2000年11月  電子協 ニューヨーク駐在・・・長谷川英一

法人ウェブ・ソリューション・ビジネスにおける競争と協力


  (3)光通信機器の市場、技術動向   


 上述のワイヤライン機器のうちでも、最も先進性が高く将来性も大きい光通信機器について、少し市場動向と技術動向を見てみたい。


 まず、市場動向であるが、調査会社RHK(http://www.rhk.com)が10月に発表したばかりの調査(図表3)によると、北米の光通信機器市場は前年比67%増の206億ドル(SONETが105億ドル、DWDMが77億ドル)に達する見通しと言う。2004年においてはSONETが年率15%で伸びて150億ドルに、DWDMが50%で伸びて260億ドル、全体で450億ドルに達すると予測される。マーケットシェアを見ると、ノーテルが前年から9%ポイント伸ばして38%で続くルーセント(14%)、富士通(12%)を引き離している。特にノーテルはDWDMで20%ポイントもシェアを伸ばして57%となったところが大きい。一方のルーセントはSONET、DWDMでもシェアを落とし全体では10%ポイント減にもなっている。シスコがSONETでほとんどゼロから9%までシェアを伸ばし、全体でも6%となったところが注目に値する。


図表3:北米の光通信機器市場のマーケットシェア2000年)

出典:RHK


 光通信機器の市場としては、Long-haulと呼ばれる長距離の伝送(例えばボストンからサンフランシスコに送る)が主であるが、その他にワイドエリアの光クロス・コネクト(例えばサンフランシスコからボストンに届いたものをアトランタに転送する)と呼ばれるスイッチングに焦点を当てた市場、メトロポリタン・エリア・ネットワーク(MAN)と呼ばれるLong-haulとメトロポリタン内の企業などを結ぶ市場、さらに企業や家庭からのアクセス市場の4つがあるとされる。この中で、最近急激に注目が集まってきているのがMAN市場であり、5年以内に50億ドル規模の市場になるとの見通しもある。ルーセントやノーテルに加えて、この数ヶ月の間に後述するレッドバックやシカモア、ONIシステムズなどがこの市場に参入してきている。  


 技術面において、このようなMANにとって今後重要とされるのは、オール・オプティカルのネットワークを構築することである。メトロのキャリアの望むトランスペアレントでシンプルな高速システムが実現するからである。オール・オプティカルのためには光信号を電気信号に変換することなく光のまま経路を切り替える光スイッチの技術が必要となる。米国ではカリフォルニア大学(バークレイ校とロサンゼルス校)が核となり、DARPAの支援などを受けつつ、MEMS(Micro-Electro-Mecanical System)と呼ばれる光スイッチの一方式の開発を行っている。共同研究をしているOnix Microsystems社(http://www.onixmicrosystems.com)は極小ミラー方式のMEMSチップで既に32×32の入出力ポートを実現している。


 もう一つ、次世代インターネットやインターネット2で利用されているバックボーン・ネットワークであるMCIのvBNSとクエストのAbileneについて触れておきたい。通常のインターネット・トラフィックは複数のルーターを経由してルーター間のリンクを通じて流れていくが、ルーターにおける遅延とリンクでの渋滞などにより、そのままでは高速化が図れない。そこで、ルーターのバイパスやリンクの高速化が必要となるのだが、vBNSではリンクにSONETを用いるとともに、ATMスイッチによって論理的に2点間のコネクションを設定し、ルーターをバイパスしている。Abileneでは、リンクにギガビット級のSONETを用いて高速化している。それぞれインターネット・プロトコールのパケットをATM、SONET回線上で流すので、IP over ATM、IP over SONETと呼ばれる。もちろん、次に来るのはIP over DWDMであり、上述のMANにおいて、既に利用が始まっているところである。このように、政府による研究開発においても、これらの光通信技術が、ダイナミックに使われながら、改良されていることに注意したい。


2. 米国通信機器市場の主要プレーヤー

  1. 新興企業

 最近、米国通信機器市場においては、最新の技術やニッチサービスで躍進を続ける新興企業が市場の成長に多大な貢献をしている。米国通信機器市場において、新興企業が次々と誕生し、成功を収めている背景には、優れた技術力と資金調達力が存在する。通信機器新興企業の大半は、大手メーカーで管理職、エンジニアとしての経験を積んだベテランによって創設されている。大手メーカーは、資金力や研究リソースを豊富に持つ一方で、技術、製品開発においては、スタッフのアイデアが必ずしも取り上げられるとは限らない。そこで、優れたアイデアを持つスタッフは、ビジネス能力に長けた幹部を筆頭に、エンジニアなど多数を引き連れて大手メーカーを去り、独自で企業を興すのである。


 優れた技術力に加え、通信機器新興企業の躍進を支えているのが、ベンチャーキャピタルから流れる多額の資金である。ベンチャーキャピタルは、最近の株価急落を受け、ドットコム企業への投資を大幅に削減する一方、通信サービス、通信機器市場への投資を増やしている。ベンチャーキャピタル業界を専門とする調査会社のベンチャーワン(VentureOne)の最新の統計(図表4)を見ても、IPO件数こそ今年は少ないが、ベンチャー投資件数や投資額は引き続き急拡大していることがわかる。主要なIPOについては図表5に掲げる。
   

図表4<:米国通信機器企業へのベンチャー資金投入状況等(単位:件、100万ドル)

 

98年上期

98年下期

99年上期

99年下期

00年上期

ベンチャー投資件数

144

146

168

218

267

ベンチャー投資額

1,402

1,703

2,985

5,207

8,233

IPO件数

9

7

18

33

17

IPOでの資金獲得額

796

548

2,005

3,862

2,181

出典:VentureOne

図表5:通信機器新興メーカーの最近のIPO

企業名

主力製品

IPO実施時期

IPO総額

Avici Systems

ルーター

20007

6億6,500万ドル

Corvis

スイッチ、ルーター

20007

26億ドル

CoSine Communications

IPスイッチ

20009

6億3,000万ドル

Finisar

光通信機器

199911

6億8,800万ドル

Foundry Networks

LANWANスイッチ

19999

7億8,000万ドル

Juniper Networks

ルーター

19996

4億8,000万ドル

ONI Systems

光通信機器

20006

6億4,000万ドル

Oplink Communiations

DWDM

200010

4億3,000万ドル

Redback Networks

加入者管理システム

19995

4億2,000万ドル

Sonus Networks

ルーター

20005

2億5,000万ドル

Sycamore Networks

光通信機器

199910

140億ドル

Virata

DSL機器

199911

1億3,000万ドル

出典:プレスリリースや業界専門誌等


 初期の段階で成功を収め、売上を順調に伸ばしている新興企業がIPOを果たしている一方で、技術の開発途上段階で大手メーカーに買収される新興企業も多数存在する。米国通信機器市場で台頭している新興企業の代表例としては、ジュニパー、レッドバック、シカモアなどが挙げられる。この3社は、ベンチャーキャピタルからの資金援助を受け、大手メーカーで経験を積んだ幹部やエンジニアが創設した通信機器の新興企業である。3社とも、大手メーカーに対抗するだけの優れた技術力や製品を持ち、IPOによりさらなる資金調達を実現しており、通信機器市場のダイナミズムを体現している企業と言える。

 

  1. ジュニパー・ネットワークス(Juniper Networks)http://www.juniper.net

    創設:1996年、本社:カリフォルニア州サニーベール
    売上:(99年)1億260万ドル(前年比2,600%増)
    (2000年1-9月)3億7,811万ドル(前年同期比561%増)
    主力製品:インターネット・バックボーン・ルーター、インターネット・ソフトウェア
    主要顧客:ベリオ、フュージョン・コミュニケーションズ(両者ともにISP)

     ジュニパー・ネットワークスは、高性能ルーターの爆発的な人気で第2のシスコとも騒がれている企業で、ここのところ高い株価もあって、毎日のように新聞紙上に社名が登場している。ジュニパーのCEOであるスコット・クリーンズ氏は、ATMスイッチのメーカーであったStrataCom(96年にシスコに買収される)の創設者であり、通信機器市場のベテランである。また、経営幹部は、ベイ・ネットワークス、シスコ、MCIといった大手通信機器メーカー、サービス・プロバイダーで長年経験を積んだスタッフやエンジニアで占められている。  

     同社の主力製品は、インターネットを支えるバックボーン・ルーターであり、拡張性、効率的な帯域幅利用などで定評がある。この分野は従来、シスコの独壇場であったが、ジュニパーは、処理速度が速いだけでなく、信頼性の高い製品を次々と発表することで市場に食い込み、シスコからのマーケットシェア奪取に成功している。同社は2000年第2四半期だけで、99年の1年間に売り上げた機器の総数を超えるルーターを販売しており、同時点でバックボーン・ルーター市場のマーケットシェアは22%に達している。

     ジュニパーがマーケットシェアを着実に伸ばしている背景には、同社の販売戦略がある。同社の最新製品「M160」は、毎秒160ギガビットのパケット転送速度を誇るルーターであり、業界でも1、2位を争うものとして注目を集めている(NTTも採用を決定)。ルーセント、アイアンブリッジ・ネットワークス(IronBridge Networks)なども、ジュニパーに対抗し、M160の10倍の処理速度を持つルーターを販売すると1年前に発表しているものの、依然として製品は開発途上にある。業界アナリストのボブ・ラリビュー氏は「ジュニパーは、最速ではないが信頼性の高い製品をいち早く市場に出すことで、マーケットシェアの獲得に成功している」とコメントしている。


  2. レッドバック・ネットワークス(Redback Networks)
    http://www.redbacknetworks.com)  

    創設:1996年、本社:カリフォルニア州サニーベール
    売上:(99年)6,430万ドル(前年比598%増)
    (2000年1-9月)1億6,345万ドル(前年同期比328%増)
    主力製品:ネットワーク管理システム
    主要顧客:クエスト、SBC、ベライゾン

     レッドバック・ネットワークスは、DSL、ケーブル、ワイヤレスといったアクセスサービスのプロバイダーを中心に、加入者を一括して管理する「サブスクライバー・マネージメント・システム(SMS)」を提供している。レッドバックは、他の新興メーカー同様、シスコ、ルーセントといった通信機器大手メーカー出身のスタッフが経営幹部を占めている。同社の創設者であるガウラブ・ガーグ氏は、ベイ・ネットワークスの上級エンジニアとして長年、技術開発に従事してきた経験を持つベテランである。

     レッドバックの製品は、シスコの特定のルーター製品と競合しており、シスコとの競争に打ち勝つため、レッドバックは多岐にわたる戦略を展開している。同社の戦略の要となるのが、2000年に買収した光通信機器メーカーのシアラ・システムズ(Siara Systems)である。シアラ・システムズは当時、設立してから最初の製品も依然として完成しておらず、売上はゼロの状態であった。しかし、レッドバックは、自社の時価総額の約半分に相当する43億ドルを買収につぎ込み、業界アナリストらを驚かせた。またシアラのCEOであったビベック・ラガバン氏をレッドバックのCEOにも迎えている。

     レッドバックが狙っていたのは、シアラが持っていたASICと呼ばれる集積回路であった。ASICは、ネットワークの種類に関わらず、異なるサービスを自由自在に組み合わせて提供することを可能にする。シアラのその技術を取り入れた「SmartEdge」システムを5月に発表したが、ユーザーはSmartEdgeの導入で例えばMAN市場における既存のSONETネットワークの性能を6倍にまで引き上げることなどができるという。 同社はさらに、アジア・太平洋地域へも販売拠点を拡大し、グローバルな事業展開に向けて着々と準備を進めている。また、7月には、IPサービス・プロバイダーであるアバティス・システムズ(Abatis Systems)を6億3,200万ドルで買収するなど、戦略的M&Aを実施している。10月には東京メタリック通信もSMSを導入すると発表している。


  3. シカモア・ネットワークス(Sycamore Networks)http://www.sycamore.com

    創設:1998年、本社:マサチューセッツ州チェルムスフォード
    売上:(2000年度、7月末)1億9,810万ドル(前年比1,649%増)
    主力製品:光通信機器
    主要顧客:ウィリアムズ・コミュニケーションズ、エンロン・コミュニケーションズ

     光通信機器の新興メーカー、シカモアの会長で創設者でもあるデシュ・デシュパンデ氏は、通信機器業界を代表する最も成功している起業家として有名であり、シカモアを設立する前には、コラル・ネットワークス(Coral Networks)、カスケイド・コミュニケーションズ(Cascade Communications)などを設立している。とりわけ、90年設立のATMスイッチメーカー、カスケイドは、91年から97年の間に年間売上高5億ドルの企業へと成長し、97年にはアセンド・コミュニケーションズ(Ascend Communications)に買収されており、新興メーカーのサクセスストーリーを体現した企業として大きな注目を集めた。

     シカモアの製品は、ネットワーク・サービス・プロバイダーが使用している光ファイバーネットワークの帯域幅を拡大するものであり、光スイッチやネットワーク管理ソフトウェアなどを提供している。

     シカモアは99年10月にIPOを果たし、上場初日にして株式時価140億ドルを記録した。99年の売上高が1,100万ドル足らずの企業に100億ドルを超える時価がつくのは前代未聞であり、光通信機器市場の急成長ぶりを改めて示す出来事となった。また同社は、98年下半期にはゼロであった売上高を1年で4,900万ドルにまで引き上げるなど、目を見張る成長を続けている。 同社はさらに2000年6月、光通信アクセス機器のメーカーであるシロッコ・システムズ(Sirocco Systems)を29億ドルで買収し、エンド・ツー・エンドの光通信ソリューション提供を目指して、10月にはシロッコ設計のMAN用スイッチ製品を発表した。 シカモアが今後、取り組むべき課題として挙げられるのが、顧客ベースの拡大であるが、10月にベルサウスとの大型商談をまとめており、大リーグへの参加がなったとアナリストは評価している。  



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