シスコ・システムズ(Cisco Systems)(http://www.cisco.com)
創設:1984年、本社:カリフォルニア州サンノゼ
売上:(2000年度、7月末)189億ドル(前年比55%増)
従業員数:3万5,000人(うちベイエリアに1万4,000人)
主力製品:ルーター、スイッチ、ネットワークセキュリティ製品
沿革
シスコ・システムズは、言うまでもなく世界の通信機器市場を代表するコンピュータ・ネットワーク機器メーカーの最大手で、時価総額で世界最大の企業である。インターネットの基盤となるルーターやスイッチ市場を完全に支配しており、マーケットシェアは75%と驚異的な数字を誇っている。また、世界のインターネット・トラフィックの90%はシスコの製品を経由していると言われている。
シスコは、インターネットの発展に伴い、パケット型スイッチをベースとしたネットワークインフラへの需要が急速に増加し、そこに特化したことで大成功を収めた。一方、ノーテルやルーセントは、シスコと異なり、機器メーカーとしての歴史も長く、旧来の回線型スイッチに特化した製品ラインを抱えていた。回線型からパケット型へ180度の戦略転換を迫られた旧来の大手メーカーは、新興のシスコに大きく遅れをとることになった。
事業戦略
シスコの急成長を支えた大きな要因として挙げられるのが、戦略的M&Aである。シスコのCEOであるジョン・チェンバーズ氏は、93年から2000年10月までに60社(今年だけで20社)を次々と買収し、製品ラインの拡大に成功している(図表7)。97年辺りまではネットワーク機器メーカーの買収が大半を占めていたが、最近では、ネットワークセキュリティ、ワイヤレス、光通信機器メーカーなどの買収も進んでおり、同社の事業拡大戦略に沿ったM&Aが実施されている。シスコの戦略的M&Aの背景にあるのが、「Acquisition & Development(取得と開発)」と呼ばれる戦略である。Acquisition & Developmentは、既に完成された技術を持つ企業を買収するのではなく、将来、有望と思われる技術の開発を行っている企業を買い取り、買収後に自社内で技術開発と商用化を進めるという戦略である。
図表7:シスコが買収した主要企業
企業名 |
買収額
(ドル) |
買収年 |
主力製品 |
Crescendo Communications |
1 億 |
1993 |
データネットワーク機器 |
Kalpana |
2 億 |
1994 |
イーサーネットスイッチ |
LightStream |
1.2 億 |
1995 |
ATM スイッチ |
StrataCom |
45 億 |
1996 |
ATM スイッチ |
Ardent Communications |
1.5 億 |
1997 |
高度ネットワーク機器 |
Global Internet Software Group |
4 千万 |
1997 |
ネットワークセキュリティ |
Precept Software |
8,400 万 |
1998 |
動画送信ソフトウェア |
American Internet Corporation |
5,600 万 |
1998 |
ケーブルモデム用ソフトウェア |
Cerent |
70 億 |
1999 |
光通信機器 |
Sentient Networks |
1.25 億 |
1999 |
ATM 製品 |
Geo Tel communications |
20 億 |
1999 |
コールルーティング用ソフトウェア |
Aironet |
8 億 |
2000 |
ワイヤレスネットワーク |
SightPath |
8 億 |
2000 |
ウェブコンテンツ配信用機器 |
ArrowPoint Communications |
57 億 |
2000 |
ネットワークスイッチ |
Qeyton Systems |
8 億 |
2000 |
光通信機器 |
出典:
hoovers、CISCO
シスコがM&Aにより大きな成長を遂げたのは、同社の事業戦略に沿った製品・サービスの獲得だけでなく、買収した企業のスムーズな統合に負うところが大きい。シスコでは、企業買収の契約が成立したと同時にIT統合の専門チームが稼動し、電話、電子メール、ERP、カスタマーケア、需要予測システム、ウェブサイトなどの統合を60日以内に完成させる。顧客は、買収契約が成立した日から、買収された企業の製品をシスコのウェブサイトで購入することができる。大型M&Aを実施した企業の多くが、技術やITシステムの統合に苦労し、逆に生産性が低下するといったケースが後を絶たない中、シスコは、買収企業のIT統合を専門に行うチームを設けることで、スムーズな統合を実現している。
最新動向、今後の展望
シスコは従来、ルーターやスイッチを代表とするデータネットワーク機器に重点を置いていたが、最近の相次ぐ企業買収を通し、急成長を続けるサービス・プロバイダー市場への進出を果たしている。シスコの事業拡大の背景には、データネットワーク機器市場の成長鈍化が挙げられる。米国では、ATMスイッチを除くと、ルーターやLANスイッチの市場成長率は10%前後となっており、90年代前半の成長率50%から大きく下落している。企業向けのネットワーク機器に特化する戦略に限界を感じたシスコは、大手電話会社を中心とするサービス・プロバイダーに、データ、ボイス、ビデオをまとめて処理・送信できる機器、サービスの提供を目指している。その一環として、2000年7月、SBCと数十億ドル規模に上るサービス契約を締結した。契約では、DSLネットワーク、企業向けVPN、ATMサービスなどにおいて、シスコが関連のデータネットワーク機器を独占的にSBCに提供するというものである。
この契約で勢いをつけたシスコであるが、今後、乗り越えなければならない障害は大きい。サービス・プロバイダー市場は、ノーテルやルーセントといった大手メーカーに加え、多数の新興メーカーであふれ返っている状況である。例えば、IP/ATMスイッチでは、ジュニパー、アイアンブリッジなどが活躍しており、広帯域アクセスでは、コッパー・マウンテン(Copper Mountain)、レッドバックなどがマーケットシェアを巡って激しい戦いを繰り広げている。さらに、光通信機器では、大手メーカーの合間を縫うように、シカモアなどが躍進している。
従来のシスコの戦略では、競争できない新興メーカーは買収するというのが通例であった。しかし、広帯域アクセスや光通信機器市場の新興メーカーは、IPOとともに数十億ドル規模の株式時価総額を記録しており、買収するのが困難になってきている。買収できないメーカーには競争で打ち勝つしかなく、シスコを取り巻く環境は厳しさを増していると言える。