2001年5月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

2000年の回顧と2001年の展望


3.Eコマースの本格化

 Eコマースは、全体的には2000年においてもB to C、B to Bともに成長を続けたと言うことができるであろう。しかし、一方でEコマースを巡る様々な課題が浮き彫りになってきていることも事実である。以下に、オンライン・ショッピングと電子マーケットプレースを取り上げ、2000年の動向と2001年の展望を見てみよう。   


(1)オンライン・ショッピング

 1998年のeクリスマスを契機としてブレークしたオンライン・ショッピングは、2000年に上述のように供給サイドではドットコム・バブルの崩壊を経験したものの、需要自体はインターネット普及率の上昇も手伝って着実に増加した。  


米国の小売業者が年間売上の約4分の1を売り上げるとされる年末商戦(11月下旬のサンクスギビングから12月下旬のクリスマスにかけて)のオンライン・ショッピング動向について、調査会社Jupiter Research(http://www.jmm.com/services/jup/)が2001年1月17日に発表した調査結果によると、2000年の年末商戦に、米国の消費者3,600万人が一人平均304ドル、合計で108億ドルの買い物をオンラインで行ったという。  

図2 年末商戦におけるオンライン・ショッピング
(出展: Jupiter Research)


 また、調査会社PriceWaterhouseCoopers(http://www.pwcglobal.com/)が2001年1月19日に発表した調査結果によると、インターネットユーザーのうち年末商戦期の買い物でインターネットを利用した人の割合は、1999年の69%から2000年には80%に上昇し、実際にオンラインで買い物をした人の割合も、1999年の67%から2000年には74%に上昇したという。  


 これら以外にも、年末商戦に関する調査結果は多数発表されており、そのリストをShop.org (http://www.shop.org/)がウェブサイトに出しているので詳細はそちらをご覧いただければと思う。オンライン・ショッピングは、まだ小売売上高全体に占める割合は微々たるものであり、もちろん商品によって適不適があるのだが、全体的には着々と定着していると言っていいだろう。


 余談になるが、私自身もニューヨークに着任以来、レンタカーの予約、航空券の手配、ホテルの予約、セミナーの参加申込みと参加費の支払、パソコン周辺機器の購入、銀行口座間の資金移動や振込み、オペラや野球のチケット購入など、公私にわたり広くインターネットの御世話になっている。こちらでは市内通話が基本通話料金10セントで時間無制限かけ放題なのでダイヤルアップ接続でもインターネットを長時間使えること、一方でデパートなどのレジやカウンターでは店員の客を客とも思わない態度や能率の悪さから不愉快な思いをすることが多いこと(ニューヨークだけでしょうか?)から、インターネットでできることは極力インターネットで済ませたいと思ってしまう。こんなこともオンライン・ショッピングが流行る一因かもしれない。  


 なお、さらに余談になるが、私の家内は、「コメが簡単に美味しく炊ける」というフランス製のナベのうわさを聞きつけ、早速インターネットでフランスのメーカーのウェブサイトにアクセスして購入した。支払方法を入力する画面では、ユーロ建てとドル建ての価格が選択できるので、手元に円決済とドル決済のクレジットカードを並べて、どちらのカードでどちらの通貨で買うのが得かを考えていた。(皆さんはどうお考えですか。もちろん為替レートの動向などによりますが。) 品物はフランスから無事届いたし、付加価値税も関税もセールスタックスもかからなかったので、何だか釈然としないなと思いつつも、満足度は大きかった。


 さて、全体的には成長を続けているオンライン・ショッピングではあるが、まだまだ課題も残されている。1999年の年末商戦では、注文したのに在庫が無かった、配達が遅れた、商品が届かなかったなどのトラブルが頻発し、連邦取引委員会(FTC)が調査に乗り出してトイザラス社を含む7社が罰金を科されるという事態にまで発展したが、2000年の年末商戦でもこうしたトラブルは無くならなかった。  


 調査会社Accenture (http://www.accenture.com/)が2001年1月22日に発表した調査結果によると、2000年の年末商戦期にオンラインで注文された品物のうち67%が指定された期日に配達されず、12%はクリスマスに間に合わなかった。特にオンライン専業小売業者の遅配発生率が、ブリック・アンド・モルタル(オンライン販売も手掛ける伝統的小売業者)やカタログ通販業者に比べ7%高かったという。また、同社は、オンライン・ショッピングの返品処理に改善されるべき点が多いことも指摘している。


 こうした中で、2000年の年末商戦においては、オンライン専業のドットコム企業が苦戦する一方で、信用のあるブリック・アンド・モルタルが好調だった。調査会社Nielsen//NetRatings (http://www.nielsen-netratings.com/)が2001年1月2日に発表した調査結果によると、2000年11月5日から12月24日までに期間中に利用者が多かったオンライン小売業者のウェブサイトのうち、Amazon.comと提携したトイザラスがトップ、Dellが3位、大手書籍販売Barnes and Nobleが4位、大手量販店Walmartが6位など、ブリック・アンド・モルタル系が上位に食い込んでいる。(表2参照)


表2
 2000年の年末商戦期(11/5〜12/24)に利用の多かったオンライン小売業者のウェブサイト

順位

サイト名

利用者数

順位

サイト名

利用者数

1

amazon.com & Toys R Us

122,996,842

6

walmart.com

18,007,889

2

etoys.com

21,120,709

7

hp.com

15,634,552

3

dell.com

21,001,245

8

buy.com

14,527,981

4

Barnes and Noble

20,248,728

9

jcpenney.com

14,463,598

5

cdnow.com

20,019,849

10

bestbuy.com

12,482,813


(出展: Nielsen//NetRatings)


 長々と年末商戦の話題に終始してしまったが、さて2001年はどうなるであろうか。現時点では、オンライン専業では苦しいという流れは決定的になっているようである。2000年の年末商戦で思ったほど振るわなかったオンライン専業玩具販売のeToysは結局、2001年3月7日に破産法11条の適用を申請し倒産。インターネット販売部門の好調も手伝って増収増益となったトイザラスと明暗を分けた。今年に入って米国経済の減速が明確になってきたことからドットコム企業の重要な収入源であるインターネット広告費も大幅に減少していると言われており、オンライン販売は、ごくごく一部の生き残り組を除いて、伝統的小売業者の多角的な販売チャネルの一つの柱へと収斂していくのであろう。


(2)電子マーケットプレース

2000年には、電子マーケットプレース関連でいくつかの大きな話題があった。
 その一つが、GM、フォード、ダイムラー・クライスラーの旧ビッグ3が中心となって創設した自動車産業の電子マーケットプレース「covisint」(http://www.covisint.com/)である。旧ビッグ3は2000年2月に、それまで各社が別個に検討を進めていた電子マーケットプレースを統合した新しい電子マーケットプレースの設立構想を発表し、covisintと名付けられたこの電子マーケットプレースにはその後ルノー及び日産も参加を表明した。年間調達額が5,000億ドルにも達する自動車産業における巨大な電子マーケットプレースになることが想定されるcovisintに対しては、連邦取引委員会(FTC)も慎重な審査を行なったが、2000年10月にはFTCの審査も完了している。


 また、エレクトロニクス業界では、2000年5月にコンパック、HP、ゲートウェイ、日立、NEC、サムソン、ソレクトロン、SCIシステムズなど計12社(最終的には15社)が参加する電子マーケットプレース「ehitex」(12月に名称を「converge」(http://www.converge.com/)に変更)の創設が、また6月にはIBM、日立、松下、東芝、ソレクトロンなど計8社(最終的には10社)が参加する「e2open」(http://www.e2open.com/)の創設が発表された。


 こうした電子マーケットプレースは、航空、化学、建設、エネルギー、金融、食品、鉄鋼、紙など様々な業種において、ベンチャー系、サードパーティー系、業界コンソーシアム系など様々な事業主体によって、様々なモデルのものが設立されており、その総数は数十から100に及ぶと言われている。


 今後電子マーケットプレースはどのような展開を見せるであろうか。私自身は、EDI全般を含めたB to B市場全体の発展を疑うものではないが、電子マーケットプレースについては調査会社が言うほどバラ色の世界ではないと思っている。電子マーケットプレースというと、とかく「○○業界の年間調達額××億ドル規模の取引市場へ」といった言い方がされるが、多くの業種においてサプライ・チェーンの合理化は企業にとって競争力の源泉であり、またそうだからこそ従来から各社が独自にシステム構築に相当の投資をしてきているので、「みんなで一緒にやれば安くなるからそうしよう」というほど単純なことにはならないと思う。最終的には、参加各社が独自に行なう部分と電子マーケットプレースの機能を活用する部分の棲み分けが、業種ごと、参加企業ごとに判断されていくであろう。こうした中で、電子マーケットプレースがむしろサービス・プロバイダとして、調達に限らず如何に参加企業に活用される機能、参加企業が抱える課題に対するソリューションを提供していけるか、すなわち、電子マーケットプレースが単なる"マーケットプレース"から脱却できるか否かが、電子マーケットプレース発展の鍵になると思われる。



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