映に戻ったりできる。また、電話線を通じてティーボ/リプレイネットワークスにつながっており、新しい番組表が常にダウンロードされ、また好きな番組やジャンル、俳優名などを登録しておけば、番組表はカスタマイズされ、自動的にそれらの番組が録画される。  


 PVRの普及については、ティーボが6月までに5万1千件のサービス登録があると発表している程度で、まだまだこれからではあるが、上述のようにマイクロソフトやAOLがそれぞれのサービスと組み合わせたり、あるいは最近コムキャストやタイムワーナーなどのCATVがPVRを視聴者にレンタルするなどと言うサービスの試行を始めたりしていることから、急速に伸びる可能性がある。ただ個人的な意見であるが、例えばうちの居間にはテレビ、セットトップボックス、VTR、DVDの各リモコンがあって、それだけでも使いこなせていないのに、さらに複雑そうなPVRのリモコンが加わったりして果たして使えるのか。あるいは、ヤンキーズの試合は全部と登録するならまだしも、メグ・ライアンの出ている映画は全部などと個人の嗜好を登録するのには、サービス側がプライバシー保持を約束しているとは言え、やはり抵抗があるところであろう。





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