2002年7月  JEITAニューヨーク駐在・・・荒田 良平

「米国におけるワイヤレス市場の動向」(その1)



2.           主要モバイル通信事業者のプロフィール

(1)          Verizon Wireless

Verizon Wirelesshttp://www.verizonwireless.com/)は、20004月、Bell Atlantic MobileAirTouch Communications Inc.PrimeCo.のモバイル通信事業の統合により設立された米国最大のCDMAモバイル通信事業者で、後にGTE Corpのモバイル通信事業も加えられた。全米90%に及び範囲にサービスを提供しており、業界トップの加入者数(約2,940万人)を誇る。現在、「簡単・全米・低価格、参加しよう(Simple National Affordable. Join In.)」といった広告スローガンを掲げ、一般消費者、特に若者向けのマーケティングを積極展開し、さらなる顧客獲得を狙っている。20022月、全米10市場において全米初の第3世代(3G)サービス(注2)であるcdma2000 1XRTT(注3)サービスを開始し、現在もネットワークを拡張中である。Verizon Wireless合併後のブランド名統一には成功しているが、システム統合や統一した顧客サービス提供の面で課題を抱えていると言われる。

(注23Gサービス: ここで言う3Gサービスとは、既存の帯域(800MHzおよび1,900MHz)を活用した高速モバイル通信サービスを指す。米国では3G用帯域の国際標準として指定された806-960MHz1,710-1,885MHz2,500-2,690MHzのアロケーションが遅れており、大手モバイル通信事業者は既存帯域を活用した高速モバイル通信サービスを開始している。現在米国では、この高速モバイル通信サービスを3Gサービスと呼んでいる。

(注3cdam2000 1XRTT: cdma2000はワイヤレス通信用の第3世代(3GIMT-2000規格に準拠するもので、@フェーズ1(=1XRTT)、Aフェーズ2(=3XRTT)の2つのフェーズで利用可能である。cdma2000 1XRTTでは既存のCDMAチャネルをそのまま使用でき、占有周波数帯域も既存のCDMAチャネルと同じ1.25MHzで、144kbpsまでのデータ通信が実現される。(通信速度の点では2.5G相当である。) なお、cdma2000 3XRTT では、5MHzの占有周波数帯域が要求され、歩行時で最大384kbps、静止時で最大2Mbpsのデータ通信が実現される。

 

(2)          Cingular Wireless

Cingular Wirelesshttp://www.cingular.com/)は、200010月にBellSouth CorporationSBC Communications, Inc.のモバイル通信事業の統合によって誕生した、業界第2位のモバイル通信事業者である。中西部や南部などの既存市場においてシェアとブランド認知度が高い点が特徴である。こうした地域には、全米で高いモバイル保持率を誇るシカゴやアトランタなどが含まれている。このような市場で勝ち残ってきたのは、同社の戦略が中西部・南部の人々のライフスタイルに合っていたためであると分析されている。中西部・南部で人気の高いサービスは、家族との市内通話が無料で、請求書が一本化されている「ファミリープラン」である。モバイル・データ通信サービスの開始、カバレッジの拡大などに取り組んでおり、一部市場ではGPRSサービスを開始、さらにGPRSネットワークを拡張中である。Cingular WirelessVerizon Wireless同様、若者向けのマーケティングを積極展開している。単一方式でサービス提供する事業者が多い中、同社はGSMTDMAの両ネットワークを運営しているが、現在GSM/GPRSネットワークに統一中である。そのため、このようなネットワーク拡張コストの負担が大きくなる欠点が指摘されている。地域により別々に付けられていたブランド名を統合し、ブランド力を強化することが最優先課題の一つとされている。

 

(3)          AT&T Wireless

AT&T Wirelesshttp://www.attws.com/)は、2000年前半までは米国モバイル通信業界のリーディング企業として最大の顧客シェアを誇っていた。競合他社の相次ぐ合併により、現在のシェアは第3位まで低下する結果となったが、今でも全米規模で高いブランド認知度と信頼度を誇っている。これまでに、全米規模でのワンレート・プラン「デジタル・ワンレート」や、携帯電話からのデータ通信サービス「ポケットネット」など革新的なサービス展開を進めてきた。このような革新的なサービス展開を進めてきた背景には、顧客ベースの増加と収益基盤の確保に成功してきたことが挙げられる。同社のARPUAverage Revenue Per User)が68.5ドルと主要モバイル通信事業者の間で目立って高いのが特徴である。同社は、エリクソンと提携することでTDMAからGSM/GPRSネットワークへのアップグレードを進めている。同社は20024月より、米国17市場において、次世代携帯 Web サービスとして、日本で大成功した「i-mode」の米国版である「mMode」をGPRS上で開始した。mMode の表示画面はカラー8行画面で、カラー情報やグラフィックを多用したコンテンツ提供が可能となった。2002年夏にはWAP(注4)とHTML のデュアル・ブラウザを搭載した次世代電話機を発売予定で、全てのコンテンツが同社の高速データ・ネットワークを通じて提供されると言われている。

(注4WAP: Wireless Application Protocolの略。携帯電話などの携帯端末用の通信プロトコル。Ericsson社、Motorola社、Nokia社、Unwired Planet社(現Openwave Systems社)によって設立されたWAP Forumによって策定された。無線区間ではデータを圧縮して転送するなど、少ないリソースや遅い転送速度でも効率よく通信が行えるように工夫されている。

 

(4)          Sprint PCS

Sprint PCShttp://www.sprintpcs.com/)は、長距離通信事業者Sprintの子会社であり、後発ながらこの数年間で劇的な成長を遂げた事業者として知られている。PCSライセンス取得によりモバイル通信事業に参入したため、他の大手事業者と比較すると同社のモバイル通信事業への参入は遅かった。そのため、1996年〜1998年はカバレッジの拡大や顧客獲得などの面で他社に遅れをとっており、トップ10としては名前があがらなかった。その後、100%デジタルのCDMAネットワークを全米に拡大しながら、音質の良さとカバレッジの広さを武器に顧客獲得戦略に成功した。この背景には販売店の拡張に加え、OTAOn The Airの略。携帯電話購入後、電話をかけて必要事項を伝えるだけで、購入した携帯電話を使用可能な状態にすることができること。)でのアクティベーションが可能なPCS事業者としての優位性を活かした小売店との提携による流通拡大戦略がある。「新サービスはSprint PCSから」と言われるように、常に新たなサービス展開を進めており、1999年には全米ではじめて本格的なWAP対応のデータ通信サービスを開始した。最近ではMP3プレーヤー内臓のモバイル通信端末を販売するなど、最新サービスを武器に他社との差別化を図っている。同社のスローガンは「セルラーにとって代わるモバイル通信サービス(Clear Alternative to Cellular)」であり、PCS事業者であることを前面に押し出した事業拡大戦略に取り組んでいる。現在同社は、cdma2000 1XRTTへのネットワーク・アップグレードを進めており、2002年中盤にはサービスを開始する予定であると言われている。



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