2001年7月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるブロードバンドの動向」

 

(3) サターン(Saturn

 

本社:100 Saturn Parkway                       創立:1985

      Spring Hill, TN 37174                   CEO:シンシア・トゥルデル(Cynthia Trudell

Phone800-553-6000                                 CIO:ラルフ・ジジェンダ(Ralph Szygenda

URLhttp://www.saturnbp.com 売上:1,846億ドル(GMの数字)

主要事業:自動車製造(GM子会社)          従業員数:386,000人(GMの数字)

 

ITソリューション・プロジェクト:CRMソフトウェアの導入およびフロントエンドの業務プロセス改革によるカスタマーサービスの向上を目指す。同社はシーベル・システムズのCRMソフトウェアを活用し、顧客1人1人に行き届いたサービスを提供し、顧客定着率の上昇ひいては企業収益の向上の実現を狙っている。

 

<沿革>

 テネシー州スプリングヒル市に本拠地を置くサターンは、ゼネラルモーターズの子会社として、サターンブランドの自動車を製造している。1990年から自動車製造を開始したサターンは、現在までに220万台にのぼる自動車を製造しており、ドルベースに換算すると総額220億ドルを超える。同社は、衝撃に強いポリマー仕様のボディパネルといったイノベーションで知られており、最近では世界初の3ドアクーペである「SCシリーズ」を発表し話題を集めている。

 

 サターンは、環境や安全性を考えた車づくりと良質のカスタマーサービスで定評がある。同社の製品は、エンジニアリングなどの分野で数々の賞を受賞しており、最近では、サターンの主力製品である「Lシリーズ」の最新モデルが、環境への配慮を取り入れた設計により「Automotive Market Environmental Sensitivity Award」を受賞している。さらに、同社のきめ細やかなカスタマーサービスは自動車業界でも12位を争うと言われており、5年ごとにサターン本社で開催されるオーナー向け感謝パーティーには、4万人を超えるオーナーが全国各地から集まると言われており、顧客の定着率の高さを物語っている。

 

 サターンはGMの完全子会社であるため、独自の財務データは発表していない。そこで、サターンも含めたGM自動車部門の売上高推移をみると、1997年には137,000万ドルを記録しており、1998年には129,000万ドルと一時的に下がるものの、1999年には再び盛り返しており、146,000万ドルとなっている。


5 GM自動車部門の売上高推移(単位:億ドル)

(出典: GM

 

ITソリューション導入の背景>

 1990年代を通して急成長を遂げてきたサターンでは、カスタマーサービスに寄せられる電話や電子メールの件数が急増していた。また、同社のアグレッシブなマーケティング戦略が効を奏し、車種や関連サービスに関する問い合わせの電話も殺到するようになった。そのため、カスタマーサービス・スタッフへの負担が増加し、顧客11人に行き届いたサービスを提供することが困難となった。事実、自動車メーカーの格付けを行うJ.D. Power Associatesによると、サターンは19951998年まで「顧客満足度」で首位に君臨していたものの、1999年には6位に急落している。

 

 そこでサターンは、カスタマーサービスのスタッフを増員せずに、顧客11人とのコミュニケーションを効率的に管理する体制を整えるべく、CRMCustomer Relationship Management[6]ソフトウェアの導入に踏み切った。

 

<導入戦略>

 サターンは、CRMソフトウェア導入のパートナーとしてEDSを選んだ。EDSは、CRMソフトウェアの大手ベンダーであるシーベル・システムズ(Siebel Systems)のソフトウェア導入を手がけ、サターンの販売、マーケティング、コールセンターといった業務の統合を進めている。CRMソフトウェアの導入に加え、EDSは、サターンのカスタマーサービスのプロセスを抜本的に改革すべく、現状や問題を徹底的に分析し「One-Call Resolution」と呼ばれる新戦略を立案した。One-Call Resolutionは、顧客と直接コンタクトのあるスタッフへのトレーニング戦略である。戦略では、顧客からの問い合わせに答えられるよう必要なスキル、知識を身につけさせ、さらに、CRMソフトウェアの効率的な利用方法に関するトレーニングを行うといった狙いがある。

 

 また、サターンは20001月、CSCをはじめとするIT企業数社と契約を結び、CRMソフトウェアと既存のディーラー向けシステムを統合する計画を発表した。サターンは通常、親会社GMとのつながりが強いEDSIT導入における技術パートナーとして選択することが多い。しかし最近では、EDSの競合社であるITソリューション企業も検討するようになっており、自社のニーズに最適なサービスを提供できるソリューション企業を選ぶ傾向が強まっている。

 

 計画では、異なる事業にまたがったウェブベースの業務管理システムの構築が進められる。CSCとの契約では、システム開発に15カ月を費やし、その後1年で導入、残りの5年はシステムサポートサービスを提供することになっている。新業務管理システムが完成すれば、サターンの取引先企業や消費者は、自動車修理履歴の閲覧から自動車ローン、リース情報の入手といった一連の作業をウェブ上でセルフサービスで行うことが可能となる。

 

<導入効果>

 サターンは、ITソリューションを導入してカスタマーサービス部門を一新したことにより、顧客からの問い合わせや苦情を効率的に管理できるようになった。例えば、カスタマーサービスに寄せられる電話や電子メールのうち、全体の95%がその場で対応できるようになり、迅速な対応が可能となった。

 

おわりに

 

 日経ビジネスなどを読んでいると、日本の企業においても様々な形でITソリューションが導入され成果をあげており、今回取り上げたようなITソリューションの導入事例は、もはやそれほど目新しいものではないかもしれない。また、当然のことながら国によって、また企業によって業務プロセスやビジネスプロセスが異なり、ITソリューションの導入により解決すべき課題も異なるので、今回取り上げたケーススタディのまねをしても意味がないだろう。

 しかしながら、ケーススタディにおいてITソリューション導入が成功した要因となっている、明確でわかりやすいITソリューション戦略の設定、ITソリューション企業との密接な関係の構築、経営トップの強力な関与、IT導入にあわせた業務プロセスやビジネス・プロセスの思い切った変革、などといった点は、大いに参考とすべきであろう。

 来月の本報告で詳述するつもりだが、先日、電子政府関連のイベントである「e-gov 2001」で、米国連邦政府GAOGeneral Accounting Office)長官のDavid Walker氏のスピーチを聞く機会があった。彼は質疑応答の中で、電子政府推進にあたり最大の課題は「人」であり、次に「業務プロセス」であり、その次が「技術」だと言っていた。電子政府とは言わば政府へのITソリューションの導入であるから、この言葉はそのままITソリューション全般にもあてはまるであろう。

 ITソリューションに関して日本は米国よりも遅れていると言われるが、その原因はITソリューション企業の技術力や提案能力の低さだけの問題ではない。ITソリューションを導入する企業の、社員のIT教育や業務プロセスの変革が伴わなければ、ITソリューションはうまくいかないであろう。このような点で如何に日本の産業界が変わっていけるかに、日本のITソリューション・ビジネスの発展の鍵があると思われる。

(了)

 

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[6] 顧客関係管理と訳される。顧客と接する機会のある全ての部門で顧客情報とコンタクトの履歴を共有・管理し、どのような問い合わせがあっても常に最適な対応ができるようにするためのソフトウェアを指す。マーケティングから見込み顧客の発掘、商談成約、商談成立後の保守サービスや問い合わせ対応といった商談のライフサイクル全体にわたって顧客関係を深め、企業収益の向上に結びつける狙いがある。CRMソフトウェアの代表的ベンダーとしては、シーベル、バンティブ(Vantive2000年にERPベンダー大手のピープルソフトに買収された)などが挙げられる。

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