2000年9月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国におけるエレクトロニクス・マニュファクチュアリング・サービスの動向について


(2)トップ5企業の状況

  1. ソレクトロン(Solectron)(www.solectron.com

本社;カリフォルニア州ミルピタス、CEODr. Koichi Nishimura

年次決算(1999.8.27);売上高8,391m$+59%)、純益294m$+48%

最近の四半期決算(5.26);売上高3,592m$+58%)、純益123m$+37%

従業員数57,000名、世界44工場

コンピュータ31%、ペリフェラル13%、通信40%、その他16%

(従業員と工場の数は最新4半期報告かそれ以降に発表の数字、最後の生産分野比率は 99暦年の売上に基づいて、MMI誌が調べたもの、以下の各社も同様)


 EMS業界のことは知らなくても、ソレクトロンは知っていると言われるほど、最近では有名な企業となっている同社は、1977年 に日系のロイ・クスモト氏が、当時のソーラー・エネルギー・ブームに乗って、太陽発電機器の製造販売会社としてシリコンバレー に創設した会社である。84年からはPCBの表面実装を開始して、EMS業務に本格的に参入した。89年にはコーイチ・ニシムラ氏を IBMからCOO(92年からCEO)に迎えるとともにIPOを果たしている。91年には米国の品質管理の最高賞であるマルコム・ボルド リッジ賞を受けて、同社のみならずEMS業界全体の地位を高め、さらに97年には同賞を再び受賞すると言う偉業を成し遂げてい る。92年のIBMのノースカロライナとボルドーの工場の買収を皮切りに、93年にはHPやフィリップスのPCB工場の買収、その後 も次々とOEMからの工場買収により業容を拡大してきている。98年10月には、三菱電機のジョージア州の携帯電話工場の買収と 製造サービスの提供を発表し、日本のOEMからは初めての工場買収として話題となった。99年4月には神奈川県にNPI(New Product Introduction)センターを設立し、日本でのプレゼンスも高めている。

 2000年に入ってからは、ノーテルが大々的に切り離すことを宣言したカナダ、ノースカロライナ、メキシコ、トルコ、北アイル ランド、ウェールズ、フランスに及ぶ7つの生産工場といくつかの設計施設や修理施設を丸ごと買収することで合意をしている。 加えて4年間で100億ドルに及ぶ製造サービスも受託している。

 99年12月号のエレクトロニック・ビジネス誌は、「CEO of the year」にニシムラCEOを選んでいるが、ニシムラ氏がCOOとなった 89年からの10年間の平均成長率は50%超と、そのリーダーシップ下での成長には素晴らしいものがある。特に従業員ごと買収し た工場における従業員の定着率が85%であるところを見ても、エクセレント・カンパニーと言えるだろう。最近における同社のフ ォーカスは、OEMに設計サービスをも提供できるようにするところにあるが、メリルリンチの著名なEMSアナリストのジェリ ー・ラボウィッツ氏は、「設計の分野はより付加価値が高くマージンも大きいので、他のEMSと同様、マージンが3.4%と低いソ レクトロンにとってはプラスである」と述べている。同氏曰く、「ソレクトロンはセールス、収益性、バランスシート、品質の 何をとってもリーディングなEMSだ」というところである。

 なお、ソレクトロンの2000年度はこの8月末に終了するが、第3四半期終了時で売上高が92億ドルに達していたので、EMSとして 初めての100億ドル台も、半ばに近い数字となることが予想されている。

 横道に反れるが、これだけの買収と急成長をどのようなシステムで支えているのかと言う点に関し、エレクトロニック・バイヤー ズ・ニュースの8月18日号に興味深いニュースが載っていた。ソレクトロンがIBMのグローバル・サービス・グループに10年間で18 億ドルに上るコンサルティング・サービスを委託したというものである。ソレクトロンの世界57サイトを結ぶ、ERPアプリケーシ ョン(Baanのバージョン5にアップグレード)、ネットワークサービス、データセンター、デスクトップ・コンピュータ、eビジネ ス・システムにまでその範囲は及ぶ。ソレクトロンも独自に共通なITプラットフォームを構築しようとしてきたが、買収したアセ ットを同化するのには間に合ってこなかった。IBMとしてはできるだけ早く、その同化を達成し、特に重要なフレキシブルでビ ジブルなサプライチェーン・マネージメントをインプリメントするのが使命であるとしている。さらにはソレクトロンのサプライ チェーン・パートナーとのインタフェースの改善も行うという。いずれにしても、IBMが生産をソレクトロンに任せ、ITサービス はソレクトロンがIBMに任せてそれぞれのコアコンピテンスに集中するというのが、米国のやり方ということなのである。



  1. SCIシステムズ(SCI Systems, Inc.)(www.sci.com
  2. 本社;アラバマ州ハンツビル、CEOMr. Eugene Sapp

    年次決算(2000.6.30);売上高8,343m$+24%)、純益197m$+43%

    最近の四半期決算(6.30);売上高2,306m$+28%)、純益57m$+33%

    従業員数32,000名、世界17ヶ国38工場

    コンピュータ44%、ベリフェラル10%、通信26%、家電12%、医用6%、航空2%、その他8%

     1961年にSpace Craft Inc.として発足した同社は、80年代にIBMのPCの立上げ段階のマザーボードの外注を受けて以来、業 界最大のPCB表面実装ラインを武器に、PCの発展とともに拡大路線を走ってきた。90年代の半ばにHP、DEC、アップル などの工場を買収してきている。また、PCへの集中を分散するため、97、98年にはエリクソンやノキアなどの工場も買 収している。

     このようにして築いてきた業界1位の座であったが、90年代後半につまずきを見せたとされる。97年の売上では64億ドル と2位のソレクトロンの40億ドルに大きな差をつけていたのが、98年には66億ドル対61億ドルと一気に差を詰められ、99 年には72億ドル対89億ドルと大きく逆転されている。この理由として、アナリストは同社のビジネスモデルに問題があっ たとしている。すなわち同社が、ローエンド・マニュファクチャリング(HPやアップルのサブアセンブリーに重点を置 き、最終製品のアセンブリーはほとんど持たなかった)を追求してきたため、成長もなく利益も出なかったと言うのであ る。同社は例えばソレクトロンなどがパスしたような低付加価値の仕事を拾ってきたとまで言われている。

      実際にSCIの最近の年次報告を見ると、他の競合相手は99年に2桁の伸びを示しているのに、SCIの99年6月末の決算では売 上は67.1億ドル(前年度68.1億ドル)と減少している。さらに純益も1億3,780万ドル(1億4,510万ドル)と落ち込んだ。こ れに対し、同社は経営陣の刷新(99年7月に前CEOが辞任しCOOをCEOに昇格、11月にCFOを交代、12月にはCOOをソレ クトロンから引抜き)や製品の幅やバランスの改善を行うことで、ポジションを建て直そうとしてきた。その結果、2000 年6月末の業績は、売上83.4億ドル(23%増)、純益1億9,670万ドル(43%)と回復を見せている。

      決算報告に際して、サップCEOは、「四半期売上では目標としてきた通信関連製品で25%と言う数字を達成し、通信の最 終製品が利益率に貢献した」とコメントしている。同社はさらに、4月にノキアのマルチメディア開発グループの46名の エンジニアを獲得したのに続き、8月にはエリクソンからケーブルモデムの製造を受注するなど、通信シフトを深めてお り、昨年10月に20ドルを切った株価も最近では60ドル台に戻している。



  3. セレスチカ(Celestica)(www.celestica.com
  4. 本社;トロント、カナダ、CEOMr. Eugene Polistuk

    年次決算(1999.12.31);売上高5,297m$+63%)、純益68m$(△48m$

    最近の四半期決算(6.30);売上高2,092m$+67%)、純益63m$+61%

    従業員数23,000名、世界12ヶ国33工場

    コンピュータ60%、ベリフェラル10%、通信25%、その他5%

     セレスチカは、1996年10月にIBMのトロント工場がスピンアウトして設立された若い会社で、IPOも98年6月に行ったばか りである。設立時からのCEOであるポリスタック氏は1969年からカナダIBMに勤め、86年からはトロント工場の工場長を していた人である。セレスチカが他のEMSと違うのは、オーバーフロー・ビジネスではなく、世界的なOEM企業とコンパ チブルであることに焦点を当ててきたこと。さらに1,800人もの学位を持った技術者を擁し、内部の技術力が大変高いこ とを挙げることができる。その反面、顧客のOEMがまだ限定されており、IBM、HP、サン、シスコで売上の6割以上を占 めている。

     97年度から98年度にかけて売上が62%増の32億ドルになり、99年度も63%増の53億ドルとなったが、ポリスタックCEOは 「我々の投資がペイオフしてきており、99年度の成長の2/3が買収ではなく、内部の伸びで達成されている」ところを強 調している。

     技術力の高さによりよりマージンの高いフロントエンド設計ソリューションを受け持つことができているが、北米の工場 キャパシティーが70%弱と高く、他の企業よりグローバルリーチと言う面で弱いというアキレス腱を持っている。しか し、99年中にはチェコ、ブラジル、マレーシアに新たな拠点を得、2000年に入ってからも5月にはIBMのイタリアのPCB 組立工場の買収を完了しているし、6月にはNECのブラジルの通信ネットワーク工場を680名の従業員と、5年間、12億ド ルの生産サービス契約付きで買収している。このように通信分野への顧客拡大やグローバルな拠点拡大などの努力をバラ ンス良く行っていることなどから、99年上期も前年費59%増の37億ドルの売上を上げるなど好調である。



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