2001年7月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるブロードバンドの動向」

 

3.ユーザー企業のケーススタディ

 

 以下に、ITソリューションを導入することで業務改革を実現し、現在もさらなるエクセレンスを追及しているフォーチュン500級企業をケーススタディとして取り上げる。

 

(1) デュポン(E.I. du Pont de Nemours

 

本社:1007 Market St.                                創立:1802

      Wilmington, DE 19898                 CEO:チャールズ・ホリデー(Charles Holiday

Phone302-774-1000                                 CIO:トーマス・コネリー(Thomas Connelly

URLhttp://www.dupont.com                   売上:2826,800万ドル(2000年)

主要事業:化学薬品製造                             従業員数:9万4,000人(2000年)

 

ITソリューション・プロジェクト:IBMのグループウェア「Notes」を導入し、社内の電子メールプラットフォームを統一、さらに、世界各地に散在する研究員、社員がウェブベースで情報を共有できる環境を構築した。これにより、リアルタイムでプロジェクトを進めるための協同作業が可能となり、新製品の開発サイクル短縮、事務処理コストの削減などを達成した。

 

<沿革>

 デラウェア州ウィルミントン市に本拠地を置くデュポンは、米国最大の化学薬品メーカーである。デュポンは、世界70カ国に生産拠点を持ち、食品、ヘルスケア、農業、アパレル、建設、エレクトロニクスといった多岐にわたる業界に化学製品を提供している。デュポンが提供する製品には、被覆剤、ポリマー、ナイロン、特別繊維、ポリエステル、除草剤、医薬品、バイオテクノロジー関連製品などが含まれる。

 

 デュポンは最近になり、中核事業である化学薬品製造に力を入れるため、戦略的重要性の低い事業部門の切り離しを行っている。同社は1999年、エネルギー部門の「Conoco」をスピンオフしており、現在は、医薬品部門のスピンオフを検討中である。デュポンは、ITソリューションという言葉が聞かれるようになる前から、戦略的なIT導入を推し進めて業務改革を行ってきた先駆者として知られる。デュポンのIT導入に影響を受け、他の化学薬品メーカーも相次いでITソリューションを導入するようになり、業界全体の情報化、競争力強化が一気に進んだ。

 

 

 

 

 

 




デュポンは、1990年代後半から順調に売上を伸ばしており、1996年には230億ドルであった売上が、1999年には260億ドルを突破し、2000年には282億ドルを記録している。

2 デュポンの売上高推移(単位:億ドル)
(出典: デュポン)

 

ITソリューション導入の背景>

 デュポンの中核事業である化学薬品製造は、大きく分けると、@大量生産される一般化学薬品、Aカスタム製造が中心の特殊化学薬品、B急成長するライフサイエンス部門、の3つの分野から構成される。これら3つの分野における競争は今までになく激しさを増しており、デュポンでは、生産性の向上、業務の効率化が課題となっていた。

 

 まず、一般化学薬品では、低コストでの大量生産を武器に成長を続ける中小メーカーが相次いで市場に参入しており、競争が激化している。そのためデュポンは、コスト削減、生産プロセスの大幅な効率化を求められていた。また、特殊化学薬品では、一般化学薬品のようにコスト切り下げの圧力は少ないものの、研究開発やマーケティングといった戦略が重要となり、社員間の協力体制構築が不可欠となった。そして最後に、デュポンが幅広く手がける事業の中でも急成長を遂げているライフサイエンスでは、新製品開発のための研究活動が鍵となるため、多岐にわたる研究分野の専門家を結集し、知識や情報の共有を促進する環境づくりが重要になった。

 

 このようにデュポンでは、市場競争に打ち勝つため、コスト削減、研究・生産活動の効率化、研究者やその他社員間の情報共有の促進といった対策を講じる必要性が高まっていた。さらに、1990年に同社のCIOに就任し、社史上初の女性幹部となったシンダ・ホールマン女史が、投資収益率の高いIT導入プロジェクトを促進するための幹部委員会「Business Information Board」を1995年に設立し、社内でのIT活用による業務改革の動きが一気に高まった。その結果、社員間のコラボレーション(協同作業)を実現するためのITソリューションの導入が決定された。

 

 同社では、従来から各事業部門が独自の電子メールプラットフォームを使っており、部門間でシンプルなテキスト以外のメッセージ交換が行えないという問題を抱えていた。そのため、物理的に離れたオフィスや研究所にいる社員同士は、電話やファックスといった通信手段に依存しており、効率的な情報交換が行えない状況にあった。そこで、ウェブベースのコラボレーションツールを導入することにより、世界中どこにいてもオンラインでリアルタイムの情報交換が行え、プロジェクトを進行できる環境づくりが開始された。

 

<導入戦略>

 デュポンが「C3PCommunication, Collaboration, and Coordination Program)」と呼ばれるオンライン・コラボレーションのプロジェクトに着手したのは1995年までさかのぼる。同社は当初、アンダーセン・コンサルティング(現アクセンチュア)をアプリケーション開発のパートナーに、IBMをソリューションパートナーに選び、システム・インテグレーションはCSCにアウトソーシングした[2](図3参照)。デュポンは、オンライン・コラボレーションのツールとして、グループウェア[3]の代表格であるロータスの「Notes」を選び、1995年の後半に局部的な導入を開始した。ロータスシステムの導入を含めたアウトソーシング契約は、総額40億ドルという前代未聞の規模となり、化学業界関係者らを驚かせた。

 

 1997年には、企業全体のオンライン・コラボレーションを最も効率的に導入・展開するためのアプローチが検討され、Notesの本格的導入が始まった。1998年には6,000人への導入が行われ、その後、1万人を超える社員へのシステム展開が進められた。しかし、社内のIT部門だけでは、世界各地に散在する何万人もの社員へのNotes導入が困難となり、システムのアーキテクチャ設計や迅速な導入において豊富な経験を持つIBMが、サーバーなどのハードウェア機器とソフトウェア提供だけでなく、導入・展開戦略のパートナーを兼任することになった。

 

3 デュポンのオンライン・コラボレーションプロジェクト概要

 

(出典: ワシントン・コア作成)

 


 IBMは、グローバルな規模でのNotes導入プロジェクトをいくつも手がけており、他のITソリューション企業とは比較にならないほどの経験とノウハウを持っていたため、デュポンのプロジェクトにおいても活躍した。また、単なるNotesの導入だけでなく、システム・セキュリティの強化、サービスレベルアグリーメント(Service Level AgreementSLA[4]に関するコンサルティングといった包括的ソリューションサービスを提供している。

 

 デュポンは、2000年末において6万人の社員へのNotes導入を完了しており、2002年には合計8万人の社員がNotesを利用できる見込みとなっている。

 

<導入効果>

 Notesの導入をはじめとしたオンライン・コラボレーションの整備は、デュポンに大きな変化をもたらした。まず、Notesの導入により、世界各地の研究者らがオンライン上に集まり、アイデアの交換や共同作業を行えるようになったことで、研究プロセスに費やされる時間が大幅に削減されたのに加え、事業において重要な意思決定を下す幹部らがオンラインで情報の交換・共有を行うことで、意思決定にかかる時間が50%以上削減されたケースも報告されている。さらに、業務プロセスや価格の変更といった作業も短時間で行えるようになり、市場の急速な変化に素早く対応できる体制が整えられた。

 

 デュポンは今後、2002年末までにNotesの導入を完了し、世界中の社員がNotesを利用できる環境を整備する予定である。その後には、SAPERPソフトウェアであるR/3Notesを5年かけて統合し、社員全員がNotesを通して企業全体のデータベースにアクセスし、業務の進捗状況をリアルタイムで把握できる体制づくりを進めると意欲をみせている。

 

(2) DHLワールドワイド・エキスプレス(DHL Worldwide Express

 

本社:333 Twin Dolphin Drive                  創立:1969

      Redwood City, CA 94065               CEO:ビクター・ギナッソ(Victor Guinasso

Phone650-593-7474                                 CIO:ショーン・ファシチ(Shawn Farshchi

URLhttp://www.dhl.com/                         売上:51億ドル(1999年)

主要事業:エキスプレス配送サービス         従業員数:6万3,600人(1999年)

 

ITソリューション・プロジェクト:IBMのミドルウェア「MQ Series」、グループウェア「Notes」を活用し、顧客向け多機能ウェブサイト「DHL Connect」を構築した。最新ウェブサイトでは、競合社に配送を依頼した小包も含めたトラッキング、配送コストの見積り、海外配送の際の必要税関文書の作成といった作業を、顧客が一括してセルフサービスで実施できる。DHL Connectの立ち上げにより、同社は年間400万ドルにのぼる経費削減を達成できるとみている。

 

<沿革>

 カリフォルニア州レッドウッドシティに本拠地を置くDHLワールドワイド・エキスプレスは、世界最大の海外エキスプレス配送業者である。DHLは、米国内のエキスプレス配送を手がける「DHL Airways」と、海外のエキスプレス配送を手がける「DHL International」の2部門から構成される。DHLがカバーする配達地域は230カ国を超えており、635,000都市へのエキスプレス配送を行っている。

 

 DHLは最近になり、グローバル・ロジスティクス管理といった付加価値サービスを提供しており、単なる荷物配送だけではなく、包括的なロジスティクス・ソリューションを提供する企業へと転身を図っている。DHL Internationalは、欧州最大の配送業者であるドイツポストとルフトハンザ航空がそれぞれ25%ずつを所有しており、今後、ドイツポストが持ち分を51%に拡大する見込みである。

 

 DHLの売上高をみると、1990年代を通して堅実に成長を遂げているのがわかる。同社の1995年の売上は38億ドルとなっており、1997年には48億ドルに、最新データである1999年の売上は51億ドルとなっている。

 


4 DHLの売上高推移(単位:億ドル)

                             (出典:hoovers.comhttp://www.hoovers.com

 

ITソリューション導入の背景>

 エキスプレス配送市場は、フェデラル・エキスプレス、UPSといった大手業者が熾烈な争いを繰り広げるダイナミックな市場である。また、大手配送業者は、より正確でより速い配達、良質のカスタマーサービスなどを実現するためにITを積極的に導入することで知られており、他社との差別化のためにいかに戦略的にITを活用するかが競争の鍵を握っている。

 

 そこでDHLは、新規顧客の獲得、顧客定着率の向上といったフロントエンドの充実を図るため、顧客企業の配送業務やロジスティクス管理をサポートするウェブサイト「DHL Connect」の構築を決定した。DHL Connectは、配送荷物回収のスケジュール設定、宛先ラベルの作成・印刷、輸出関連文書の作成、荷物のトラッキング、配送コストの見積りまで、企業の配送業務に必要となる作業の全てをオンラインで行える画期的サイトである。

 

<導入戦略>

 DHL Connectの構築が決定されたのは1995年である。ウェブサイトの構築決定当時は、ダイアルアップ接続を利用したアーキテクチャが検討されていた。しかし、その頃ちょうど急成長を遂げていたインターネット技術を取り入れるべきとの声が高まり、アーキテクチャが大きく変更され、多岐にわたる付加価値サービスを提供できるサイトの構築が始まった。

 

 DHLは、DHL Connect構築のソリューションパートナーとしてIBMを選んだ。同社はまず、サイト構築に必要な新アプリケーションとDHLのレガシーシステムを統合するために、IBMのミドルウェア[5]MQ Series」を導入、端末のインターフェースにはロータス「Notes」が選択された。

 

 同社は1996年、DHL Connectのテスト版を構築して実験的導入を実施、しかし、ウェブベースの本格的システム構築には、当初の予想を大幅に上回る資金と人材が必要となることが明らかとなり、プロジェクトが一時中断した。しかし、DHLは迅速にプロジェクト体制の立て直しを実施し、1997年末にはサイトのベータ版を完成させた。ベータ版テストが終了した後、1998年5月には、800社を超える中小の顧客企業がDHL Connectを使用するまでに至った。さらに、19987月には同サイトの最終版が完成し、数カ月後には7,000社にのぼる顧客企業がDHL Connectへアクセスできるまでになった。

 

 DHLがウェブサイト構築プロジェクトを迅速に実施できた背景には、同社の積極的なビジネスプロセス改革が存在する。とりわけ、DHL Connectを実施する上で最も重要となる@カスタマーサービス、A取引処理といった業務のプロセスは徹底的な見直しが行われた。カスタマーサービスでは、従来の電話による質問・苦情対応が大幅にカットされ、荷物回収のスケジュール設定や梱包材料の注文などが全てオンライン化された。さらに、荷物のトラッキングサービスにおいては、DHLだけでなく、競合社のフェデラル・エキスプレスやUPSを使って送った荷物のトラッキングも1つのページから行えるという画期的な機能を提供し、注目を集めている。顧客企業の多くは、国内航空輸送、海外輸送、地上輸送など、輸送のタイプ別に配送業者を使い分けている場合が大半であり、全業者のトラッキングをまとめて行えるサービスは人気を博している。

 

<導入効果>

 DHL Connectの導入による経費削減効果は、サイトの立ち上げ直後から如実に表れることとなった。同社が独自に行った調査によると、DHL Connectの導入により、取引当りのコストが75セント〜1ドル節約できるようになった。DHLは、オンラインでの取引が全体の取引総数の10%を占めるまでに成長していると報告している。同社が年間に扱う取引総数が4千件を超えることを考えると、DHL Connectによる年間の経費節約総額は400万ドルにのぼる。

 

 また、DHL Connectの導入効果は、経費削減だけでなく、新規顧客の獲得といった恩恵ももたらしている。例えば、フェデラル・エキスプレスの大型顧客であった某銀行は、オンライン上での請求書の情報入力にかかる時間が、フェデラル・エキスプレスは6分であるのに対し、DHLではその半分の3分で済ませられるということから、フェデラル・エキスプレスとの契約を破棄し、DHLと新たな取引関係を結んでいる。




[2] デュポンは、オンライン・コラボレーションのプロジェクトに加え、1997年にCSCと巨大アウトソーシング契約を締結している。42億ドル規模と言われる同契約では、CSCがデュポンのITインフラ管理を一括して担当しており、メインフレーム、デスクトップ、通信サービスなどを提供している。さらにCSCは、アプリケーション開発も手がけており、デュポンにおけるSAP R/3ソフトウェアの導入も実施している。

[3] 企業などの組織内のコミュニケーションや情報共有を効率的に行うためのソフトウェアである。グループウェアには、電子メール、スケジュール共有、文書共有などの機能を持つものが多いが、最近では単なる情報共有だけでなく、アイデアやノウハウの蓄積などにも活用されるようになっている。また、従来は社内専用ネットワーク上での利用に限られていたが、現在はインターネット技術を取り入れ、インターネット経由でブラウザを利用してグループウェアの機能を利用する製品が増えている。

[4] 情報通信サービスを提供するプロバイダーが、顧客に対してサービス品質を保証するための契約を指す。契約条件が守られない場合には賠償金を支払うといった措置がとられる。

[5] OSとユーザー・アプリケーションの間に位置するソフトウェアの総称である。ミドルウェアを利用すると、ハードウェアやOSの種類に関係なく共通して使えるアプリケーションを開発できる。

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