2000年11月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

米国における通信機器市場の動向


はじめに

 インターネットの爆発的成長、世界各国に押し寄せる通信サービス業界の規制緩和の波、サービス・プロバイダー間の激しい競争などの影響を受け、通信機器市場は今までにないスピードで成長を続けている。格付け調査会社スタンダード・アンド・プアーズ(以下S&P)によると、2000年以降の世界通信機器市場の成長率は20_30%と予測されている。米国においても、年率14、15%といったスピードで市場規模は拡大を続けている。データ通信量でも年率500%の伸びと言われており、近く音声を超えるのではないかと言われている。


 さて、これらの拡大を支えるプレーヤーとして、ルーセント、ノーテル、シスコなどがすぐに思い浮かぶが、最近はどうも聞き慣れない企業、例えばジュニパーとかシカモアなどの方を新聞で目にすることが多いようにも思う。そうこうしているうちに、ルーセントなどは業績不振でCEOの交代まで伝えられている。何がこのような環境の変化を生んでいるのだろう。その辺りについて知るべく、今回は通信機器市場をレポートすることにした。とは言いながら、この市場についてこれまでほとんど知らなかったため、本レポートも大変初歩的なものになってしまっていることをご容赦願いたい。また、ワイヤレスについては、この4月の本報告で取り上げたところでもあるので、今回は紙数の関係から、ワイヤラインに係るところを中心に述べている。なお、報告のベースはワシントンコアに依頼して作成してもらっているが、主にS&Pのインダストリー・サーベイを参考にしている。


1. 通信機器市場の概要

 (1) 市場規模

 世界の通信機器市場についての統計として、ITUが発表したデータをまず挙げておこう。これによると、通信機器の世界市場規模は、1999年の3,100億ドルから2001年には25%増の3,900億ドルに達すると予測されている(図表1)。


図表1:世界通信機器市場の推移1995_2001年)

出典:International Telecommunication Union: DMG Technology Group


 これをセグメント別に示したものとしては、フランスのIDATE(http://www.idate.fr)という通信専門の調査会社がこの3月に発表したデータがある。99年の総額がややITUのものより小さいが、以下に示しておくことにする(図表2)。


図表2:世界のセグメント別通信機器市場2,800億ドル、99年)

出典:IDATE


 また、主要なプレーヤーについては、S&Pのインダストリー・サーベイ「コミュニケーション・エクイップメント」(2000年6月)に99年度(各社終了月は異なるが)の主要各社の通信機器売上が示されている。それによると、北米企業ではルーセント347億ドル(99.9)、モトローラ258億ドル(99.12)、 ノーテル222億ドル(99.12)、シスコ122億ドル(99.7)が、欧州企業ではエリクソン253億ドル(99.12)、シーメンス248億ドル(99.9)、アルカテル232億ドル(99.12)、ノキア199億ドル(99.12)が、日本企業としてはNEC126億ドル(99.3)、富士通57億ドル(99.3)がそれぞれ挙げられている。 


 米国の市場について見てみると、米通信機械工業会(TIA=Telecommunications Industry Association)(http://www.tiaonline.org)が99年の米国通信市場全体の値として、5,176億ドル(前年比11.4%増)というものを発表している。このうち、通信機器市場は1,354億ドル(11.5%増)であり、残りは通信サービス市場2,520億ドル(8.5%増)とサポート・サービス市場1,380億ドル(17.3%増)である。通信機器市場は2003年までに平均年率8.7%増で1,890億ドルになると推定されている。ITUやIDATEの数字との比較で言えば、米国の通信機器市場は世界の4割強程度と言えようか。   


 (2)通信機器市場の分類

 上にIDATEによる世界のセグメント別市場の図を掲げたが、市場の分類は様々であって、例えば日本の通信機器業界では伝統的に端末とネットワークと分けたりしているが、やはり最近伸び盛りのワイヤレスと光通信に焦点を当てた機能による分類の方がわかり易いだろう。そこで本報告ではS&Pの「コミュニケーション・エクイップメント」のサーベイにもあるように、ワイヤレスとワイヤラインの2つに大きく分け、さらに以下のような5つのセグメントに分けて見ることにする。(とは言いながら、S&Pは別に「コンピュータ:ネットワーキング」と題する別のサーベイ(9月)も出しており、シスコなどのネットワーク機器中心の企業については、そちらで主に分析しているなど歴史を引きずっていることろが見られる。)
 

通信機器

ワイヤレス

ワイヤレス・インフラストラクチャー

ワイヤレス端末

ワイヤライン

 

データネットワーク機器

光通信機器

通信アクセス機器


 簡単にそれぞれのセグメントの内容を解説するが、ワイヤレスについては容易に想像がつくと思われ、また4月号の報告でも触れたところであるので省略する。


  1. データネットワーク機器

     データネットワーク機器は、データの送信者と受信者を結び、データ転送を完了する機器を指し、スイッチやルーターが代表的な製品として挙げられる。 ネットワークの最小の単位となるLAN(Local Area Network)の代表的なものとしてイーサネットなどがあるが、その中を行き交うデータのパケットの伝送速度は80年代の10メガビット/秒から最近ではその100倍のギガビットに達している。その速度を達成するためにLANの内部を高速で切り替えて伝送容量を増やすためのLANスイッチが不可欠となっている。

     ルーターはLAN間を相互に接続し、データを転送する装置である。データ転送に必要な情報を集めたルーティングテーブルとルーティングプロトコルを基に、パケットを最速であて先に届けるための経路選択を行う。  LANとLANを結んだWAN(Wide Area Network)におけるデータ伝送に用いられるWANスイッチの主流がATM(Asynchronous Transfer Mode:非同期転送モード)スイッチである。ATMスイッチではデータを53バイト長のパケットに区切り、その先頭につけたあて先に従い高速(155Mbpsまで)で受信先に転送する。

  2. 光通信機器

     光ファイバーを用いた高速のデータ伝送システムを支えるのがSONET(Synchronous Optical Network:同期光ネットワーク)やDWDM(Dense Wavelength Division Multiplexing:重波長多重分割)と呼ばれる伝送装置である。 SONETは、レーザー光送受信器で光ファイバーの中を送る一つの波長にデータを載せて52Mbps_40Gbpsの速度で転送する装置である。速度を決める要素はレーザー光送受信器にある。(因みにNTTが10月に1波長の伝送量として1.28テラビット/秒を70Kmの距離を送ったと伝えている。)

     一方、DWDMは、光ファイバーの中をいくつかの波長を多重化して転送する装置であり、2.5Gbpsや10Gbpsのチャネルを例えば40波長多重して、400Gbpsにまで高速化する装置などが実用化されている。(因みにNECは10月に40Gbps×160波長で6.4テラビット/秒が達成されたとしている。)

  3. 通信アクセス機器

     通信アクセス機器は、ローカルループ(加入者線)を通して、加入者と最寄りの交換局を結ぶための機器である。伝統的なモデムがこの範疇に入るが、最近の高速通信アクセス機器の代表は、DSL機器とケーブルモデムである。DSL機器の主要メーカーとしては、アルカテル、シスコ、ルーセント、ノキアなどが、また、ケーブルモデムでは、ノーテル、モトローラ、スリーコムなどが挙げられる。



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