2002年7月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるワイヤレス市場の動向」(その1)



(3)          デジタル方式別にみた加入者数推移

米国では、デジタル方式としてTDMACDMAGSMiDEN4つの方式が使われている。(念のため以下にこれらの簡単な説明を掲載しておく。)

 

米国におけるデジタル方式

1.        TDMA: Time Division Multiple Access(時間分割多重方式)の略。1つの周波数を短時間ずつ交代で複数の発信者で共有する。

2.        CDMA: Code Division Multiple Access(符号分割多重接続)の略。複数の発信者の音声信号にそれぞれ異なる符号を乗算し、すべての音声信号を合成して1つの周波数を使って送る。受け手は自分と会話している相手の符号を合成信号に乗算することにより、相手の音声信号のみを取り出すことができる。韓国、香港、米国、日本などで採用されている。

3.        GSM: Global System for Mobile Communicationsの略。欧州で標準化されたTDMA方式を用いたデジタル携帯電話システム。欧州やアジアを中心に100か国以上で利用されており、デジタル携帯電話の事実上の世界標準。現在800MHz1,800MHz1,900MHz3つの周波数帯が使われている。米国では1,900MHz帯が利用されている。

4.        iDEN: integrated Digital Enhanced Networkの略。米モトローラ社が開発したSMRSpecialized Mobile Radio)ネットワーク向けのデジタル携帯電話方式。

 

図表5は、デジタル方式別にみた加入者数の推移を示したものである。アナログ方式(AMPS: Advanced Mobile Phone Service)加入者が主流であった1997年時点では、デジタル方式としてはTDMAが最も普及していたが、2000年になってCDMAのシェアが若干TDMAを上回り、CDMA40%、TDMA38%となった。このように、米国におけるデジタル方式はCDMATDMAでおよそ80%を占めており、欧州やアジアで中心的に利用されているGSMは、米国で利用されているデジタル方式の10%程度を占めるにすぎない。

 

図表5 方式別に見た加入者数(1997年〜2000年)

方式

1997

1998

1999

2000年

19992000

変動率

2000

シェア

TDMA

3,800

8,700

18,300

25,900

44%

38%

CDMA

1,400

6,400

15,600

26,800

72%

40%

GSM

1,200

2,700

5,200

7,900

52%

12%

iDEN

1,300

2,900

4,800

7,100

48%

10%

デジタル加入者

7,700

20,700

43,600

67,700

55%

100% 

アナログ加入者

47,600

48,500

42,400

41,800

-1%

 

全加入者

55,300

69,200

86,000

109,500

27%

 

(出展: FCC

 


図表6 デジタル方式別に見た加入者数の推移(1997年〜2000年)

(出展: FCC

 

(4)          主要モバイル通信事業者と加入者数

ここ数年の業界再編により、米国におけるモバイル通信市場はめまぐるしく変化してきた。1999年から2000年にかけては大規模な合従連衡があり、その結果、それまでトップ事業者としての地位を保っていたAT&T Wireless3位に転落し、代わってVodafon GroupによるVerizon Wireless1位、BellSouthSBC Communicationsの統合によって誕生したCingular Wireless2位となった。

Verizon WirelessCDMA方式を採用し、Cingular WirelessTDMAGSMの双方を広く運営している。AT&T Wirelessは単独で全米規模のTDMAネットワークを構築し、現在はGSM/GPRS(注1)にアップグレード中である。また、合従連衡に関与せず単独で全米規模のCDMAネットワークを構築し、他社に先駆けてワイヤレス・ウェブ・サービスの提供を開始したSprint PCS4位となっている。5位のNextelは、全米でのiDENネットワークの運営で独自色を出している。また6位は、合従連衡によりGSM連合を構成するVoiceStreamである。都市部から離れた地方においてサービス提供を行う独立系のUS CellularAlltel、新興事業者のDobson Cellularなども中堅事業者として順調に推移している。図表78は、20022月現在の米国のトップ10モバイル通信事業者を示したものである。

 

(注1GPRS: General Packet Radio Serviceの略。GSM方式の携帯電話網を使ったデータ伝送技術。第2.5世代(2.5G)と呼ばれる技術の一つである。パケット単位でのデータ送受信が可能であり、通信速度は最大115kbpsと従来のGSM(最大9.6kbps)よりもはるかに高速になる。


図表7 加入者数で見た米国のモバイル通信事業者トップ1020022月)

(出展: 各社資料をもとにワシントン・コア作成)

 

図表8 加入者数で見た米国のモバイル通信事業者トップ10と採用方式(20022月)

 

事業者名

加入者数

2001

新規加入者

方式

1位

Verizon Wireless 

2,940万人

280万人

CDMA

2位

Cingular Wireless 

2,160万人

200万人

TDMA&GSM

3位

AT&T Wireless

1,800万人

290万人

TDMA&GSM

4位

Sprint PCS

1,350万人

400万人

CDMA

5位

Nextel

870万人

190万人

iDEN

6位

VoiceStream

700万人

220万人

CDMA

7位

Alltel

650万人

N/A

TDMA&CDMA

8位

US Cellular

350万人

35万人

TDMA&CDMA

9位

Dobson Cellular

130万人

16万人

TDMA&CDMA

10位

Western Wireless

110万人

12万人

AMPS&TDMA

(出展: 各社資料をもとにワシントン・コア作成)

 

(5)          モバイル・データ通信サービスの利用状況

米国におけるモバイル・データ通信サービスとしては、Sprint PCSVerizon Wireless1999年にインターネット接続サービスを開始し、AT&T WirelessNextel2000年第2四半期に、AlltelCingular Wireless2000年第3四半期にインターネット接続サービス開始している。またVoiceStream2000年末に限られた範囲でのインターネット接続サービス開始している。しかし、これらは現在のところはまだ法人ユーザーがターゲットであると言えるであろう。FCCによれば、2000年末までに250万人以上が携帯電話からのインターネット接続サービスを利用しており、これは携帯電話加入者の約2.3%に当たるとしている。

図表9は、トップ事業者上位7社の携帯電話加入者の、携帯電話からのインターネット接続サービス利用割合を示したものである。加入者のデータ通信利用がもっとも高いのはNextel15%、次がSprint PCS10%、そしてVerizon WirelessAT&T Wirelessがそれぞれ4%となっている。Sprint PCSNextelは、企業サーバーへの遠隔アクセス・サービス提供など、法人向けデータ通信サービス展開に積極的であることが知られている。


図表9 モバイル・データ通信サービスの利用者割合(200112月)

(出展: 各社資料をもとにワシントン・コア作成)

 

このように、米国における一般消費者へのモバイル・データ通信サービスの普及が遅れている要因としては、PCによるインターネット接続が早くから普及し個人・ビジネスを問わず一般的なコミュニケーション・ツールとして利用されていること、PDAや双方向ページャー(送信機能を持ったポケベル)を利用するビジネスマンが多いことなどが挙げられるであろう。携帯電話を音声通信、PDAを個人情報管理ツール、双方向ページャーをデータ通信端末として使い、自宅ではPCを使ってインターネット接続するなど、それぞれを使い分ける者も少なくない。さらに、ニューヨークのマンハッタンなど極々一部の地区を除いて完全な車社会であることから、車での移動中に携帯電話を使ってインターネット接続することはないため、日本人のように移動中、特に電車の中で携帯電話を使ってデータ通信するという利用状況がないことも、携帯電話を使ってのインターネット接続の割合が非常に低い理由として挙げられている。

 



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